琥珀の慟哭(下) 37 (67)
華子は白井興信所に連絡をしていた。白井興信所は
『華子様。お久しぶりですね。お元気でしたか?』
「ええ。まあ。調査なんだけど、横井伊佐美という女性を調べてほしいのだけど。急ぎで。今、仕事で静音理央と磯貝菊雄という男性二人とビジネスを始めようとしているの。その女性は磯貝さんのビジネス仲間らしいのだけど」
『横井伊佐美ね。解りました。期限はどのくらいで?』
「そうね。三日くらいで。なるべく早いほうがいい」
『承知しました』
「白井さん。これまで白井さんにはお世話になったわ」
『いいえ。先代からのお付き合いですから』
どうやら柿澤家は白井興信所に昔から世話になっているらしい。大手となると、取引相手の信頼性等々も確認するのだろう。
「私が引退したら、祐に継がせるつもりなの。よろしくね」
『そうでしたか。じゃあ、これが華子様の最後の依頼ということでしょうか?』
「そうね」
『なんだか寂しくなります。最後までしっかり仕事させて頂きます』
「心強いわ」
華子は白井との電話を終え、スマホを仕舞い、椅子に腰かける。
自身の机から裕次郎の写真を取り出し、それを見る。写真は若いころの写真だった。結婚したころの写真で、若々しかった。
華子はその写真をただ見つめた。何を思っていたのだろうか。華子は机にしまうと、社長室を出て行った。
横井という女性は一体、何者なのだろうか。磯貝のビジネス仲間と言っていたが、胡散臭い。白井は情報を確実に取ってくるのだろう。
そんなことを考えていると、思い出はゆっくりと切り替わった。
ゆっくりと見えてきた思い出は、華子が横井と話をしている場面だった。
華子と横井は何処かのカフェで話をしているようだった。華子は横井を睨む。
「横井さん。失礼ながら、あなたを調べさせて頂きました」
「そうですか、まあ、想定内でしたけど」
横井はうっすらと気味の悪い笑顔だった。華子は横井の表情に怯える。横井は華子に微笑んだ。
「華子様。警戒しないでくださいよ。いくら私が、あなた様の死んだ旦那の裕次郎さんと跡継ぎで揉めた
華子は顔を歪ませた。
華子が何も言わないのを横井は面白そうに見る。
「そういえば。華子様は今、本当の息子、青井陸さんとも仕事しているんですってね」
「まあ。そうだけど、あなたの目的は何?」
「そんなに焦らないでくださいよ」
「焦るもなにも。裕次郎のことで恨みに思っているって思うのが普通だから。あなたの目的は何?」
華子は横井に鋭い視線を向ける。横井は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「目的、そうね。あえて言うなら、貴方の息子の陸さん。私、彼がタイプなのよ」
「陸がタイプね。悪いけど、本人の気持ちが大事だからね。お膳立てしろってことかしら?私は陸の恋愛に関して何も口を出すつもりはない。けど、あなたみたいな人にうちの子はやれないわ」
華子は横井を睨む。横井は爆笑する。
「何が可笑しいの?」
「いや、母は強しだなと。まあ、いいですよ」
横井は写真を見せてきた。それは祐が反社会的な男性たちと、バーカウンターで楽しそうに話している写真だった。
華子はそれを見て、顔をしかめる。以前から華子はそれを知っていたようだった。
「縁が切れてなかったのね」
華子はぽつりと言った。横井は笑う。
「今、反社って結構、会社にとってダメージじゃないです?違います?」
「……これ、何時撮ったのか教えてくれるかしら?」
「これ、先月ですよ。先月です。あ。あと、華子様は元殺人犯の青年と連絡を取り合う仲、らしいですね」
「……だからって何?」
「それを世間が知ったらどうかなぁと」
「……何が言いたいの?」
「あなたの息子さんが目的って言ったけど、私はあなたを苦しめに来たのよ」
「……苦しめるって?」
「そうね。今考えているわ。すぐに浮かんだのが、息子の陸さんにいい男だと思うわ。あなたと似ていなくて気が弱い。隙がある感じね」
「……陸に手を出さないで!」
華子は思わず声を張り上げた。華子の大声にカフェにいる客が一斉に二人を見る。親子喧嘩に間違われたのかもしれない。
「華子様。落ち着いて。変に思われますよ?」
「とにかく、お金なら渡すわ。それでいいでしょう」
「お金ねぇ。そういう問題じゃないのよ。あなたを苦しめたい、それだけ」
「いい加減にしなさい!」
「おお、恐っ。とにかく、それだけ言いたかっただけなので」
横井は席を立ち、華子に背を向ける。華子は横井の後ろ姿を睨みつけた。華子はスマートフォンを取り出すと、すぐに祐に電話を架ける。
「もしもし?今すぐに確認したいことがあるの。すぐに会社に戻れるかしら?」
『何ですか?お母様。急ぎって。僕は今、商談中ですよ』
「いいから。来なさい。あなたの進退に関わることよ」
華子の必死な声色に祐は若干、怯えた。
『解りました。あの。お母様は今どこに?』
「私?私は少し外に出ていたのよ。とにかく先に戻っていますからね」
華子は祐との電話を終えると、急ぎ足で会社に戻った。華子は恐い表情だった。
私は横井の目的が【華子を苦しめたい】という目的が、この事件の引き金になったのだろうと思えてきた。
華子は会社の玄関のセキュリティを通っていく。
エレベーターに乗り、社長室に向かう。すれ違う社員たちに、挨拶を交わしていく。
セキュリティカードで社長室に入ると、華子は机の椅子に座る。
しばらくじっと座り、一点を見つめた。
琥珀の慟哭(下)37 了
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