琥珀の慟哭(中) 3 (14)
華子が捨て子だったことは、衝撃だ。
「話していないこと?」
「ええ。私には兄が居ました。兄は私と供に施設に入りました。兄は親に
華子は暗い表情だった。
私はこの話を聞いて、益々、華子が楠田を気に掛けた理由が解った。
楠田を通して、華子は支えられなかった兄を助けたいと思っていたのかもしれない。
「そんなことはない。いくら兄弟と言っても、君は君だ。僕はそう思っている。それにお父様だって僕たちを認めてくれた。お姉様は君のことを嫌っている。けれど、それは君のことを知らないだけさ」
裕次郎は華子を抱きしめた。華子は裕次郎に身をゆだねる。裕次郎は一途に華子を思っていたのだろう。
私は思い出の途中で、手を離した。どのくらい時間が経過していたのか。私は時計を見る。
時刻は20時を過ぎていた。少し、お腹が空き、私は冷蔵庫から簡単に食べられる物がないか見る。
魚肉ソーセージを取り出し、それを食べた。
私が知りたいと思った思い出は、何時見られるのだろうか。
華子の40年の思い出と、華子が楠田とあった思い出。
何があったのかは、思い出を見ない限り解らない。
私は手を洗い、白い手袋を填める。再び、琥珀のブレスレットを触った。
思い出はゆっくりと見てきた。先ほどの思い出の続きだ。
「僕らはきっと乗り越えられるさ」
裕次郎は華子をしっかりと抱きしめた。その姿は力強かった。
裕次郎の決意は揺るがないものに見えた。華子は身をゆだねた。
「私はどんなことがあっても貴方について行きます」
華子は涙を流した。その涙は美しく、
美しい二人は、誰にも負けない絆を築いていく。
私には二人が羨ましく思えた。
このまま、二人が幸せに過ごしていく。私はそうであってほしいと願った。
けれど、私が見ているのは過去だ。どんな人生にも浮き沈みはある。
何時見ても思うが、思い出の持ち主の辛い過去を見るのは精神的に来るものがある。
思い出の持ち主が幸せであるのは、何よりも良いことだ。
二人は抱き合って絆を確かめた後、手を繋ぎ家に帰って行く。
そういえば、華子と裕次郎の間には子供ができたのだろうか。
弥生は華子の娘を装っていた。
けれど、今のところ、二人の間には子供ができている様子がない。
これからの思い出に二人の子供が出てくるかもしれない。
華子の思い出は様々なものだった。
華子をいじめる美貴子の陰湿さは、目を見張るものがあった。
見える思い出にはルールがない。
次に見えてくる思い出が、決して良いものとは限らない。
思い出がゆっくりと切り替わった。
華子は裕次郎の仕事を手伝っているようで、年末年始の挨拶の品物を送る作業をやっている場面だった。
「河西さん。これが
華子は部下の
「わかりました。華子さん。あの、この
「そうですね。はい。大丈夫です」
「わかりました。今日、手続きする会社は全部で20件。大丈夫ですか?」
河西はカタログと、会社の住所の紙を確認する。
「はい。そうです。お願いします」
「わかりました。華子さん。では、行ってきます」
河西はお歳暮の手続きをしに行った。ここまでは特に何も問題ない。
河西は会社のセキュリティを通り抜けて、お店に向かう。その途中で、美貴子に話しかけられる。
「河西さん。お疲れ様」
「あ。美貴子さん。こんにちは。ありがとうございます。今日はどうなさいました?」
「ちょっと用があってね」
美貴子は誰が見ても美しく、オーラのある女性だった。
通り過ぎる人が目を見張る容姿だ。
「社長、呼びますか?」
「いいの。あ、そうそう。私、裕次郎に頼まれてて、川原製菓のお歳暮、どうなっている?」
「川原製菓?あ。これですね。老舗青果店の果実100%ジュースの詰め合わせです」
河西はカタログを見せた。美貴子はじくりと見つめた。
「ねぇ。これ、私、やってきてあげるわ」
「え。これは私の仕事ですし、悪いですよ」
「いいのよ。これくらい。川原製菓には私、個人的にお世話になっているから。そうそう。いいお歳暮があるから」
私は何か嫌な予感がした。
河西は美貴子の有無を言わせない空気に負け、川原製菓のお歳暮を頼んだ。
絶対、美貴子は嫌がらせをしてくるに違いないと思った。
琥珀の慟哭(中)3 了
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