トパーズの憂鬱 (下) 10
ゆっくりと見えてきた思い出は、刑事が美砂子に【
美砂子と遊作が
美砂子の表情は決して明るくなく、遊作は再会の喜びを感じているように見えた。
遊作が言う。
「昔、ここで、俺が「亮子とも付き合っていた」ことを美砂子に言ったな」
「そうね」
「あの時は傷つけたよな。本当ごめんな」
「ええ。そうね。本当にショックだった」
遊作は美砂子の肩を抱き、満足そうな表情を浮かべた。
「あの時から俺は美砂子だけだったんだけど、澤地がしつこくってさ。美砂子と付き合うあら、会社をクビにするだのとかな」
遊作は昔を懐かしむように言った。美砂子はそれをぼんやりと聞く。遊作は続ける。
「思えば、あの時、すぐに会社を辞めて自営業でも何でもすぐにやればよかったよな。今、こうして食べていけているわけだし」
美砂子が何も返事をしないことに、遊作は顔を覗き込む。
「どうした?」
「うんうん。なんでもない」
「何か。美砂子、俺のこと嫌いになった?」
「………そんなこと」
「良かった。何か澤地が捕まってから、美砂子が俺を避けているみたいだし。あんな精神異常者の女に好かれる俺に
美砂子は顔色が悪くなり、隣にいる遊作から離れようと肩の手をはがそうとする。
遊作はそれに気付き、手のほうを見る。
遊作の手は力強く、剥がすことはできなかった。
「まだ解らない。それに」
「それにって。亮子の裁判が終わっていないからか。亮子のことを気にしているのか?」
「………」
美砂子は遊作を見るも、すぐに目を反らす。遊作は含み笑いをする。
私は恐くなってきた。遊作は子供連れの家族を見て言う。
「由利亜がもう少し大きくなったら、この花園公園にまた行こうぜ。いいよな。これで晴れて三人。邪魔が入らない」
「ねぇ。遊作」
「何?」
「聞きたいことがある。本当のことを教えてほしい」
「ん?」
美砂子は遊作の顔を見る。その表情は真剣だった。
遊作は何かを感づいたのか、徐々に表情を変えていく。
遊作の表情は険しいものになっていた。
美砂子は刑事から聞いた内容を遊作に聞くのだろうか。
それは事実上の決別になるかもしれない。私はその様子を見ることしかできない。
「遊作は、私が和義と結婚した後、どう過ごしていた?」
「どうって?」
「どう思っていたかってこと」
「っははは。さっきも言ったけど、後悔していたよ。ずっと。何でこんなことになったのかって」
遊作は両手を組み、力を込めた。遊作は美砂子を見る。
「正直、裏切られたと思った。俺じゃなくって、なんでアイツなんかと」
私はその様子が少しだけ恐い気がした。美砂子が言う。
「澤地さんは本当に、自分の意思だけでやったの?」
「ん?何を言っているの?アイツは元々、頭がイカれているからなぁ」
遊作は笑いながら言った。私はその姿が恐くて、背筋が凍った。
「澤地さんが、遊作から「美砂子に嫌がらせしたら、結婚してやる」と言われたって証言しているの」
美砂子は少し震えながら言った。遊作は美砂子を見る。
その表情はなんともいえない険しい顔をしていた。けれど、すぐに表情を変える。
「何を言っているんだよ。俺がそう言うか?何したって、俺が亮子となんて結婚しない。美砂子も亮子の言うことを信じるのか」
「………」
美砂子は遊作と座っているベンチを離れようとするが、遊作に手を押さえられた。
美砂子は遊作が嘘をついていると思った。
遊作は美砂子がどう思っているか察したようだ。
美砂子が問いただす。
「本当のこと、教えて。お願い」
「そうだよ。そう言ったよ。けどな、まさか、美砂子が信号待ちしている中、押すなんてな。本当、ぞっとしたよ。だから、俺は亮子を突き放した。そしたら、今度は「私を無視するなら、あなたに言われて美砂子に嫌がらせをしたって警察に言う」って言ってきてさ。本当、参ったよ。で、仕事辞めて、亮子の前から姿を消して自営業を始めたんだよ」
私は遊作の自分勝手な言い分に寒気がした。本当に好きな人を思い通りにできなかったからって、嫌がらせをする。
心底、気持ち悪い男だと思った。美砂子の顔が青ざめていく。
「……信じられない。酷い」
「酷い?そうだな。俺は最低で酷いよ。けど、解ってくれ。俺には美砂子しかいないんだ。それに由利亜のことだって」
遊作は美砂子の肩を掴む。美砂子はそれを振り払った。
トパーズの憂鬱 (下) 10 了
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