第70話 刀神は一日にして成らず

「えっとまあ、そんな訳で……」


「……」


「緑色の水晶鉄、取って来れませんでした……」


「はぁ……まったく……」


 ゴーレムに鉄槌を下した後、一応ハルマ達は洞窟を隈なく探してみたのだが……結局、緑色の水晶鉄は何処にも無く。

 結果、ハルマ達はムースに残念な報告を持って帰ることになったのだった。

 そんな報告を受けてムースは分かりやすい呆れ顔&分かりやすい溜息。

 楽しみに待っていたのにそれはないぜ……と言った雰囲気が丸出しである。

 というか、隠すつもりが多分ない。


「やれやれ……こんな簡単なお遣いもこなせないとはな。お前達本当にここまで旅を続けてきたのか?」


「うぐ……。いや、でも、言った通り洞窟にはゴーレムが居ましてね?」


「それならソイツを叩きのめして、水晶鉄を奪い取れば良かっただろうに。先に居たからって別にソイツの物になるという訳ではないんだぞ?」


「ですよね。……ほら、だから言ったじゃんか。戦って奪い取れば良いって」


「!? いやいやいや! 結果的にはそうだったけど、あの状況の場合は僕の判断の方が絶対正しかったって! 確かに結果的にはそうだったけども!!!」


 ジト目でジバ公を睨み文句を言うハルマ。そんな対応をされてもちろんジバ公は慌てて弁明する。

 まあ確かに、交渉で済ませられそうならそれに越したことはないというジバ公の考えは何も間違っていないのだが……。

 結果が結果だっただけに、ハルマとムースからの視線はとても痛かった。


「やめろ! そんな目で見るな!!! ……ぼ、僕は何も間違ってないよね、ホムラちゃん!?」


「そう……ね。うん……、間違って……ないと思うわ。多分……」


「歯切れわっる!? 自信さんどこに行ったよ!?」


 目を逸らしながら、途切れ途切れで一応の肯定をするホムラ。こんな状況でも庇ってくれる気持ちは嬉しいのが、これでは説得力は1ミリもない。

 故にジバ公はソメイにシフトチェンジ。縋りつくように弁明を求める。


「そ、ソメイ!!! 僕、何も変なこといってないよね!?」


「……どうだろう。まあ今回は僕も人の事は言えないけれども。今後は相手を考えるべきだと思う。よくよく考えれば、あのゴーレムの言う事を信用するのは少し間違いだったかもしれない」


「――!!!」


 だが、ソメイに至っては肯定すらしてくれなかった。

 多分ジバ公の為を思ってソメイはアドバイスしてくれているのだろうが、この状況では寧ろ逆効果だ


 ……結果、誰も反論出来なかったので今回の失敗は『ジバ公の判断ミス』ということになってしまったのだった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「そんな……どうして……!?」


「……」


「……さて、どうやらお前達に話しておかないといけないようだな」


「? 何をです?」


 部屋の奥で一人項垂れるジバ公はさておき。

 ムースはハルマ達に向かい直り、何かを話し始めようとする。


「当然、『刀神村正の素晴らしさ』についてだ。これを知ればもう二度とお前達も失敗することはないだろうからな」


「……ストップ、『もう二度と』ってどういう意味です? もしかしてこの鉱石採取、リベンジマッチがあるんですか?」


「当たり前だろうが。お前達はこれからも旅を続けるのだろう? なら、その道中でまた鉱石に恵まれた土地を訪れるかもしれない。その時はしっかりと鉱石採取してもらうからな」


「……マジですか」


「ああ、マジもマジ、大マジだ。あれを見せるだけ見せておいて、「はい、終わり」なんて刀鍛冶として我慢出来ないからな。私は我慢しない」


「……」


 ムースの『我慢出来ない』という子供みたいな理由で、また一つ旅の目的が増えたハルマ達。

 まあ、ハルマ達にとっても強い武器が手に入るのは嬉しいことなのだが……。

 はっきり言って少し……いや、かなり面倒くさい。洞窟の奥に潜っていくのも楽ではないのだ。

 だが、断っても永久に無限ループしそうなので、もうこれは了承するしかないだろう。


「分かりました……。ええっと……、それで? 今後、どうやって俺達が何処に居るか把握するんです?」


「簡単だ。今後新しい街に着くたびに手紙を私に送れ。そうすればその土地のことを私が調べ、良し悪しを判断する。お前達はその指示に従えばいい」


「え、面倒くさ!? 何、今後街に着くたびに俺、毎回ムースさんに手紙送らなきゃいけないんですか!?」


「何を言うか、面倒くさいはこっちのセリフだ。これから私は一々手紙の返事と土地調べをしなくてはいけないんだぞ……。それなら手紙書くだけのお前の方がずっと楽だろが」


「いや、ムースさんの場合は勝手に自分で手間を増やしてるんじゃないですか!!! それに俺らは手紙書くだけじゃなくて、GOサイン出たら洞窟に採取にも行かなきゃいけないんですよ!? どう考えてもこっちの方が大変でしょうが!」


「え?」


「『え?』って何!? 『え?』って何ですか!!!」


 どこまでも一切ブレることのない、鋼鉄の意志を持ったムース。

 この謎の上から目線と言うか、傲慢と言うか、唯我独尊はどこから来ているんだろうか……。

 もちろんハルマはもっと言いたいことはたくさんあったが……多分どんなに力説しても無駄だろうと断念。

 結果、綺麗なお姉さん(正確に難あり)と合法的に文通出来ることになりました。やったネ!(やけくそ)


「……それじゃあ、村正がどれだけ凄い刀なのかちゃんと力説してくださいね! こんな面倒なことこれからするんですから、しょうもない刀だったら承知しませんよ!」


「……ハルマ、そんなに手紙書くの嫌なの?」


「じゃあホムラが代わりに書いてくれる? 俺は全然良いよ?」


「え。……、……えっと、遠慮します」


「ですよね」


 確かに根本的に手紙を書くのが面倒くさいのももちろんあるが。今回はそれ以上に相手が相手なのである。

 だって、ムースはただ会話していだけでこんな感じなのだ。そんな彼女と手紙でやりとりなんて絶対に面倒くさいに決まっている。

 それが分かっているからハルマは嫌なのだ。


「……何の話だ?」


「いえ、なんでも」


「?」


 当の本人はハルマ達の気持ちには一切気付かず。(多分気づいても無視するだろうが)

 そのまま刀神村正について、意気揚々と語り始めた。


「……安心しろ。仮に村正が『しょうもない刀』とされるなら、この世の剣は全てゴミ同然のナマクラとなる。それくらいその剣は素晴らしいものなんだ」


「と言うと?」


「その剣には他のどの剣にもない素晴らしいポイントがあるんだ。それが『生きている』ということだ。『生きている』と言っても会話をしたりすることは出来ないが……それでも確かにその剣は『魂』と『意思』を持っているんだよ」


「これが……?」


 ボロの剣を手に取り、訝し気にそれを眺めてみる。

 ……が、ハッキリ言ってとてもじゃないが生きているようには見えない。

 うんともすんとも言わないし、今のところはどう見てもただの錆びた鉄の塊だ。

 だが、そんな状態の村正を見ても、ムースの自信が折れることは微塵もなかった。


「今は眠っているから『生きている』という実感はまるで持てないだろう。それでも復活させればまた目覚めるはずだ。そうすれば、その剣は真の実力を発揮出来るようになる」


「真の実力……ですか」


「そうだ。その剣が生きていることで何を得られるのか……それは『対応出来る』という点にある」


「対応出来る?」


「そうだ。その剣は生き、そして意思を持って使い手のことを理解出来る。故に剣は手に取る使い手に合わせ、己が姿を変化させていくんだ。だからどのような戦いにおいても、使い手と村正自身の力をを十二分に発揮出来るのだよ」


「へえ……それは凄いな」


 なんともまあ便利な剣だ。

 そして、同時に確かにユウキがかつてこの剣を愛用していた理由もよーく理解出来た。

 だってこの剣は使い手に合わせてその形状を変えるのだ。ならば『最強』であるユウキがこの剣を手にした時、この剣は凄まじい力を発揮することが出来るだろう。

 だが、それは逆に言えば……。


「俺との相性は最悪……いや、俺の実力にも合わせてくれるなら、ある意味は最良なのか?」


「そうかもしれないけど……ハルマが村正を手にするのは少し勿体ないんじゃないかな、能力的に」


「……うぐ。それはそうだけどさ……ソメイちゃんよ……」


「え?」


「ちょっと、今の言い方は厳しくないかしら?」


「……? ……あ、ごめん。罵倒するつもりではなかったんだ」


「良いよ、別に。事実だし」


 相変わらず天然のソメイ。

 ハルマとホムラに指摘されて、ようやく自分の言葉の切れ味を理解する。

 だがまあ、厳しい話だがソメイの言う通り、ハルマの場合はこの剣との相性以前に『勿体ない』というのが何よりだ。

 村正は簡単に言えば手にする者の強さに合わせてその身を変化させる剣。つまり、『最弱』のハルマが手にしてしまえば、この剣も一緒に『最弱』になってしまうのである。

 『最強』にもなれる剣をわざわざ『最弱』に使わせるなんて、舐めプも良いところだろう。もしもこれはオンラインゲームだったとしたら間違いなく叩かれる。


「ちくしょう……使いたかったなぁ……」


「……えっと、その……ドンマイ、ハルマ」


「ありがとう、ホムラ……」


「……まあなんだ、とりあえずこれで村正の素晴らしさはよーく分かっただろう? つまりこの剣は『理論上最強』の剣なのだよ」


「はい、よくよく分かりました。まあ、頑張って復活させてみせますよ」


「頼むぞ。今日もまた泊めてやるから、絶対に剣を復活させるんだ」


「はい……」


 なんとも恩着せがましい……が、もうここまで来ればあまりなんとも思わない。

 それはムースの人間性と性格に(良くない方向で)ハルマ達が慣れてきた(慣れてきてしまった)証拠だ。

 


 ひょんなことから見つかった生ける剣、『刀神村正』。

 しかし、その復活の日はまだまだ先の話のようであった……。




【後書き雑談トピックス】

 『刀神』のよみは「とうじん」です。

 でもPCで打つときは「かたなかみ」って打たないと出てこない。

 こんな面倒くさい字を使うから……。(自業自得)



 次回 第71話「極寒の洗礼」

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