ブルーダイヤの悲劇

思い出が見えることが必ずしも、決して良いことじゃない。

一面のスクリーンのように私の目の中に、映像が映し出される。映画館のように映る。

それも良い思い出も、悪い思い出も見たくないものも。

私は【物に触れると過去が見える】。

それは昔からだ。

父親と母親の思い出を守るために、川本宝飾店を引き継いだ。


私はこの日、ぼーっとしていた。

鑑定を希望するお客さんもいなく、購入を希望するお客さんもいなかった。

時間を早めて閉店しようかと思った。


警察への協力は毎回ではない。

私の気まぐれと、警察からの要請で成り立つ。

カウンターでぼんやりとしていると、慌ただしい足音が聞こえてきた。

勢いよく扉が開く。


「よっ!川本!」


やってきたのは、元高校の同級生で、現捜査一課の刑事の森本もりもとヒカルだった。

彼は私の担当だ。元同級生ということで、警視庁もその方が話が早いとのことらしい。

「依頼?」

「そうだ。この宝石を見てほしい」

森本は白い手袋をして、ジッパーのビニール袋を鞄から取り出す。

その中には、青く透き通ったダイヤの指輪が入っていた。

森本は袋から指輪を出し、それを私の前に置く。

森本は私に手袋をするように促した。私はそれをめて、指輪に触れた。

その途端に思い出が見えてくる。


ゆっくりと見えてきたのは男女二人だった。


「ありがとう。イチロー」


女性は男性の顔を見る。

「うん。給料三か月分。これからもずっと一緒に・・・」

これは二人のプロポーズのシーンだ。

恐らくこの指輪の持ち主の物だろう。

それから、幸せなシーンが続いていく。

二人の仲は順調で、結婚した数年は幸せだ。

けれど、少し、女性の金遣いが荒くなっているように見えた。

男性は不満に思いつつも、上手くやっている。


けれど、次第に空気が悪くなっていく。

次のシーンは決別するようなシーンだった。


「どうして、あの女といたの?」


女性の顔は恐い。男性は尻込みする。

「それは・・・・」

「あなた。浮気しているの?」

「ちがう!」

夫婦喧嘩が始まる。二人は連日のように揉めて、男性と女性の信頼関係は破綻していく。すべてを疑い、互いを信じない。

私は苦々しい気分になっていく。嫌な予感がしてくる。


今度は何処かの山の中が写る。車が走り去る音。そこで思い出は見えなくなった。

私は森本に質問する。

「これって、土の中で見つかったの?」

「そうだよ。犯人はもう捕まっている」

森本はあっけらかんとしている。

「じゃあ、彼女は殺されたの?」

「そうだ。旦那にな。ただ、旦那が動機を黙秘している。それを知りたいんだ」

森本は私を見た。

私は見えたものの説明をし始める。

「見えたのは、彼女が浮気を疑っているシーン。旦那は本気で浮気をしていなかった。彼女の金使いが荒いことが原因かな」

「おお。ありがとう。ご名答だよ。証拠固めのためにお前に聞きたかった。ありがとう」

「そうなの?」

「ああ。旦那の同僚や、知人に聞きまわった。『奥さんが金遣い荒くて困っている』って。首が回らなくなる前に、同僚の女性に相談していたんだと。それを浮気だと勘違いし、旦那を訴えようとしていたらしい」

森本は苦々しい表情を浮かべた。

「そう。最初はあんなに幸せそうだったのにね」

「時間が残酷にも人を変える・・・からな」

森本はタバコを吸う。

私は再び、青いダイヤを見つめた。


ブルーダイヤの悲劇 (了)

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