琥珀の慟哭(下) 36 (66)


ゆっくりと切り替わった思い出は華子が何かを書いている場面だった。

手紙を書いているらしい。その手紙の内容は次の通りだった。


【弥生様


突然のお手紙をお許しください。私は南田弘一及び、楠田弘輝くんの友人の柿澤華子と申します。

この手紙があなた様のところに届くころに私に何かあったことでしょう。

私と弘輝君が事件に巻き込まれた可能性です。

弘輝君は過去が見えます。

だから、母親の弥生様にも過去が見えるかもしれないと思い、お手紙を書きました。

同封されているブレスレットは私が常に着けているものです。

弘輝君は必ず自分が犠牲になろうとするでしょう。

もし、弘輝君に何かあったら、このブレスレットから思い出を見て、弘輝君を助けて下さい。

弘輝君は本当に良い青年です。過ちを犯しましたが、それに向き合い、生きています。

弘輝君には母親が必要です。肉親であるあなたが必要なのです。


柿澤華子より】


華子は熱心に手紙を書いた。弥生が受け取った手紙の内容がこれなのだろう。


華子は封をすると、電話を架ける。


「もしもし?古川さん?柿澤です」


楠田の弁護士の古川ふるかわ呼人よひとに電話をしているらしい。

数回のコールで古川が出たようだ。


『華子さま。こんにちは。どうしました?』

「少し、頼みたいことがあって」

『頼みたいこと?』

「ええ。電話で話すより直接、言ったほうがいいかと」


華子は改まっていた。恐らく古川に手紙の事をお願いしたいのだろう。


『解りました。何時、そちらにお伺いすればいいですか?』

「そうね。今日明日くらいがいいのだけど」

『今日は難しいですね。明日なら』

「明日?大丈夫なのね?じゃあ、明日の朝10時に会社に来てくれるかしら?」

『解りました。華子様』

「ありがとう。南田君のことでお願いがあるの」

『弘輝のことですか?』

「ええ。ちょっと」

『え?何ですか?それで会社に来てほしいのですか?』


古川は華子の発言で驚きを隠せない。

華子は古川を安心させようとする。


「大丈夫よ。そんなに大変なことじゃないわ」

『?何かよくわからないですけど』

「古川さんにしか頼めないから」


華子は願うように言った。古川は何かを察したのか、それ以上、何も言わなかった。


「じゃあね。明日の十時に」


華子は古川との電話を終え、両腕を上げて伸びをした。

華子は他の誰かに電話を架けるのか、 スマホの電話帳から相手の番号を探す。

探している最中に見知らぬ電話番号から着信が着たらしい。

華子はそれに出ず、着信を削除した。


「この前から着てるけど、誰かの番号かな」


華子は独り言を言い、少し考え込む。思い当たらず、気にしないことにした。

華子はスマートフォンをカバンの中に仕舞う。しばらくすると、再び、スマートフォンが鳴る。

華子は着信の相手を確認する。先ほどの知らない番号からだった。華子は電話に出る。


「もしもし?どちらさん?」


声がしない。しばらくすると、ゆっくりとした口調で相手が話し始める。


『柿澤華子さんですか?』

「ええ。そうだけど」

『良かったぁ。先日から電話を架けさせて頂いてます!』


声の主は女性だった。華子は口調と、声色で当てはまる人間を思い出そうとしているのか、考えている。


「えっと。どちら様です?」

『あ、自己紹介が遅れました。私、磯貝さんのビジネスの仲間です』

「ビジネス仲間?」

『ええ。ビジネス仲間です。静音さんも私のことを知っています。横井よこい伊佐美いさみです』


横井伊佐美と名乗る女性は明るい雰囲気の声色だった。華子は警戒心を持ちつつ、応対

する。


「横井さん。磯貝さんのビジネス仲間とのことで、どうして、連絡を下さったんです?」

『ちょっとお話したいことがありまして』

「話したいこと?電話では駄目です?」

『ええ。ちょっと』

「えーっとじゃあ、都合つけましょう」

『本当ですか?有り難う御座います!』


横井は元気よく返事をした。華子は横井が何者か、疑いつつも、気になったらしい。


「じゃあ、今週は厳しいので、来週の月曜日午後2時は開いてます?」

『来週月曜日2時ですか?大丈夫です!どこに向かえばいいです?』

「早速の承諾有り難う。じゃあ、柿澤コーポレーションの玄関口でいいわ」

『解りました』

「じゃあね」


華子はかなり社交的に言った。華子は電話を終えると、別の電話番号にかける。


「もしもし?調査をお願いしたいんだけど」


琥珀の慟哭 36 了

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