ラピスラズリの復讐 (上) 1
ふと、高校時代の友人の
由加子は元気でやっているのだろうか。
由加子は文学が好きで、よくシェイクスピアを読んでいた。特に「マクベス」が好きで、その名言を私に話して聞かせた。
「ねぇ。リカコ。マクベスの【綺麗は汚い。汚いは綺麗】って、世の中の真理を言っているように思えない?」
由加子は常に物事を色々な角度で見ていた。私はそんな彼女と話をするのが好きだった。
「うん。そうだね。私もそう思う」
「人を殺すことは悪だけれど、戦場では敵国の人を殺害することは味方の国では正義になるよね」
「そうだね」
由加子は線が細く、けれども心に芯を持っていた。
二重まぶたに愛らしい瞳が魅力的だった。
好きな人ができたときも、一途に思っていた。由加子は大人しそうに見えて、結構、積極的な子だった。
「リカコ。富田くんに告白したら、付き合ってもらえることになったよ」
「マジで、凄いじゃん!やるねぇ」
私は由加子の嬉しそうな顔を見るのが好きだった。
けれど、クラスメイトの
富田礼二は、由加子の他に同じクラスの
更に、富田は由加子を酷く振った。散々、弄び捨てた。
生気を失い元気の無くなった由加子の姿を覚えている。
「大丈夫?」
私は由加子を心配した。
学校を休みがちになった由加子の家に行ったとき、私は富田への憎しみが湧いた。
「……つまらない女だって。やらせてくれないしだって」
「富田はやり目的だったの……?」
由加子は首を縦に振る。由加子は涙を流した。 無理矢理、やられそうになったらしい。
「無理矢理……嫌だって言った。そしたら、振られたの。しかも。加藤さんと二股掛けられていた」
「許せない。富田に言ってやるよ、あと、先生にも!」
私は由加子の手を握る。由加子は首を振った。
「やめて。もう。いいから」
「でも」
「どうにもならない」
由加子は
「ごめんね。由加子はリカコちゃんに会えないの。今日は落ち着いていたんだけど、昼くらいから暴れ出してね」
由加子の母親はやつれたように言った。
由加子は富田の一件から、可笑しくなった。 私は富田が許せず、学校にその事実を告発した。
富田は停学処分になり、当たり前だ、座間見ろと思った。
その後、由加子の両親は由加子を精神病院に入院させた。
県外の精神病院に入院し、連絡は途絶えた。
その後、由加子の消息を調べようと思った。
けれど、あの一件を彼女が思い出してしまうのではないかと私は心配になった。
だから、会うのを止めた。ただ、元気な姿を見れたらいい。そう思っていた。
そんなことを思いながら、一日の営業が終わろうとしていたときだ。
店の扉を思いっきり開けてくる人物がいた。
「よっ!川本!」
刑事の
「どうしたの?依頼?」
「うん。これを見てほしくってさ。被害者の
森本は上着から、ジッパーのビニール袋を出す。
そこにはラピスラズリの青いピアスが入っていた。
森本は白い手袋を出し、私にそれをはめるよう促した。白い手袋をはめる。
事件の遺留品を触るのはやはり、気が滅入る。
大概が結構キツイ描写のものが多い。
ブルーダイヤのときも思ったが、苦しい。
私は意を決して、ラピスラズリのピアスに触る。
ゆっくりと映画のスクリーンに映し出されてるように、見えてくる。
ラピスラズリの青いピアスがプレゼントされている瞬間だ。
「退院おめでとう」
中年の女性が言った。
どうやら、退院したのは娘らしい。
この女性の娘の
「ありがとう」
娘が言った。 娘の顔がはっきりと見えてくる。その顔に私は衝撃を受けた。
私は咄嗟にラピスラズリから手を離す。
森本が驚く。
「どうした?川本」
「えっと」
「やっぱ、そうなのか?」
森本は私の高校時代からの同級生だ。
だから、私が高校時代に白井由加子と友人だったことを知っている。
「うん」
「酷かもしれないが、見てくれ。お願いだ」
「解った」
ラピスラズリの青いピアスの持ち主は、白井由加子だった。
ラピスラズリの復讐(上) (了)
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