琥珀の慟哭 (中) 18 (29)
まだ早朝で、私はほっとした。確認が終わると、私はテレビを消す。
やはり休養が必要かもしれない。
けれど、今は急いで思い出を見なくてはいけない。お店を休むことにした。
私はお風呂に入り、その後、6時間ほど眠った。
家の電話の音で、目を覚ました。
寝ぼけた状態で、電話に出る。
「はい。なんでしょう?」
【川本さんですか?】
電話の相手はA店舗の春木だった。
「どうしました?」
【あの、こちらに変な手紙が来まして】
「変な手紙?」
【ええ。何か川本さんが人様のブレスレットを返さずに着服しているだとかの】
私は嫌な予感がした。
決めつけてはいけないが、柿澤祐がやったのか?と一瞬、思った。
「ねぇ、その手紙を私のとこに持ってきてもらえます?」
【もしかしてですけど、先日、俺が川本さんに依頼したやつの関係ですか?】
「……はっきりとはわからない。けど、その持ち主の息子さんが返してほしいとは言ってきたけど」
春木が動揺しているのが解った。責任を感じ、申し訳なさそうな声色だった。
【川本さん、俺。本当にすいません】
「いえ、いいんですよ。この能力を持っている限り、不本意な扱いを受けるのは承知です」
私の能力は気味悪がられる。
触れたら、見えるなんて可笑しなものだ。
私自身も、何故、それが見えるのかも解らない。
【川本さん。俺は少なくとも、川本さんの味方であり仲間です。一人で抱え込まないで下さい】
春木の言葉は力強く、心からの声に思えた。
私はその言葉がありがたく思えた。
「本当にありがとうございます。今はあのブレスレットの思い出を見ないといけなくて」
【そんなに大変なんですね】
「今までの案件と違うからね」
【そうですか。じゃあ、その怪奇文の手紙、今から持ってきますね】
「うん。ありがとう。じゃあ、後で」
私は春木との電話を終えた。
けれど、本当に祐だとしたら、何か見てもらって困ることがあるのかもしれない。
私はとにかく春木が来るまで、琥珀のブレスレットの思い出を見ることにした。
私は白い手袋をして、宝石ケースから琥珀のブレスレットを取り出す。
私はそのブレスレットに触る。
ゆっくりと見えてくる。
見えてきたのは、華子が家で保護観察官の藤山と話している場面だった。
「華子さん、本当にすまないね」
「いいえ。いいんですよ。南田君だって色々な事情ありますから」
「南田君から追い返したって言われてね。更にはもう呼ばないでくれって」
藤山はため息をつく。華子は藤山にお茶を差し出す。
「呼ばないでくれって、やはり言ってたんですね」
華子は少しだけしょんぼりとしていた。
藤山は申し訳なさそうな顔をする。
「まあ、僕としてはね、南田君には華子さんみたいな人に会ったほうがいいと思うんだよ」
「藤山さん。でも、私も少しだけ強引だったかなと思ってるんですね」
「そうかな?南田君と何を話したかな?」
「私の両親のこと、兄弟のことね」
華子は思い出すように言った。華子は続ける。
「けどね、人の痛みってその人にしか解らないって改めて認識しました。それは私もずっとそうだった。けどね、南田君には何かしてあげたいとは思ったわ」
華子は慈悲深げな表情だった。
琥珀の慟哭(中)18 了
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