第53話 次なる舞台
「さぁて! 着いたぜ!」
「おお……!」
レンネル大陸出発から約半月。
ハルマ達はとうとう次の大陸、ガダルカナル大陸へと辿り着いた。
「ここがガダルカナル大陸、世界で最も伝承と伝説の集う大陸だ。もちろん、かの伝承の勇者ユウキのことも、この大陸ならいろいろと分かることだろうよ。お前さんはユウキのこと、いろいろと知りたいんだろう?」
「はい!」
ユウキはこの世界で唯一、ハルマと同じように転生をして来た者だ。
元の世界に帰る為にも彼のことを少しだけ多く知っておいて損はない。
だからこそ、この大陸はユウキのことを知るにはうってつけの場所なのだ。
「それじゃあ、俺はここまでだな。また船に乗ることになったら呼んでくれや。その時はまたいつでも操縦しに来てやるからよ」
「はい! ありがとうございました!」
船着き場に船を止め、遂にガダルカナル大陸突入である!
―船着き場―
「ガダルカナル大陸、到着! そりゃあ!!!」
船着き場の木の足場からジャンプで入島。
特に跳ねたことには意味はないが、こうするとなんかテンションが上がるのでそれで良しとする。
何事も気分は大事なものだ。
……もっとも、後ろでそんなハルマを見ているジバ公は呆れていたが。
「はしゃいじゃって……小さな子供かよ」
「良いじゃない、私は凄く微笑ましいと思うよ?」
「そうだね。僕もハルマはもっと年相応の振る舞いをしても良いと思うよ」
「……アイツいくつだっけ?」
どうにも、仲間たちから子供扱いされているハルマ。
ホムラ達はハルマが17歳なのは知っているが、どう見ても扱いが17歳へのそれではない。
どちらかというともう2、3年くらい若い子への対応だった。
「スタッと……、ガダルカナル大陸、入島!」
さて、そんなホムラ達の会話が聞こえていないハルマは、元気よくガダルカナル大陸最初の一歩を踏みしめた。
意気揚々とした雰囲気に溢れるハルマを、ガダルカナル大陸の地面は優しく受け止める。
すると、その時――
『ようこそ。君の来訪を、私も心から待っていたよ』
「……え?」
綺麗な声が響いた……ような気がした。
されど、見渡しても周りには誰も居ない。
居るのは少し距離を置いて歩いているホムラ達だけだ。
「ホムラ、何か言った?」
「え? いいや、別に?」
「そう? ……聞き間違いかな?」
聞き覚えのあるような女性の声が聞こえたと思ったのだが……。
しばらく待ってもそれ以上聞こえてくることもない。
少し考えていたが、結局空耳だったと結論付けることにした。
多分浮かれていたせいで何かそういうのが聞こえてしまったんだろう。
……幻聴が聞こえるとか、普通にヤバい気がするが。
――……落ち着け、よくよく考えて見ろ。俺がこっちの世界に転生してしまった理由も、元はと言えば浮かれたせいじゃないか……。
嬉しいこと、楽しいことがあるとどうにもはしゃいでしまうのは、悪い癖だと一応ハルマも自覚はしているのだが……。
どうにもこうにも、なかなか治せないでいるハルマだった。
……一度死んでも治らないとは、癖とは末恐ろしいものである。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて。それじゃあ先に進む前に、大方この大陸に何があるかを説明しておこう」
本格的に出発する前に、まずはソメイにガダルカナル大陸について教えてもらうことにしよう。
行き当たりばったりよりも、計画を立てて順序良く行った方が、いろいろと都合も良いことだし。
それに、ソメイはこの大陸にある国の騎士だから、彼の情報もちゃんと信頼の出来るものだ。
「まず、このまま歩いていくと一番にセブンドラコの街に着く。セブンドラコがどんな街かは知っているかい?」
「まったく、全然、一ミリも」
「……まあ、そうだろうね。……セブンドラコは世界でも有数のカジノ街さ、たくさんの人が一攫千金を求めて、あの街を訪れるんだよ」
「へえ……、つまり元の世界でいうラスベガスみたいなもんか。……てか、カジノ街って大丈夫なの? またなんか良からぬ感じじゃない?」
「それは心配いらないよ。ワンドライやクノープの旧シックスダラーと違って、セブンドラコはしっかりと管理のされた街だからね。仮に立ち寄ったとしても、安心して構わない。僕としても、少しくらいはカジノで気分転換なんてのも悪くはないんじゃないかな、とは思っている」
「なるほどね」
……もっとも、ノーマル高校生天宮晴馬は賭け事なんてしたことないが。
せいぜいゲームのなかのカジノくらいしか経験がない。
ていうか、こういう所ってマジでスロットとか置いてあるのだろうか?
「そして次が賢者の領域……と呼ばれている場所だ。ここはかつてユウキと共に世界を救った伝承の賢者ガダルカナルが住んでいた場所……と言われている。まあ、特に何かがある訳じゃないけど、少しばかりご利益くらいはあるかもしれないね」
「ホムラも同じ『賢者』だし、確かになんかしらあるかもしれないね」
「例えば?」
「うーん……? 魔力アップとか?」
既に十分な感じなので、これ以上上がっても……と思わなくもないが。
まあまだあるかも分からない話しで盛り上がっても仕方がない。
こういうのを確か『捕らぬ狸の皮算用』と言うはずだ。
「そして次が聖王国キャメロット、言うまでもないが僕が仕えている国だ。……実は今回、少し僕はキャメロットに用もあるんだ。それが次の大陸としてガダルカナルを選んだ理由でもある」
そう、実はこの大陸に来ることになったのはソメイの提案だ。
マルサンク以降どこの大陸に行ったのか分からなくなってしまったグレン。
選択肢としてはここ、ガダルカナル大陸と、もう一つユウキ大陸と呼ばれる場所があったのだが……今回はソメイの提案でこっちに来ることになったのだ。
「用? 実家に顔を出すとか?」
「いや、まあそれもしておくけれどそうではない。実はもうじきキャメロットで新しい騎士の戴冠式が行われるんだ。それで、その戴冠する子が知り合いで……」
「ああ、なるほどね。それで……。ま、別に良いんじゃない? 実際俺達がグレンがどこに行ったか分からないし、キャメロットにもオーブがあるんだろ? ならそんなに身勝手でもないさ。ね?」
「うん。それに一緒に旅をしてるんだから、それぞれの用事くらいは尊重しないとね」
「僕たちも結構ソメイに助けられてるし」
「……ありがとう、みんな」
「ただ……そういうことは先に言っておけよ。隠してるみたいであんまり良くないぞ」
「分かった。今後はそういうことがないようにするよ」
どうも、最近分かってきたことだが、ソメイは天然の他に『話さない性格』な所がある。
別に隠している訳ではないのだが、彼はどうにも聞かれていないことは自分から話そうとしない。
実際ハルマ達は、今も『白昼の騎士』というのが具体的になんなのかを知らないのもその証拠だ。
まあ、別に無理矢理聞き出す必要もないと、ハルマ達は特にソメイに聞いてもいないのだが。
「……さて、それでその次が山脈街エイトス。その名の通り山にある街だよ。ここには聖地フォリスにいらっしゃるフォリス院長と同じ、天恵苗字を持つ人が居るんだ」
「マジか! どんな人なんだ!?」
「その名をムース・ライ・エイトス。持っている加護は『剣聖』、世界有数の超天才的な武器職人さ」
「おお……! 武器職人!」
「かつてユウキが手にした武器も、彼女の祖父が作り上げたものだと言われているんだ。ただ……彼女はとても気難しい性格らしいから、訪れたところで話が出来るかは分からないけどね」
「そっか……」
創作物あるある、『気難しい武器職人』の登場だ。
……寧ろ居るのだろうか、爽やかな武器職人とか。
そういうものに慣れてしまったハルマは、どうにもそんな人物が想像出来なかった。
「そして最後が大陸の北の果て、雪原地方。……極寒の厳しい環境だが、ここにも集落を作り上げ暮らしている人々が居る。なんでも彼らは伝承の時代から、何かをずっと受け継いできている……との話だ。もしかしたら、何か有益な情報が掴めるかもね。っと、ガダルカナル大陸の概要はこんな感じだよ」
「サンキュー、ソメイ。……まあ、概要を把握したところで、道なりに進むことに変わりはないんだけどな」
「それはそうだけど。この先に何があるか分かっている方が気楽でしょ? ……それじゃあ、まず最初はセブンドラコね!」
「よし! それでは、ガダルカナル大陸冒険出発!!!」
そんな訳で、3つめの大陸。
ガダルカナル大陸によるハルマ達の冒険開始である!
―蜃気楼の塔―
「さて、ではそろそろ私も君を歓迎する準備を始めるとしようか」
果ての先にある蜃気楼の塔。
霧に覆われた砂漠の中に、その搭はポツンと佇んでいた。
「振る舞うのはお茶と、少しばかりの会話で良いかな? ……彼の好みに合えば良いけれど」
そんな塔の中でいずれ来る来客者の歓迎を楽しみにするのは一人の女性。
まるで硝子のように、どこか脆さと儚さを感じされる女性……というよりは少女と言うべきか。
実際外見だけ見れば、彼女はまだ20歳にも満たない若い女性だった。
「なに、もう100年もここで待ち惚けているんだ。あと数日、君がここに来るのを待つくらいはなんともないさ」
その言葉誰に向けるでもなく。
されどまるで流れゆく水のように、綺麗に美しく紡がれていく。
「君の来訪、心よりお待ちしているよ。……天宮晴馬くん」
【後書き雑談トピックス】
それぞれの大陸の名前は、ユウキとその仲間の名前と同じです。
つまりは『マキラ』と『レンネル』という仲間もいたという訳ですね。
……自分の名前が土地の名前になるって恥ずかしくないのかな。
次回 第54話「ハルマのカジノ漫遊譚」
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