第87話 おん・ざ・しっぷ えぶりでい Ⅶ
【前書き】
またもやショートショートなのです。
どうぞよろしく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【ど う し て】
「~♪」
「ん?」
マキラ大陸への船旅を続けるある日。その日は天気が良かったので、ハルマはデッキにて潮風に当たりに来ていた。
しばし暖かい日差しと気持ちいい潮風を堪能しながら歩いていると、ハルマと同じくご機嫌なホムラを発見。
どうやらその様子からして……、
「ホムラ、絵描いてるの?」
「そうよ。実はね、私絵描くの得意なの」
「へえ、それは知らなかった」
まあ、旅の中で絵を描く機会なんてあまりないのでしょうがない話でもあるが。
しかしホムラに芸術のセンスがあったとは……失礼な話だが、そこにはちょっと驚いたハルマだった。
「……で? じゃあそこにつっ立てるジバ公はモデルなのかな?」
「うん。頼んだから快く引き受けてくれたから」
「ホムラちゃんの絵に描いてもらえるとか……今、僕嬉しすぎて死にそうです。いや割と本気で」
「もしかして遺影描いてるの?」
死因:遺影。……間違いなく世界初の死因だろう。
てか、死んだ後に必要になる遺影を生きている時に用意した結果死ぬってどうなのさ。なんか凄い本末転倒な感じになってるような気がするんですが、それは。
「……と、ここをこうして……うん、出来た!」
「お」
なんて、馬鹿馬鹿しいことを考えていたら絵が完成。
ふんす、とホムラの自慢げな様子からして、どうやら良い感じの仕上がりになったようだ。
「どれどれ、おじさんに見せてごらん」
「あ、こらお前! 絵を見るのはまず僕からだぞ!!!」
「ああこら、二人とも焦らないで。急がなくてもちゃんと見せてあげるから」
「あ、ごめん。……じゃ、早速見せてくださいよ!」
「はいはい。……では、これが私の描いたジバちゃんです!」
「おおおおおぉぉぉ……? ……、……」
「あれ? どうしたの、二人とも?」
分かりやすくダウンしていく二人の声の高度。
最初は期待に満ち満ちていた二人の顔も何故かどんどんと萎れていく。……なんか、こう、疑問に満ちたみたいな表情になって。
「……。……えっとさ、ホムラ」
「ん?」
「これ……ジバ公描いたんだよね?」
「そうだけど?」
「……そう、だよな。そうなん……だよな」
「?」
ホムラは本人は何の疑問もないようだが……ハルマとジバ公はその絵を見て訝し気な表情をし得なかった。
だって、そこに描かれていたのは……なんか、こう……よく分からないぐちゃぐちゃな塊だったのだから。例えるなら、こう……床に落として汚れまくった粘土をそのまま絵にしたみたいな……。
「えっと……ちなみに、ホムラ的にこの絵は何点ぐらいかな?」
「え? そうね……うーん、83点くらいかな?」
「結構高得点だな! ……だってさ、ジバ公」
「ふ、普段からホムラちゃんには僕ってこう見えてるの!?」
「え?」
さっきまでの幸福感は一体どこへやら。
ジバ公はこの世の終わりみたいな顔をしながら一人悲しく項垂れるのでした……。
【やはり……】
「……出来た。シャンプー、ぬいぐるみ出来たよ」
「! ありがとうございます! ハルマくん!」
ハルマの言葉を聞いて彼女はその顔に満面の笑みを浮かべる。
ハルマからシャンプーが貰ったのは、ハルマお手製の柴犬ぬいぐるみだ。それは個人的に作った物とは思えないレベルの出来栄えであり、これにはシャンプーも大満足のご様子。
「……シャンプー、犬好きなの?」
「はい! このコロコロした愛らしさが何とも言えなくて……」
「そっか。……」
まあ、お手製のぬいぐるみを喜んでくれているのは素直にハルマも嬉しいのだが。
生まれた時から生粋の猫派のハルマからすると、今の言葉は少し複雑な気分になるものだった。
……古来は赤き魂の時代から繰り広げられし因縁の戦い、『犬か猫か』。
どうやらその争いはこの世界でも避けることは出来ないものらしい……。
「? どうしました、ハルマくん。なんか凄い変な顔してますよ?」
「え? あ、えっと気のせいだよ。気にしないで」
「そうですか? まあ、それなら良いのですが。……それにしても、ハルマくんは裁縫も得意なんですね」
「あ、うん。まあね。ていうか、家庭科系なら大体なんでも出来るよ。料理、裁縫掃除、洗濯……後は花壇の手入れとかも。単に花を育てるって言ってもいろいろとやり方があるんだ。ああ、後は買い物もね。例えば風呂の石鹸とかも種類によって髪質とかに変化が――」
「……、……」
「……ん? どした? なんで急に沈黙する?」
何故か突然黙り込んでしまったシャンプー。そのじっとした様子はさっきまではしゃいでいたのがまるで嘘のように思えてくるほどだった。
……これは、何か地雷を踏んでしまったのだろうか。
……、……まさか!!! 今のトークを風呂の石鹸=シャンプーのクソつまらないギャグだと思われてしまったのか!?
「……ハルマくん」
「あ、いや、その! 今のはそういうつも――」
「……ハルマくん、なんでそんなに女子力高いんです?」
「……え?」
と思ったら全然違う質問が飛んできた。
良かった、どうやらクソみたいなギャグだと思われてしまった訳ではないようだ。……いや、本当に良かったよ、うん。
「なんでって言われてもな……。生まれつき、としか言いようが……」
「!? 生まれつきってことは……! や、やっぱりハルマ君は女の子で……!」
「いや、またそれ!? もうその話題はいいから! 何度も言うけど俺は男! なんでいつもそうなるの!?」
「いや、だってハルマ君男の子らしさとか全然なくて……。あ、そうだ。じゃあ今度ちょっと試しにメイド服着て一日奉仕活動してみてくださいよ。絶対違和感ないと思うので!」
「死んでも断る!!!」
【まあ結果的には】
「……おっと」
「……! 大丈夫、ソメイ!?」
「ああ、うん。問題ない。心配かけてごめんね、ホムラ」
若干おぼつかない足取りで歩くソメイ。そんな彼の顔をよく見てみれば、そこには大きなクマが出来ていた。
少し疲れている様子からしても、どうやら寝不足のようである。
「貴方、最近ちゃんと寝てる? 結構目の下が凄いことになってるわよ?」
「ああ……うん。実は、正直言うとあまり眠れてはいない。仕事というのもあるんだけど、それ以上に僕は昔から眠るのが下手でね……。夜になってもなかなか寝付けないんだ」
まあ、つまりは不眠症である。
どうやら遥か遠い世界でもこちらと同じような症状に悩まされる者は居るらしい。人間って意外とどこに行っても変わらないものだ。
「それは大変ね……。そうだ! じゃあ私が子守唄歌ってあげる!」
「え? いや、気持ちは嬉しいけど、そんなことの為にホムラの時間を使わせるのは……」
「遠慮しないで。実は私、歌は結構上手なのよ」
「そうなのか。……じゃあ、少しだけお言葉に甘えようかな」
「うん、分かった。じゃあ聞いててね」
「え? ここで歌うのk――
「(※健康と安全の為、ミュートでお届けします)」
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
瞬間、その場に響き渡る『何か』。
それは歌とは程遠い……ゴキブリとか南京虫とか退治できそうな狂音波としか言いようがない『何か』であった。
そしてそんな『何か』は疲れ切ったソメイの耳の中へと容赦なく侵入していき――――ぁ。
「」
「……あ、あれ? ソメイ?」
「」
「え、もしかしてもう寝ちゃったの!? しかも立ったまま!? ……貴方、どれだけ疲れてたのよ……」
もちろんホムラは自分がトドメを刺したことなど気付くはずもなく。
……まあちゃんとソメイも眠れた(気絶した)し、ホムラも良い事して気分はいいので結果的にはオーライなのではないだろうか。うん、そういうことにしておこう。
【誕生日】
「ねえ、みんな」
「ん?」
「……完全にタイミング逃したけど、そういえばこの間ソメイの誕生日だったんだよな」
「あ」
ハルマの言葉に戦慄するソメイを除く一同。
そう、何を隠そう先日4月9日はソメイの誕生日である。……もうあれから2週間経っているが。
「こういうのってさ、今からでも遅くないと思う?」
「えっと……うん……! そう、こういうのに大事なのは気持ちよ! 時期や時間ではないわ! どれ程相手を祝う気持ちがあるかなのよ!」
「流石、ホムラちゃん良いこと言うね!」
「あはは……。でも、まあ確かにホムラさんの言う通りですね。おそばせではありますが、誕生日パーティー開催しましょう!」
「だな!」
であれば、こういう時こそ仲間達で協力し一致団結だ!
それぞれ役割分担して、パーティー開催の準備を整えるぞ!
「まずは料理!」
「これはハルマが良いんじゃない?」
「ですよね! ……なら、次は飾り付け作成!」
「これは……器用なハルマが一番なんじゃね?」
「確かに。……えっと、部屋の掃除!」
「それもハルマくんが一番得意なのでは?」
「……。あ! 作った飾りの飾りつけは!?」
「それも……」
「……」
「これ……もしかして俺一人で十分かな? ……何の仕事を考えても、結局俺が一番適性高いような気が……」
「そう……ね」
……一致団結、早くも崩壊。
【大事なのは気持ち】
さて、そんな訳で自分達には出来ることはないと悟り、邪魔にならないよう移動したホムラ達3人。
……だが、この程度で諦めるような彼女たちでもなかった。
「パーティー関連で私達に出来ることはない。でも! 他の事ならあるはずよ! 例えば誕生日に一番大切な……プレゼントの用意!」
「えっと、それは確かに大事なのですが……。この海の上でどうやって用意するんです?」
シャンプーの意見はもっともだ。
今、ホムラ達はマキラ大陸を目指して船旅中、つまり店に買い物になどは行けないのである。
こんな状態ではプレゼントの用意なんて……。
「大丈夫よ! 釣り竿借りてきたから」
「……え?」
「これで何を釣って、それをプレゼントしましょう」
「……え、本気ですか?」
「本気だけど?」
「おお……マジかホムラちゃん……。いや、そんな発想もまたたまらなく可愛いけど……」
どうやら、ホムラさんはマジでこの方法で行くつもりらしい。
……さあ、果たしてソメイは生魚をプレゼントされて喜ぶことが出来るのだろうか。
【大人】
「……」
「……ソメイ、気持ちは分かる。『サプライズパーティーでーす!』からの見たこともないグロい深海魚擬きプレゼントで困惑するのは分かるんだ」
「……」
「でも、出来れば今は喜んでやってくれないか。……その、当の本人に一切悪意はないんだ」
「……ああ、分かっている、分かっているとも。実際、その気持ちはとても嬉しい。……気持ちは」
「……」
複雑な心境のソメイ。だが、彼はきっとこんな気持ちも乗り越えていくことだろう。
……多分人はこうやって大人になっていくのだ。それが、この日ハルマの得た教訓だった。
【少女の真実】
「ハルマくん、今日の料理にはルコルの実は入っていないんですか?」
「いや……あのね? あれは事故だから、故意的にやった訳じゃないから。流石に今回は入ってないですよ」
「そうですか……」
目に見えて落胆するシャンプー。
その様子はそれはそれは残念そうで、なんだか見てるこっちが申し訳なる程……いや、違う。そうじゃないだろ。
「いや、なんで残念そうなの?」
「そのですね、あれが入っていると人前でも堂々とハルマくんと接しょ――いえ、なんでもないです」
「……今、なんか言いかけなかった? え、何? もしかしてあのとき実はシラ――」
「ん?」
「……いや、だからあのt――」
「ん?」
「……」
何か……都合の悪い事に気づいてしまったのだろうか。突然、シャンプー超笑顔で「ん?」としか言わなくなってしまった。
……笑顔の圧力が怖い。
【不可能】
「……ハルマ、この魚――」
「先に言っておく、無理。流石に俺だってなんでも美味しく出来る訳じゃないから」
「……そ、そうか。それは……申し訳ない事を聞いてしまった」
と、ハルマに謝罪した後、ソメイは再び手に持つグロい生魚に哀愁に満ちた視線を向ける。
ほんと、『好意的にくれた要らない物』の、なんと質の悪い事か……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【後書き雑談トピックス】
たった一話で超絶ポンコツを連発するメインヒロイン。
まあ、前の料理下手の当たりで片鱗は見えていましたが。
ちなみにハルマの天職は『メイド』です。いや、マジで。
なお、残念ながら『執事』はいい線行っていたが、悲しいことにカッコよさが足りなかった。故に彼は『メイド』になるべきなのだ。
次回 第88話『集落ナインライブス』
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