琥珀の慟哭(中) 2 (13)
親戚の集まりに華子が居る。新年の集まりのようだった。
華子と裕次郎の結婚は柿澤家の当主であり、父親の
親戚の中には、華子と裕次郎の結婚を良く思わない人が幾人かいるように見えた。
特に華子を良く思わない裕次郎の姉の
「華子さん。これを親戚の皆さんについでくださいな」
美貴子は華子にコップにお茶を注ぐように指示した。
「はい。解りました。お姉さま」
美貴子は華子がお茶のポットを持つ様子を見る。
美貴子は感じの悪い視線を華子に送った。華子は美貴子から好かれていないのを自覚しているようだった。
お茶を注ごうとすると、子供が突進してきた。
「きゃっ」
華子はびっくりして、お茶のポットを床にぶちまけてしまった。
「大丈夫かね?華子さん」
裕次郎の父親、時次郎が華子に声を掛けた。
「大丈夫です。お父様。それより、
ぶつかったのは、充彦という少年らしい。
5歳くらいの少年で、美貴子の息子のようだ。目がくりくりとして、丸くて可愛らしさがあった。
声を掛けられた充彦は、華子をじっと見ながら、美貴子のところに行く。美貴子が言う。
「うちの充彦に怪我でもあったらどうしてくれるの!?」
充彦は美貴子の後ろに隠れる。
「ごめんなさい」
華子は謝罪をした。それを見ていた裕次郎が言う。
「お姉さま。そんなに華子がお嫌いですか?」
「あら。私は何もしていないわよ」
美貴子は裕次郎を睨む。充彦が言う。
「ゆうちゃん。ゆうちゃん」
充彦は裕次郎に懐いているようだ。充彦は裕次郎に抱っこをせがむ。
「ようし。裕次郎兄さんが遊んでやるからな」
「わーい。ゆうちゃん。だいすき」
「みっちゃんはこんなに素直なのに、どうしてみっちゃんの御母さんはいじわるなんだろうね」
裕次郎は充彦を【みっちゃん】と呼んでいるらしい。
裕次郎は充彦の頭を撫でながら言った。充彦は裕次郎の顔を見て言う。
「ママはパパと仲悪い。僕、悲しい。だから、ママ、はなちゃんに意地悪しろって言う。やらないとママ、怒る」
「そうか。みっちゃんは偉いぞ。男だ。でも、はなちゃんは僕の大切な人だから、もうそんなことしたら駄目だぞ!」
「うん。約束する。僕、ゆうちゃん大好きだから」
裕次郎は充彦に笑いかけた。充彦は裕次郎にべっとりだった。
美貴子は自分の悪事がばらされ、バツの悪そうな顔をした。良くも悪くも子供は正直だ。
華子は充彦に嫌われていないのを安心したのか、穏やかな表情だった。
子供をダシに自分の気に入らない人をいじめる。
美貴子が曲者のように思えた。美貴子の見た目はとても綺麗で品があった。
そんな風に見えても、品のある行動を取るとは限らないものだと改めて認識した。
それでも華子は美貴子を悪く言わず、ただニコニコしているばかりだった。
華子は誰も恨まない。そんな人に見えた。
私は単純に裕次郎と結婚する前の華子がどんな人だったのか気になった。
穏やかで優しくて、美しい。華子の印象はそんな風だった。
場面は切り替る。今度は華子がベランダで裕次郎と話しをしている場面であった。
「裕次郎さん。どうして私と結婚したんですか?」
「最初は一目ぼれだった。けれど、君の持つ芯の強さに惹かれたんだ」
裕次郎は優しい目を華子に送る。華子は少しだけ照れていた。
「私は柿澤家に相応しくないって今でも思います。だって、私は親に棄てられた子供だから」
私は華子の自身の過去が辛いものだったと知り、衝撃を受けた。
華子が楠田を受け入れたのも、自身と境遇が重なったのだろうか。
「君が捨て子であろうとも、そんなことは気にしない」
「ありがとう。まだ、話していないことが幾つかあるの」
華子は静かに言った。裕次郎は話していないことの内容が何なのか。
私はとても気になった。
琥珀の慟哭(中)2 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます