第54話 ハルマのカジノ漫遊譚

「着いたね」


「おお……、すげえそれっぽいな」


 ガダルカナル大陸到着から1日。

 日が沈みだした頃にハルマ達は大陸最初の街、セブンドラコへと辿り着いていた。


「キンキラと輝くイルミネーション、夜が近くなっても一向に静まらない賑やかさ、道行く人達の豪華絢爛な雰囲気……。カジノ街とはよく言ったもんだな」


「まあ、実際そういう街だしね。多分だけどここが世界で一番お金が流通している街なんじゃないかな」


「そんなに!?」


 ハルマはここを異世界版ラスベガスと認識していたが……もしかしたらここはそれの上をいくかもしれない。

 まったく、異世界は元の世界と比べていろいろとスケールが大きい。

 元の世界の常識が抜けきられないハルマは、どうしても毎回毎回驚いてしまうのだった。


「それで、どうする? 少しカジノで遊んでいくかい? それとも宿で寝泊まりするだけにしておく?」


「そんなの決まってるだろ。せっかく世界有数のカジノ街に来たんだぞ? 遊ぶに決まってんだろが!」


「うん、まあそうだと思っていたよ」


「ハルマだしな」


「良いんじゃない。適度な範囲内だったら、少し遊ぶくらいは悪くないと思うわよ」


 パーティ内の意見も一致。

 誰も反対する人はいない、ならばもう答えは一つだ。

 ハルマ、初めてのカジノデビューである!




 ―カジノ―

「ほわぁぁぁ……」


 そんな訳で、街のど真ん中に豪華に聳え立つカジノの中へ。

 外装もそうだったが内装の豪華さはさらに格別だった。

 目に映る至る所がキラッキラ、そして明るみと金色に溢れておりまさに『豪華』の一言である。


「すっげぇ!!!」


「ハルマはカジノ来たことないのか?」


「ないよ。だって俺の地元カジノないし。ジバ公は?」


「僕がカジノで遊べると思う?」


「……思わない」


 よく考えればそれもそうだ。

 ハルマ達はもう普通に接しているが、ジバ公は世間一般からすればモンスターなのである。

 普通の人と同じ待遇を受けるのは難しいだろう。

 それどころか、なまじ喋れるせいで余計に警戒されてしまったのではないだろうか。

 ならジバ公は今までカジノは疎か、普通の……。


「……、……じゃあ、今日はお前もカジノ初デビューだな!」


「え?」


「俺と一緒になら大丈夫だろ。ちょっと人がいる時は隠れててさ、周りに誰も居なくなったら出てきて遊べば良いんじゃない?」


「――! ……え、ええー、でも僕ホムラちゃんと一緒に居たいしー……」


「なッ! お前、本っ当に素直じゃないな!!!」


 せっかく気遣ってやったのにこの態度だ。

 まあ、ハルマもそれがジバ公の照れ隠しなのは分かっているが……。

 この思春期男子みたいなひねくれっぷりを見過ごす訳にもいくまい。


「この口か! この口がそんなことを言いやが――……お前口どこ? ……、……まあいいか。あれだ! 普段ホムラに対してはメチャクチャ素直なくせに!」


「――! ひふぁい、ひふぁい! ひっふぁるふぁー!!!」


 思い切りジバ公を横に引っ張るハルマ。

 意外とゴムみたいに身体がよく伸びる。

 ……ホント、コイツどういう生命体なんだろうか。


「フフッ、相変わらず仲良しね」


「ホムラちゃん!? これのどこは仲良しに見えたの!? 仲良しどころか暴力だよ! 家庭内暴力! これは正式に訴えるべきだと思うんだけど!!!」


「暴力じゃなくてお仕置きですー。お前ちゃんが捻くれたこと言うのが悪いんですー」


「僕口でしか言ってなし! 手出してないし!」


「お前そもそも手ないだろ」


「あはは……」


 カジノに来ても相変わらずな2人。

 そんなハルマとジバ公をホムラは微笑ましさ半分、呆れ半分といった感じで見守っていた。

 と、そんな時、ようやくソメイが戻ってくる。


「ごめん、混んでいて少し遅れてしまった。はい、コインを貰って来たからこれで好きに遊ぶと良い」


「! サンキュー!」


 ソメイはハルマとホムラに一人50枚ずつコインを渡す。

 確かコインは1枚10ギルト(元の世界で100円)だから……100枚で1万円か。

 思いのほか結構な金額をソメイに使わせてしまった。


「自分で来たいって言ったんだけど……なんか悪いな1000ギルトも使わせちゃって」


「気にすることはないさ。僕の使いたいように使っただけだからね、変なところで無駄遣いしてしまうよりよっぽど有効な使い方だよ」


「……やっぱ凄いな、お前。あとさ、ソメイはカジノしないの?」


「え? ああ、僕はほら、騎士としての立場があるから一応ね」


「……」


 つまり、ソメイはここに来るメリット1個もなかった。

 いや、寧ろお金が減るからデメリットがある。

 それなのに彼は嫌な顔一つせずに付いて来てくれたのだ。

 ならば……。


「良ぉし! ここは大勝してソメイに恩返しするぞ!!!」


「……出来るのか、お前に?」


「……」


 現実がどうかは置いてといて。

 意気込みだけは人一倍強く挑むのだった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「で、何しようか」


 カジノに来て、コインを入手したのはいいのだが……。

 何をすれば良いのだろうか。

 周りにはスロットに、ルーレットに、トランプ台だったりといろいろ有り過ぎてどれが正解なのか全然分からなかった。


「ジバ公、これどこが最適解なん?」


「うーん……、まあ無難に最初はスロットが良いんじゃないかな。運任せだけど、その分実力は必要としないし」


「なるほどね」


 ちなみにホムラ&ソメイはルーレットの方に言っていた。

 ホムラ曰く「ルーレットってカジノの代名詞みたいなもんじゃない」とのこと。

 実際そこらへんどうなのかは知らないが。


「じゃあ、まあアドバイスに従って俺らはスロットにしますか」


 そんな訳で手近なスロット台へ。

 まずはコイン1枚から始められる1コインスロットから挑戦だ。


「で? ハルマルール分かってる?」


「流石に知ってるよ。絵が揃えば良いんだろ?」


「うん、まあそうだな」


 これくらいはRPGの知識でなんとなく分かっている。

 コイン入れて回して777が出たらラッキー! といった感じだ。

 ……まあ、それ以上は知らないのだが。


「……ガチでやるなら当たりが出やすい台とか流れとか考えるんだろうけど。まあ、ハルマはそんなこと気にしなくてもいいだろ。ちょっとしたお遊びで来てるんだし」


「それもそうだな」


 てなわけで、スロットにコインを1枚投入。

 まずは慎重に真ん中のラインだけ賭けることにした。


「行け! スイッチオン!!!」


 元気よくスイッチを入れるハルマ。

 すると真ん中の絵柄はクルクルと回り……。


『7 7 7』


「……ん?」


 止まった時には7がたくさん並んでいた。


「あれ? スロットって確か……7が一番良いんだよな」


「そうだよ!? お前、ええ!? マジか!?」


「え? ……おうわ!?」


 次の瞬間、スロットが大量のコインを吐き出す。

 777の倍率は1000倍だ。

 つまり……ハルマ、初手でいきなりコイン1000枚獲得である。


「おお! ラッキー!」


「すげえなお前! どういう運の良さしてるんだよ!? 初手777とか縁起良すぎない!?」


 もちろんジバ公は大騒ぎ。

 当たり前だ、このカジノにいる人たちが一体いくら賭けてこの数字を出そうとしていることか。

 それをハルマはたった1枚で成し遂げてしまったのである。


「これあれかな。もういきなりだけど10コインに移ってもいいかな?」


「ま、まあ……良いんじゃない?」


 1コインスロット、1回で終了。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 さて、そこからもハルマのスロット無双は続いていく。

 まず最初に777を出したことで流れに乗ったのだろうか、流石に777連発なんて馬鹿みたいな事態にはならないが……。

 どう足掻いても確実にコインが増えていくのだ。




「この丸いマーク3つは……100倍か! じゃあコイン1000枚またゲットだな!」


「はあ!?」



「ねえ、ジバ公。ちょっと5ラインに掛けてみたらいろいろ当たったんだけど」


「ちょ、ちょっと待てよ!? 揃ったのが月と太陽と王冠だから……合計2700枚!?」


「おお……凄い出てきたな。100コインスロットに移るか?」



「なにこれ? BARって書いてるけど」


「それは500倍の役だよ!!! 100×500だから……5万枚!? お前どうなってんだよ!? ぶっ壊れてんのか!?」




 さて、スロット回し始めて30分くらい経過しただろうか。

 ハルマの手持ちコインは最初の50枚から……。


「……、……」


 10万枚にまで増えていた。

 その数、実に最初の2000倍である。

 恐ろしいのがこれらは全部スロットで当てたコインだということだ。

 つまり全て『運』によるものということである。


「……お前あれなの? 変な電波かなんかでスロットマシン壊してるの?」


「そんなことしてないわ!!!」


「でもないとおかしいだろ!? なんだ!? こういうのでマジで一攫千金する奴初めて見たわ!!!」


 間近で見ていたジバ公も不正を疑うレベルだった。

 ……だが、カジノ初めての『最弱』ハルマがそんな不正なんて出来るはずもない。

 即ち、これはどう足掻いてもハルマの奇跡的豪運が齎した結果だと認めるしかないのだ。


「なんでだよ……なんでお前ステータス全部『幸運』に振っちゃたんだよ……。それだけ運良いならもっとどうにか出来ただろ……」


「んなこと言われても……」


 さて、ハルマは再びコインを手に取りスロットマシンへ。

 正直あれはもうスロットマシンではなく、ただの金を吐き出す機械でしかなかったが。


「お客様」


 ところが席に座る前にハルマは一人の男に呼び止められる。

 当然だ、こんだけ馬鹿勝ちしていれば彼らも黙っていないだろう。

 つまりハルマを呼び止めたのはあカジノ側の人間である。


「もしよろしければ、あちらの台でポーカーなどいかがですか?」


「なるほど、それも確かにいいかも。じゃあそうします」


 ――あ、これはカジノ側が本格的に潰しにきたな……。


 ジバ公はいち早く事態を察したが……。

 流石にどちらかというとカジノ側にも同情出来たので黙っているのだった。




 ―ポーカー台―

「いいかお前ら、今回はだけはどんな汚い手段を使っても構わねえ。あのガキからコインを根こそぎ奪い取るんだ……! さもないとこのカジノは確実に死ぬ!!!」


「任せときな。カジノ熟練者の俺達が子供に現実を見せてやるぜ」


「ああ、頼んだぞ! 上手くいけば謝礼はたんまりと出してやる!!!」


「……」


 カウンターの中で行わるマスターとごろつきの黒い会話。

 もちろんこんなの不正だし、なんならジバ公にはちゃんとそれも聞こえていたが……。


 ――まあ、是非もなしか……。


 特にハルマに伝えるつもりもなかった。

 なんか、カジノ側も可哀そうだし。


「で、では。カードを配りますね」


「おなしゃーす!」


 さて、何にも知らないハルマは意気揚々とポーカーに挑む。

 ちなみにハルマはどんな役があるかくらいしか知らない。

 普通に考えれば即負けるカモなのだが……。


 ――まあ、油断は禁物ってところだな。相手がガキだからって俺らは容赦しないぜ。


 周りのごろつき達は一切容赦しない。

 出来る限りの努力と運(そして不正)を行い、ハルマを叩き潰す!!!


「では、カードを出してください!」


「フラッシュ!」


「フルハウス!」


「フォアカード!」


「ストレートフラッシュ!!!」


 狙ったかのように繰り出される高い役の数々。

 普通に考えればどっかで絶対になんかしているのだが……知識がないハルマは気づかない。

 それに……。


「ロイヤルストレートフラッシュ」


「……、……はあああああ!?!?!?!?!」


 それ以上に強い役を持っていたから不正だなんだと騒ぐ必要もなかった。


「これ、俺の勝ちですよね」


「そ、そうです……ね……。おめでとう……ございます……」


「……」


 ハルマ無双、再開。




 ――今度はトランプを詰めておいた……! これであのガキの所にはクソみたいなカードしか行かねえはずだ!!!


「あ、これはストレートフラッシュか」


「なんで!?」



 ――袖隠しカードで無理矢理役を作った! 俺がロイヤルストレートフラッシュを出せば流石にあのガキも!


「ロイヤルストレートフラッシュ!!!」


「ロイヤルストレートフラッシュ」


「あいこだとぉ!?」



「ロイヤルストレートフラッシュ」

「フォアカード」

「ロイヤルストレートフラッシュ」

「フルハウス」

「ストレートフラッシュ」


 ……。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 さて、あれから約30分。


「……お! これはフルハウスか!」


「マジでお前どうなってんの?」


 ハルマのコインはもうすぐで100億枚になろうとしていた。

 あれからごろつきとマスターは様々な手段を使ってハルマを負けさせようとしてきた。

 がしかし、どうやっても作戦は成功しない。

 まず、ハルマがフルハウスより下の役を出さないのだ。

 つまり彼らはまずスタートラインとして、そこを越えないといけないという無理難題を与えられているのである。


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ!?」


 止められない。

 あらゆる不正を疑い徹底的に観察してみても、『最弱』の拙い手つきな彼に不正をする余裕なんてない。

 運、全部全部運なのだ。


「マスターさん?」


「……」


 なら、もうマスターが取る行動は一つしかなかった。


「お願いです、お願いです……。どうか、どうかお慈悲を、ご容赦を……」


「え? ど、どうしたんですか?」


「このまま貴方に勝たれてしまえば……このカジノはもう終わりを迎えるしかありません……。どうか、どうかお願いします……。お慈悲を……お慈悲を……」


 ハルマに泣きつくしかない。

 公然的なカジノである以上暴行や脅迫は以ての外だ。

 なら、もうハルマに土下座して泣きつきながら懇願するしかないのだ。

 そうでもしないと、明日からセブンドラコは滅亡の街になる。


「ジバ公、これどういうこと?」


「……お前が勝ち過ぎなんだよ。それでカジノのお金を根こそぎ分捕っちゃった訳。コイン1枚10ギルトだろ? お前は今約100億枚コイン持ってるから、カジノからすれば1000億ギルト持って行かれるんだよ」


 1000億ギルト、元の世界の値段に合わせると1兆円。

 なるほど、確かにそんなことになれば流石にカジノも滅ぶだろう。


「えっと、じゃあ……」


「……」




「ソメイに返す1000ギルトと、俺の最初のバイト代の7万ギルト。つまり合計7万1000ギルトだけくれたらあとは良いですよ」




「……え?」


「え? もしかして返すのじゃダメなんですか?」


「……、……はあああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!」


 会場、大驚愕である。


「え、何!?」


「え!? 本当に! 本当に良いんですか!? 1000億ギルトを7万1000ギルトまで減らして良いんですか!?」


「え、別に良いですよ。俺そんな守銭奴じゃないし」


「ありがとうございます! 神だ! 貴方様こそ神だ!!!」


「!? ……!?」


「ハルマ、お前さぁ……。まあ、別に良いけど……」


「何!? なんなの!?」


 結果、ハルマはバイト代7万ギルトを取り返し、ソメイにも1000ギルトを返却。

 そしてカジノは滅亡の危機を脱し、ハルマを神と崇めることになるのだった。




【後書き雑談トピックス】

 ちなみにホムラは初手のルーレットで負けました。

 あと今回のサブタイトルが「○○の街 セブンドラコ」じゃないのは、単純にセブンドラコが一話しかないからです。

 特に深い意味がある訳じゃない。



 次回 第55話「賢者の領域」

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