トパーズの憂鬱 (下) 9
けれど、思い出は良いところで、再び、切り替った。
切り替った思い出は、寝室のベッドの上で、美砂子と遊作が話をしている場面だった。
「盗聴器を仕掛けたのが
遊作は心底、澤地を軽蔑した感じだった。美砂子は疲れた顔をしていた。
「うん。幹正くんは和義のことを嫉妬していたらしい。何か信じられない。澤地さんは……懲役3年になるらしい。でも、出所したときが恐い……」
「大丈夫だ。俺が守る」
遊作は美砂子を自分の胸に引き寄せる。美砂子は遊作に身を委ねた。
「じゃあ、一件落着ってことか」
「そうだね」
美砂子は遊作に笑いかける。
遊作は嬉しそうに美砂子に覆いかぶさるようにキスをした。
美砂子は突然のキスに驚きつつも、受け入れた。
「じゃあさ、二人目、作らない?」
「……ごめん。今はまだ」
美砂子は少し困惑した。それは何かを心配しているように見えた。
「そうか。ごめん。色々、あるもんな。無理言ってごめん」
遊作は少ししゅんとしているように見えた。
「ありがとう。ごめん」
美砂子は遊作の胸に身をゆだね、目を瞑った。遊作は美砂子の髪を撫でて、遠くを見つめた。
私は遊作のその目がなんだか気になって仕方なかった。
もうすぐ思い出が終わる気がした。
何かの嫌な予感は消えず、私はその続きを見るのが恐い気がしてきた。
私の
今度は美砂子が警察署で、刑事と話している場面だった。
刑事の名前は解らないが、
「叶井美砂子さん、今日はご足労をありがとうございます。澤地容疑者について、いくつかお話がありまして」
「お話?」
美砂子は心配そうに刑事の顔を見る。刑事は咳払いをし、口を開く。
「澤地容疑者は、貴女の旦那様の叶井遊作さんをめぐってかつて、
「はい。そうですが。それが理由で、澤地さんは私が
美砂子は嫌なことを思い出し、苦々しい表情を浮かべた。刑事は少し申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「実は、澤地の
「普段の様子?
美砂子は遊作を思い出しながら言った。その表情は柔らかく、愛しい人を思い出している様子だった。
刑事は
私は刑事のこれから言う言葉が、なんとなく嫌な予感がした。
「叶井美砂子さん、ありがとうございます。これからお話する内容は、澤地の精神状態がまともか否かの判断がし辛いので、疑惑程度に収めてください」
「一体何のことでしょうか?」
「実はですね。澤地が言うには、美砂子さんが神坂和義さんとご結婚されていた際の嫌がらせが、叶井遊作の主導で行われていたということです。澤地が言うには、【美砂子に嫌がらせしたら、結婚してやる】と叶井遊作から言われたそうで」
美砂子は刑事の言葉に動きを止めた。
徐々に美砂子の顔色が青ざめていくのが解った。
美砂子は肩を震わせ、目を見開く。その目には涙と、絶望の色が見えた。
嫌がらせの主犯は、【叶井遊作】だった。私はつくづく、叶井遊作に吐き気がした。
美砂子は言葉を失い、ただ震え、涙を流した。刑事が心配する。
「美砂子さん、大丈夫ですか?」
「……はい。あの、私はどうしたら」
「非常に難しいかと思われますが、本当のことがはっきりとするまで、叶井遊作とは別居したほうがいいかと。勿論、事件のことは警察にお任せください。家庭内のことは、できる限りご自身でお願いできますか。弁護士等のご紹介はできますので、そちらはご安心ください。本日はご足労ありがとうございました。私の部下に家まで送らせます」
「あ、いいです。一人で帰れます」
美砂子は必死で正気を保とうとしていた。その姿が痛々しく、私は胸が痛くなった。
何故、美砂子はこんなにも苦しまなければならないのか。
美砂子を追い詰める、遊作に私は心底、絶望した。
トパーズの憂鬱 (下) 9 了
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