琥珀の慟哭(中) 17 (28)
南田は独房の格子の着いた窓から、外を見た。
【物に触れると過去が見える】能力はある意味、暇な時間の潰しになる。
それと同時に余計なものを見て、疲弊してしまうことがある。
南田は自分の前に、この独房で過ごしていた死刑囚はどんな人だったか過去を見た。
正直、見なければ良かった。全く持って辛いもので救いがない。
どうやら、冤罪をかけられたようだ。
すっかり疲れ切った男性が、「俺は殺っていない。俺は殺っていない」とぼそぼそと呟き、独房の床に傷をつけていたのが見えた。
南田はすぐに見るのを止めた。
冤罪をかけられた死刑囚は最後、死んだのだろう。
やってもいない罪を着せられ、無念のうちに死んだ。
南田はこれ以上考えると、精神的に辛いと思った。心を無心にする。
自分の選択は本当にこれで正しかったのだろうか。
看守の伊藤が南田の前にやってくる。
「おはよう。南田。体調はどうだ?」
「おはようございます。別に何も」
「そうか。目の下の隈が酷いようだが?」
伊藤は南田の顔をじっと見る。南田は顔を反らした。
幸田から交代した伊藤は、何かと南田に話しかけてくる。
南田は少しだけ、それがうざく感じつつも、嬉しかった。
「お前は無理をしすぎている。なにか遭ったら言えよ」
「………伊藤さん。俺と関わらないほうがいいですよ」
「お前が関わりたくなくとも、俺は仕事だからな」
伊藤は笑った。伊藤の表裏のない空気を、南田はむずがゆく思えた。
「……勝手にしてください」
南田は伊藤に背を向けた。伊藤はそんな南田の後姿を見て、少しだけ笑う。
「お前、過去が見えるって本当か?」
南田はその声に振り向く。南田の目は見開き、伊藤を見る。伊藤は南田の表情に驚くことなく、見据えた。
「何を言っているんですか?そんな非科学的なことを。有り得ないじゃないですか?」
「そうか?非科学的ねぇ。でも、世の中には説明しようのないことって沢山あるじゃないか。まあ、いいよ。変なこと言って悪かった」
伊藤は南田に背を向けて行ってしまった。南田は伊藤の後ろ姿を見つめた。
伊藤に気付かれたのかもしれない。
南田は伊藤に気付かれても関係ないと思った。
しかし、伊藤自身に何かあるのかもしれないとも思えた。
伊藤は一体何者なんだ。
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柿澤祐は一体、どんな人なのだろうか。私はスマートフォンを立ち上げ、【柿澤祐】を検索した。
特筆する様なことはなく、柿澤コーポレーションの代表取締り役と書いてあるだけだった。
確か華子は裕次郎が亡き後、柿澤コーポレーションの代表取締役に就任。
華子は65歳まで勤めたはず。
つまりは、2011年まで華子が代表取締役だった。その後、祐が継ぐ。
柿澤コーポレーションは主に、ホテル事業を展開している大手企業だ。
ホテル以外にもアミューズメント施設、ショッピングモールなども手がけている。
殺害された磯貝菊男はビルオーナーだった。仕事で関わっていたのだろうか。
解らないことばかりだ。
私は強烈な眠気が襲ってきて、そのまま眠りに就いた。
気がつくと、居間で眠っていたらしい。思わず、何日間も眠っていたかと思い、私は慌ててテレビを着ける。
『2018年11月21日。水曜日のモーニング!元気いっぱい!今日も始まりましたぁ!』
元気良く女子アナウンサーが言った。私は何日も眠っていなかった。
ほっとした。時刻を確認すると、まだ朝の5時半だった。
琥珀の慟哭(中)17 了
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