第109話 意外な再会、予想外の力

「シャンプー、お待た……あれ?」


 シャンプーの背後で見えない男の声が響いてから数分後。無事トイレを済ませたホムラが部屋に戻って来た。

 がしかし……何故か部屋には待っているはずのシャンプーの姿がない。


「シャンプー何処行ったのかしら。私がトイレに行っていたからそこではないはずだけど……」


 別に部屋を開けている間に何処かに隠れた、とか茶目っ気のあるようなこともなく。シャンプーは本当に居なくなってしまっている。

 そんな待ち惚ける程は長く部屋を開けた訳でもない(と思う)のだが……もしかして、待っている間に誰かに呼ばれたりしたのだろうか? ……いや。もしそうなのであれば、


「あの子の性格から考えて、書置きくらいはすると思うんだけど……」


 そう、真面目な性格のシャンプーならきっとそうするだろう。少なくとも何も言わないで何処かに行ったりはしないはずだ。

 だが、現状は実際に何のあれもなし。故にホムラにはシャンプーが何処に行ったのか、まるで分からない。


「……。……なんだか、ちょっと嫌な予感がする」


 少し眉間にしわを寄せながら、ホムラは一人そう呟く。それは実際、今までの旅からしても大体こういう事があった後は何か面倒なことが起きてきたからだった。

 そして、まあなんとも残念なことに。やはりその予感は今回も当たっていた訳でして……。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「どこにも居ない……ね」


「……」


 シャンプー失踪から約30分後。探せどもシャンプーがまるで見つからない状況を前に、ソメイは小さなため息をつきながらそう言う。

 まあ、一応現在もまだ街の人達による捜索は続いているのだが……多分、見つかることはないだろう。何故なら、そもそもシャンプーが一人でそんな変な場所に行くとは到底思えないからだ。

 つまり、今回のこの事件はそもそもシャンプーが自らの意思で行ったものではなく――、


「……誘拐、ってことか?」


「恐らくはね」


 ……最終的に、こういう結論に至るのだった。

 まあ、ハルマも少しは『いくら何でも発想が飛び過ぎじゃね?』と思わなくもないのだが、だとしても他に結論が思いつかないのだ。

 だってシャンプーが一人で街を出ていったにしては、いくら何でもこれは唐突過ぎる。それに、


「……今、テンガレットは街中『焔祭り』で大賑わいだ。なら、悪辣な考えではあるが、確かに悪事を働くなら今がチャンスなのかもしれないね。それに、祭りの中心人物である巫女姫を誘拐すれば、かなりの身代金を請求できるのも事実だ」


 そう、実際今は誘拐など悪事を行うにはピッタリのタイミングなのである。

 ならば悲しいことだが、このように誘拐事件などが起きてしまっても普通よりかはまだ理解出来る。……のだが、


「ああ、そうだな。……そう、だからこそ謎なんだ」


「そうね……、そうなのよね。何で犯人は――」


「何で犯人は、シラヌイさんでもホムラでもなく……。シャンプーを誘拐したんだ?」


 動機とタイミングは何とも悪辣ながらも、同時に狡猾であったこの誘拐。故にこそハルマ達はこの点が不思議でならない。


 ――何故、犯人はこの状況でシャンプーを誘拐したのだろうか?


 いや、そりゃもちろんシャンプーなら身代金払わない、なんてことは一切ないのだが。だとしてもこの状況で誘拐するなら普通は巫女姫たるシラヌイだろう。それか、まだ巫女服着ているから勘違いしてホムラ、というのもまあ理解出来る。

 だが、今回誘拐されたのはそのどちらでもないシャンプーだ。一体犯人は何故、ここまでしっかりしたタイミング&実際に誘拐を成功させる実力がありながらわざわざシャンプーを誘拐したのだろうか……。

 あと、誘拐してからもう30分以上経つのに、何の音沙汰がないのも何故なのか。流石になんか言ってくれないとこちとら身代金を用意すら出来ないのだが。


「……分からない。騎士としてそれなりに多くの事件に関わってきたが、ここまで不可解な時間は初めてだよ」


「マジか、あの騎士王ソメイすらお手上げなのかよ……」


「ああ、申し訳ない。……あと、前にも言ったことだけど。出来れば僕のことを『騎士王』と呼ぶのは止め――


「ねえ、これって実はもの凄く大変なことになってしまったんじゃない? もしかしたら犯人は私達の思いも着かないような何かを企んでいたりして……」


「なッ!? そ、それは例えばどんな!?」


「いや、それが分かったら『私達の思いも着かないような何か』じゃないでしょ」


「あ、そっか」


 (ソメイの言葉を遮って)少し冷や汗をかきながらホムラはそう言う。

 ……確かにホムラの言う事もあり得ない、とは言い切れない。実際犯人にはこっちの想像を超えた何かがあって、わざわざシャンプーを誘拐したのかもしれない。なら早く連れ戻さないと、最悪大変なことに……。


「ああ、くそ! でも連れ戻そうに手掛かりがないんだよな……! ちくしょう、なんで誘拐したのに何にも言ってこないんだ!? ……もしかして、これも作戦か!?」


「――! つまり、焦らしてるってこと!?」


「そうかもしれないし……。これは僕の推測だが、そもそも何か要求するつもりはないのかもしれないね」


「ッ! 確かに、そうかもしれない……」


「……」


 犯人の考えが読めず、段々と話がネガティブな方向に進んでいくハルマ、ホムラ、ソメイの3人。だが、不安と心配が大きくなったところで、やはり手掛かりがない以上は探しようがない……。


 ――と、思ったその時。


「すみません! 少し良いですか!」


「……っと。どうしました?」


「その。実は少し、奇妙な物を見つけまして……」


「奇妙な物?」


 ハルマ達の元に、シャンプーを探してくれていた神主がやって来た。

 何でもその様子からして手掛かりと思われる、何かを見つけたようだが……?


「ええ、はい。ですが私共にはあれが手掛かりなのかどうか、いまいち判断しかねまして……。ぜひ、実際に見ていただけませんか?」


「はあ……」


 一体、何を見つけて来たのだろうか。

 疑問に思いながらも、ハルマ達は神主についてテンガレットの街の外れに向かって行った。


               △▼△▼△▼△ 


「……これ、なのですが」


「これは……氷?」


 そして、付いて行った先にあったには……確かになんとも奇妙な物だった。

 それは街の外に続いていく長い長い氷の線。まるで誰かが氷の糸を引っ張って行ったかのように、その氷は地面にずらっと生えていた。


「これはもしかすると、シャンプーさんが残した手掛かりなのではないでしょうか?」


「……なるほど。うん、確かにそれはあり得る。実際、この氷はこの温暖なテンガレットでもなかなか溶けない特殊な氷だ。そんな氷を作り出せるのは『氷炎舞流』の使い手であるシャンプーくらいだろう」


 氷を手に取りながら、まるで探偵のように推理していくソメイ。

 なんだかそんな姿も様になっているように見えてしまうのは、彼が故になのだろうか。……なんとも羨ましい体質だ。


「? どうかしたのか、ハルマ」


「なんでも。気にしないでくれ、ジバ公。……で、そういうことなら早速氷を追って行こうぜ。何か、良くないことが起きてからじゃ、取返しがつかないしな」


「そうね。……すみません、そういうことなので。ちょっと私達はこの氷を追ってみますね」


「……わ、分かりました。どうかお気を付けて。私達はもう一度街を探してみますね」


「はい。ありがとうございます」


 そんな訳なので、街は神主たちに任せて問題ないだろう。

 ならばハルマ達は安心してこの氷を追って行ける訳だ。もちろんこれは罠の可能性もなくはないが……今が他に手掛かりがない以上。この氷を辿るしかないだろう。


「良し……! それじゃあ行くか!」


「ああ!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 そんな訳で、シャンプーが残したと思われる氷を辿っていったハルマ達。

 そして彼らがその先に行き着いたのは――、


「なあ、このデカい山って……」


「ああ、間違いない。ここは『テンガレット活火山』だ。そして、どうやらこの氷はこの山に続いているらしいね」


 そう、街からもよく見えていたテンガレット活火山だ。


 ……なるほど。

 テンガレットから少し遠目に見ていた時もなかなか迫力を感じたが……、こうやって目の前にまで来るとそれも街の時とは段違いだった。……富士山も近くで見たらこんな感じなのだろうか。


「エイトスの時の山とは比べ物にならないな……。……で? えっと、この感じはもしかして……これを登っていく感じ?」


「……そう、だな。まあ多分山頂までは行かなくてもいいと思うけど……。ハルマ、お前大丈夫なのか?」


「……分かんない」


「……」


 ハルマの返事に不安そうな顔をするジバ公。

 実際、ハルマも最近は旅慣れしてきて、少しの移動くらいではへこたれなくなったのだが……。それでも流石に山登りはキツいものがある。というか現にエイトスの時もそうだった。

 では、果たしてそんなハルマは、この富士山擬きみたいな山を登って行けるのだろうか……。


「お、おのれ誘拐犯! なんでこんな面倒な所に!!!」


「まあ、普通に考えて『面倒な所だから』なんじゃねえの?」


「……」


 ……ジバ公の正論が刺さる。


               △▼△▼△▼△ 


「……ふぅ、着いたね」


 さて、そんな訳で急遽行われたテンガレット山登り。それは一応幸いなことに、山頂まで続くことはなかった。……まあ、それでも3分の1くらいは進むことになったのだが。


「ここだね、この洞窟に氷が続いている」


「うん。まあそれは良いんだけど……」


「……ああ」


 氷の線が続く洞窟の前で、そっと後ろを振り返るホムラとソメイ。その視線の先には……、


「はぁ……はぁ……。いや……、普通に考えて……準備なしで……山登りは……キツいって……」


「ほらほら。あと少しなんだし頑張れ」


「くそ……。お前……自分で歩いてないくせに……」


 まあ、案の定と言ったところか。

 そこには、やはりバテバテになったハルマの姿がありました。


「ああぁぁぁぁぁ……やっと、着いた……」


「お疲れ様。でも、まだここで終わりじゃないからね?」


「……ああ、うん、はい」


 厳しい現実を前に、表情がどこか朧げになるハルマ。

 まあ、ホムラ達もその気持ちが分からない訳ではなのだが……ここは我慢してもらうしかない。今は何よりもシャンプーの事を優先させるべきだろう。


「大丈夫? それとも、ここで待ってる?」


「それなら俺ここに来た意味なくない!? 行くよ! ちょっと辛いけどね!」


「……ああ、やけくそだな」


「うるさいよ」


 重い身体をなんとか起き上がらせ、悠々と洞窟を見据えるハルマ。

 さて、果たしてこの洞窟に潜む犯人は一体何者なのか。ハルマ達は少しの不安に心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、洞窟へと入っていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……」


 そんな訳で、洞窟に入っていったハルマ達だったのだが……。


「お前ら馬鹿かっつーの! あれほどこの置き手紙を置き忘れるなって言ったのに! これじゃあ何処で、いつ、いくらの身代金を要求しているのか向こうも分かんねえじゃねえかっつーの!!!」


「すみません……。でも、それなら兄貴! 今から俺がこの手紙を街に届けてきますよ!」


「いや、アホかっつーの! そんなことしたら一発で捕まって終わりじゃねえかっつーの! そもそも自分で身代金請求の手紙届ける盗賊が何処に居るんだっつーの!」


「え? じゃあ郵便局ですかい? それなら切手買わないとな……」


「そうじゃねえっつーの! あと、なんでわざわざ律義に切手なんか貼るんだっつーの!!!」


「……」


 聞こえてきたのは漫才のような会話だ。

 どうやら兄貴分が子分たちに説教をしているようなのだが……なんだろうか、相手は悪人のはずなのに妙に同情心が湧いてくる。多分、この感じだと普段からいろいろ苦労してるんだろうなぁ……。


「……あれだね。悪人には悪人の苦労あり、ということなのかな」


「それは出来ればこいつ等だけであってほしい……! 実は、某宇宙の帝王とかも裏でこんな感じ……とかだったら凄え嫌なんだけど!」


「誰だよ、宇宙の帝王」


「3回変身する冷凍庫」


「は?」


「いや、実際そうなのよ……って、今はそんなことはどうでも良いんだ。声の大きさ的に多分そろそろ鉢合わせると思うけど……準備は良い?」


「ああ、いつでもいけるよ」


「うん、私も大丈夫」


「え? あ、えっと僕も大丈夫だけど……。それより冷凍庫って一体ど――


 さて、一人まだ謎が解決していない奴は居るが……まあ、それはほおっておいていいだろう。ならば、もう突入準備は完了だ。てな訳でハルマ達は迷いなく盗賊たちの居る洞窟の部屋に入っていった。


「誘拐犯! 誘拐犯は居るかー!?」


「へあっ!? な、なんだっつーの!?」


「なんだかんだと聞かれたら……と、長いから以下省略! 俺達はお前らをとっ捕まえに来たモンだ! ……え? 捜査令状? 持ってませんけど?」


「そんなこと聞いてねえっつーの! てか、お前らどうしてここが分かったんだっつーの!?」


「え? こいつら身代金渡しに来たんじゃないんですかい?」


「アホクソ! 捕まえに来たって言ってるじゃねえかっつーの! そして、仮にそうじゃなかったとしても、隠れ家に来させちゃダメだろうがっつーの! 隠れ家なんだからバレたら意味ねえだろ!?」


「あ、そっか」


「……え? 何? お前ら、もしかしてここに来させるつもりだったの?」


「ええ、まあ」


「はあ!? お前らマジで何考えてるんだっつーの!!!」


「……」


 ……再び始まった盗賊漫才に、早速置いてけぼりにされるハルマ達。

 ホント、何でこの兄貴はこんな奴らを子分にしたんだろうか。これなら絶対一人で盗賊した方が、まだ効率良いと思うのだが。いや、まあ悪いことしてるんだし効率悪くて全然良いんだけども。


「おーい……。ちょっと、俺らのこと忘れてない……?」


「――! そうだった! つい、コイツ等のせいで一番大事なこと忘れるところだった――って……! お前……!!!」


「ん? 俺?」


「そうだ、お前! あの時の野郎じゃねえっかっつーの!!!」


「……へ? ……えっと、どちら様?」


「はあ!? お前、俺のこと忘れたのかっつーの!?」


「えっと、え……?」


 と、ハルマの顔を見るなり、突然物凄い表情になった盗賊兄貴だが……。一方のハルマは思い返しても彼にあった記憶がない。

 相手の様子からして、人間違いではなさそうだが……。


「えーと……」


「おまっ、まさか冗談じゃなく本気で忘れたのかっつーの!?」


「……ごめん、覚えてないや」


「はあ!? ……じゃ、じゃあ女! お前はどうなんだっつーの!?」


「私は覚えてるわよ。ほらハルマ、この人達はあれよ。私達が一番最初に会った時の……」


「……、……! あ、ああ! 思い出した! 俺がクッションにしちゃった人だ!」


 そう、あれは転生してきた一番最初の時のこと。

 あの時ハルマは目が覚めると高度50メートルの空中におり、そこからまさかの紐なしバンジーをすることになってしまった。そんな時、運悪くハルマの下に居たせいでクッションにされたのが彼である。

 確かあの時は、その後子分に連れられてどこかに行ったのだが……どうやら、怪我も治りに今では元気にやっているらしい。


「久しぶりだな! 元気してたか!?」


「ふざけんな! 俺はあの後、お前のせいで全治3か月の大怪我だっつーの! おまけに治療費で稼ぎも全部パーだっつーの!!!」


「……おお、それは純粋にごめん」


「ごめんで済んだら騎士はいらねえっつーの!」


「あはは……。……そっか、お前怪我してたのか」


 まあ、当然と言えば当然だが。

 だって空から落ちてきた人間の下敷きになったんだし。某『親方! 空から女の子が!』みたいに反重力みたいな力があったのなら話は別だが、もちろんハルマの場合はそんなことがあるはずもない。

 ……まあ、なんだこればばかりは日頃の行いが悪い、ということで諦めてもらおう。実際踏まれたのもホムラから何か盗もうとしてたのが原因なんだし自業自得である。


「……で? お前ここで何してんの?」


「何してんのってどういう質問!? どう考えても盗賊稼業真っ盛りに決まってるっつーの! 実際巫女姫誘拐しただろ!?」


「……え?」


「は? いや、『……え?』ってなんだっつーの」


「いや……お前、巫女姫誘拐してないよ?」


「……え?」


「いや、だからお前が誘拐したのは俺らの旅仲間のシャンプーであって、あの子は巫女姫でも何でもないぞ?」


「はあ!? ちょ、お前らどういうことだっつーの!!!」


 と、認識と事実の食い違いに再び子分たちに怒鳴る兄貴。

 すると、子分の一人がなんとも不思議そうな顔をしながらそれに答えた。


「いやー……おかしいっすね……。確かに巫女姫が入って行った部屋に居た女の子を連れ去ったはずなんすけど……どこで入れ替わったのやら」


「いや、普通にお前らが間違えたんだろうがっつーの!」


 ……なるほど、これでようやくシャンプーが誘拐された理由が分かった。

 どうやら、これはただ単に子分が攫う相手を間違えた、ということらしい。だから何故か攫う理由が分からないシャンプーが誘拐されたのだ。

 まったく……いろいろと心配したのが馬鹿みたいだ。そんな単純な理由だったとは……。

(なおもっと言うとホムラもホムラでただの代理なので、どっちにしろこの盗賊達は本命を間違えている訳なのだが)


「……まあ、僕はそんなことなんじゃないかと思ってたけどね」


「ああ、だからお前全然会話に参加しなかったのか。てか、じゃあ言えよ」


「ごめん、ホムラちゃんことばっかり見てたら言うの忘れてた」


「おいこら」


 ダメだ、このスライム。

 いやまあハルマも今回はそれなりに脳内で大騒ぎした挙句、内側に潜む狼さんに従ったりしてしまいましたけども。


「……ったくもう。……で、まあそういうことだからさ、シャンプー返してよ」


「ふざけんな! なんでそうなるんだっつーの! こうなったら巫女姫じゃなかろうが関係ないっつーの!」


「ほう? 良いのかお前ら。こっちには騎士王こと、聖王国キャメロット聖騎士団長、白昼の騎士 ソメイ・ユリハルリスに賢者の適性を持つホムラが居るんだぞ。どう考えてもお前らには勝ち目ないだろ」


「お前、それで威張ってて恥ずかしくねえの? 他人頼り極まれりじゃねえか」


「この上なくおまいう案件な件について」


「ぐっ……」


「あはは……。……まあ、そういうことだよ。どうやらハルマとは知り合いのようだけど、それはそれ。誘拐とは少々許し難い行為だ、それ相応の罰を受ける覚悟は出来ているかい?」


「ふっ……白昼の騎士に賢者がなんだっつーの。あんまり、この俺を舐めるんじゃねえっつーの!!!」


「――!?」


 と、盗賊兄貴はその場で何かの魔術を唱える。

 するとその瞬間、そこに先程までは居なかったはずの魔物が突然現れた。出てきたのは象の魔物と、鳥の魔物が多数。これはつまり……、


「なッ!? 魔物を……召喚した!?」


「ふっふっふ、ちょうどいい。せっかくだから覚えて帰るといいっつーの。……俺の名はウダッツ。このマキラ大陸一の盗賊にして、同時にマキラ一の魔物使いだっつーの!」


「はあ!? 何だその後付け感半端ない設定! てかあとお前、じゃあ何で盗賊なんかやってるんだよ!? そんな能力持ちならもっと他にいい仕事あっただろ!?」


「う、うるせえっつーの!!!」


 良い返しが思いつかなかったのか、なかばヤケクソ気味に魔物を嗾ける盗賊兄貴――もとい、ウダッツ。

 こうして、ハルマ達は精霊が住まうテンガレットの山で、まさかの相手とまさかの戦いを始めることになったのであった……。




【後書き雑談トピックス】

 魔物使いとは、倒した魔物を使役することが出来る人のこと。

 ただ、感覚的には某天空の花婿よりは、どっちかって言うとポケ■ントレーナーに近いです。向こうから仲間になるんじゃなくて、こっちが仲間にする感じ。



 次回 第110話「炎の精霊」

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