タンザナイトの夕暮れ時(上) 1(1)
琥珀のブレスレットの過去を見てから2年が過ぎようとしていた。
私は相変わらず、毎日の生活に追われている。
この二年間で世界は変わってしまったように思う。口に出せば辛くなるようなことのが今の世の中には多い。それでも人は生きていく。
それがどんなに辛くても苦しくとも、その中でたった少しだけの幸福を探しているものだ。
2020年もあと一月。今日から12月だった。
12月の宝石はタンザナイト。
1967年に東アフリカで発見された。今でも人気が高く類似品や合成品が作られており、鑑定の際には注意が必要だ。
『タンザニアの石』を意味するが、その名の通り【タンザナイト】はキリマンジャロの夕暮れ時の空を映し出すような青紫色をしている。
言われて見れば夕暮れ時の空のような色をしている。入荷したばかりのタンザナイトのネックレスを見た。青紫色に輝き、それが夜の前の空にようだ。
クリスマスプレゼント購入のお客さんは落ち着いたが、やはり忙しさには変わりない。
けれど、今日はお客さんの入りが少なかった。午前に四人程度で、誕生日プレゼントやクリスマスプレゼント、自分へのご褒美など。
私は常々、【物に触れると過去が見える】能力は本当に必要なものだったのかという疑問がある。
けれど、この能力のおかげで私は森本ヒカルと恋人になれたのも事実だ。
付き合ってから二年が経つが、私たちの関係は今まで通りだった。
ただ違うとすれば、最近は中々時間が取れないことくらいだ。森本は大きい事件を追っているらしい。
またしばらくこちらに来れない
私は午後を休業することにした。売り上げを保管し、掃除をする。すると、直前になって滑り込んでくるお客さんがいた。
そのお客さんは少し今風のチャラい感じだった。
「あの、このタンザナイトのネックレスの買い取りは可能ですか?」
「タンザナイトですか?」
「ええ。あの友人が今合宿で来られないから代わりにやってきてくれって」
「解りました。では、おかけください」
私はお客さんを椅子に座らせた。
私は店の看板を閉店中に変えにいく。行く途中でお客さんの表情を横目で見た。
お客さんは店の中をキョロキョロと見渡す。
私と目が合うと、お客さんは微笑んだ。それはとても爽やかで不思議な色気があった。
このお客さんは本当に友人からの依頼で買取の依頼してきたのだろうか。
お客さんを疑うのは良くないが、宝石を不当に盗み、買取を要求する人はいる。
看板を変え終わった私は、お客さんの元にいく。
「あの。宝飾店って初めて着たので全然、勝手が解らなくって」
お客さんは少し照れた様子で、頭を掻く。
「いいえ。別に大丈夫ですよ。タンザナイトのネックレスですね。ここに置いていただけますか?」
お客さんは私の言った通りにケースごと、机に置いた。私は手袋を填める。
お客さんはケースを開ける。
「あの、これ友人の祖母の形見で。友人曰く、「結婚する相手に贈ったけど、振られて、あの子より結婚したいと思える人がいない」って」
「余程のことなのですね」
「ええ。アイツ。結構チャラそうに見えて、変に一途で。まあ、これまでも本気にされないで二股されて振られたり。それで
私は目の前で話すお客さんにとってその友人が大切な親友なのだろうと思った。先ほどまでの窃盗かもしれないと疑ったのを申し訳ないと思った。
「そうでしたか」
「ええ。俺とあいつは高校から今までの付き合いで色々知っていて」
「左様ですか。これ、ティファニーの1970年代のタンザナイトネックレスですね」
「なんか、よく解らないけどティファニーらしいです」
「解りました。では
「解りました。書類に書きますね」
私はお客さんに連絡事項の用紙と、契約書を渡す。ペンを差し出す際にお客さんのシャツの
タンザナイトの夕暮れ時(上) 1(1) 了
引用&参考 タンザナイトwiki https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B6%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88
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