タンザナイトの夕暮れ時(上)2(2)
スクリーンに映し出されるように思い出が見えてくる。
どうやら、男性二人が話をしている。お客さんと、もう一人は恐らくこのタンザナイトのネックレスの持ち主なのだろう。
その持ち主はかなりガタイの良い男性で、ボディービルダーのようだった。
短髪をライトブラウンに染めており、綺麗に整えられた眉毛、目鼻立ちが良かった。一瞬、チャラいパーティーピープルに見える。
「なぁ。本当にいいのか?」
「うるさいな。
「
お客さんの名前が新太郎で、その友人の名前が諒らしい。
「忘れられない人がいるって彼女の友人から聞いた。俺はいつだってそうだ。誰かに大切にされたことなんてない」
「そうかもしれないけどな」
「俺さ。多分、その忘れられない人に多分、会っている。
「は?」
「一瞬、解らないよな。俺、消防士だろう。三年前にさ、ある家の消火活動をしたんだ。その家の長男とその奥さんは助かって、次男と母親が焼死した。父親は
諒のガタイの良さは職業によるものだったらしい。
私は不意に
「それって」
「ああ。廣崎という家だったかな。真っ黒に焼けた遺体を覚えている。火の気が多くて、俺たちは助けられなかった。来美が俺と結婚できない理由をはっきりと言わなかったんだ。もしかしたら、それが原因かもしれない。俺を恨んでいるのかもしれない。俺は結局」
諒はついに涙を流し始めた。新太郎は諒の肩を優しく触る。諒は涙を拭う。
「俺が殺したようなものだ。助けられなかった」
やはり、諒の好きな人は井川だったらしい。井川は真学の死を何時知ったのだろう。
皮肉にも真学を助けられなかった諒は責任すらも感じているのかもしれない。
「消防士でも仕方ないことがあるじゃないか。だって火の気は強かったんだし」
「……消防士はスーパーマンじゃない。だから、助けられない人もいた。たまに助けられなかった人のことを思い出す。仕方ないって言ってもだ。来美の好きだった人を助けられなかった」
「それは辛いよな」
諒の目には薄っすらと涙がにじんでいた。消防士の仕事がどれだけ大変か解らない。
辛いのは確かだろう。助けられなかった辛さを知っているからこそ、辛いのだろう。
「だから、そんな俺だから来美は結婚したくないんだと思う」
「本当にいいのか?お前は本当にそれでいいのか?」
「ああ。俺はもう」
思い出は途中で見えなくなった。正確には私が新太郎から離れたからだ。新太郎は真剣に連絡事項の用紙と、契約書にサインをしている。新太郎は書き終わると私を見た。
「書き終わりました」
「あ。はい。お茶、持ってきますね」
「お茶はいいですよ。あの、つかぬ事をお聞きしますが、川本宝飾店の川本さんはあなたで間違いないですよね?」
「え?そうですけど」
「そうですか。じゃあ、あの、思い出が見えるとかっていうのも」
「思い出。そうですね。見えますよ。でも、不安定なもので、確実に見たいものが見えるわけでもないです。しかも、たった一度だけです」
新太郎は私を
「じゃ、じゃあ。俺が諒とのことも、もしかして、見えたんですか?」
「何か、覗き見するつもりなかったんですけど、見えました」
「ええええ!スゲー!川本さん。うわぁあ。握手してください」
新太郎は私の手をいきなり握り、握手してきた。私はびっくりして後ろに下がる。
「あ。すいません。馴れ馴れしく」
「だ、大丈夫です」
正直、距離が近くて驚いた。恐らく新太郎は人懐っこいのかもしれない。
新太郎は笑顔だった。どうやら、思い出が見えることにとてつもなく感激しているようだった。
私は連絡事項の用紙と、契約書を見つめた。名前は
住まいはここから徒歩30分くらいの場所に住んでいた。
タンザナイトの持ち主の名前は、
「じゃあ、確認ができましたので、また後日、スマホに連絡いたします」
「はーい。あの、変な質問していいですか?過去が見えるっていうのはどういう風にですか?」
「どういう風にとは?」
「見え方ですよ」
「見え方なら、ありのままです。スクリーンに映し出されるような感じで。私の場合は物に触れた場合に起こりますので。だから、宝石も
「へぇ。かっこいい」
新太郎は私の能力をかなり気に入ったように見えた。
タンザナイトの夕暮れ時 (上) 2(2) 了
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