琥珀の慟哭(上) 7 (7)

 私は一度、ケースから手を離した。

 私は春木から教えてもらった弥生の電話番号に電話を架けることにした。

 数回のコールの末、男性が出る。


【はい。元木もときです】

 

  電話に出た男性は弥生を支えていた旦那だろう。私は取り繕う。


「弥生様から宝石の相談を受けた、川本宝飾店の川本です」

【宝石の相談?】

「ええ。買取をご希望している宝石についてです」


 弥生の旦那は私を訝しく思いつつも、信用したようだ。


【ああ。そうですか。では、弥生に変わります】


 旦那が弥生を呼んでいる。

 保留機能を使わなかったのか、電話機が二人の会話を拾う。


“宝石買取の川本宝飾店だって”

“川本宝飾店?”

“そうそう。弥生に電話”

“わかった”


 弥生が電話に出る。


【あの。代わりました】

「弥生さん。こんにちは。川本です」

【わかりました。あの、今、無理なので、今から携帯番号をお伝えするので、それに架け直していただけますか?】

「はい。わかりました」


 私は弥生の携帯番号をメモした。

 私はその携帯電話番号から、電話を架ける。すぐに弥生は電話に出た。


【弥生です】

「川本宝飾店の川本です。あの。いくつか質問したいことがありまして」

【え?もう見たんですか?】


 弥生は驚いていた。私はそれを訂正する。


「いいえ。まだ全ては。弥生さんご自身にいくつか質問がありまして」

【私に?ですか】

「ええ。お願い致します」

【わかりました】


 弥生は覚悟を決めたのか、落ち着いた声のトーンだった。私は意を決する。


「弥生さんは柿澤コーポレーションの柿澤かきざわ華子はなこさんの娘さんではないですよね。なぜ、そんな嘘をついたのでしょうか?」


 弥生は質問に驚いている様子が無く、息を吸う。


【やはり、解りましたか。さすがです。私は川本さんの言うとおり、柿澤華子さんの娘でもありません。嘘を着いた理由。そうですね。正直に話しても相手をしてくれないって思ったからです】

「相手をしてくれない?それは弥生さんが、南田みなみだ弘一こういちおよび、楠田くすだ弘輝こうきの本当の母親だからでしょうか?」


 私ははっきりと見えた情報からの質問をした。弥生は黙った。

 動揺しているのだろうか、それとも先ほどみたいに動悸が起きているのか。

 少し心配になったが、弥生は口を開く。


【やはり、誤魔化せませんでしたね。川本さんの言うとおりですよ。私は南田弘一、いいえ、楠田弘輝の母親です。殺人犯の親からの依頼だから、無理だと思ったんですよ】

「そうですか。失礼ながら、このブレスレットを預かった際の状況が見えました。その時、弥生さんは、柿澤華子さんからことづてを貰ったように見えたのですが?」


 弥生は再び、沈黙した。けれど、すぐに口を開く。

 その声は少し震えている声色だった。


【そんなに見えていたんですね。川本さんの前で、もう嘘もつけないですね。川本の噂をいくつか、耳にしたことがあります。いきなりの質問ですいません。川本さんが弘輝の罪を暴いたんですよね?】


 弥生は私をどう思っているのだろうか。どう思っていようと関係ないが、私が暴いたことで、楠田は逮捕された。


「そうですよ。私は弥生さんの息子、楠田さんの逮捕に貢献しました」


 私は嘘を着かず、はっきりと言った。

 弥生はまた黙った。電話越しではわからないが、困惑しているのだろか。


【そうですか。川本さんの能力は噂じゃなくて、本当だったのですね】

「ええ。そうです。ただ私の場合は、一度、見えて、何度も同じものが見えないのですけどね」

【へぇ。依頼した理由についての話ですけど、柿澤華子さんが依頼者で間違いないです】


 弥生は柿澤華子から貰った手紙について話し始めた。




琥珀の慟哭(上)7 了

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