琥珀の慟哭(下) 33 (63)
その願いが何なのか。会話の内容と華子の反応が物語っていた。
「資金に困ってるんです」
「そう言われても私も困るわ。次期社長の祐に権限を移し始めてるから」
華子は社長の座を完全に祐に受け継がせるつもりらしい。
「でも、華子さんは祐に勤まらないとおっしゃっていませんでした?」
「そうね。でも、これまではそうだった。でもね、変わってきたのよ」
「変わってきた?あの人は冷たい人だと思う。私はあの人とやり直したかった。だけど、あの人が私にしたことと言えば」
「それは辛かったでしょう。私も昔の祐は本当に冷たい人間だと思ったわ。エリート思考が強く、完璧を求める。それは関わる人全てに、パートナーにおいても。この前、話してくれたわ。あなたが祐に一生懸命になってくれたことで変われたみたいなのよ」
「どういうことですか?あの人は私を軽蔑した目で見ていました。最後まで」
華子は二人が大分すれ違っていると思ったようだ。
日名子は目に涙を浮かべる。
「あの人はずっと私を軽蔑していた。華子さん、あの離婚だって初めて言った日。あの人は私を汚いものだと罵倒したんですよ」
「私もあの子の育て方を間違えたと思っていた。その説は親の私からも謝罪させてもらうわ。ごめんなさい」
華子は日名子に頭を下げる。日名子は首を振った。
「華子さんは私の味方をしてくれました。あの人自身に問題があるんですよ」
「そうね。でもね、でもね、この前、私が運転手を
「本当ですか?」
「ええ。本当よ。私もびっくりした。祐はあなたを必要としているわ」
「え?」
「祐はあなたを必要としているわ。本当だと思う」
日名子は華子の言葉が信じられず、動揺する。
目には涙を浮かべていた。
「信じられないかもしれない。でも、それは本当かもしれない。まあ、祐はあなたと離婚してから女性との交際はないようだし」
「そう……なんですか?」
華子は首を縦に振った。祐の発言からすると、そうかもしれない。
「それに祐にはパートナーが必要なのよ」
大企業の社長にはパートナーが必要だろう。
華子は自身の経験上からの意見なのかもしれない。日名子は遂に泣き始めた。
「華子さん……」
「大丈夫よ。祐を呼ぶわね祐。入ってきなさい」
祐は遠慮がちに二人がいる部屋に入ってくる。
これまでの様子と違っていて、逆に新鮮に見えた。
日名子は祐を前に驚き、手を口に当てた。
「これまでのこと、悪かった」
祐は日名子に頭を下げる。日名子は祐の手を握りしめた。
「私は」
「僕は君をズタズタに傷つけた。中々に許せないと思う。けど、気づいたんだ。僕には日名子が……必要なんだ」
「祐……」
「さて、年寄りは退散するわ」
華子は二人に微笑みながら、部屋を出ていった。
二人の仲は元通りになったのだろうか。
華子は部屋を出ていくと、スマートフォンを取り出し着信を確認する。
どうやら、磯貝からの着信があったらしい。華子は磯貝に電話を掛ける。
「あ、磯貝さん?」
華子は磯貝と電話で話を始めた。
『今からこちらに来れますか?』
電話口の磯貝は至って元気な口調だった。
「今から?そうね、難しいわね」
『そうですか。じゃあ、明日はどうです?』
「明日?」
華子はカバンから自身の手帳を取り出す。
予定を確認した。
「大丈夫よ」
『良かったです。静音と一新にB区のカフェ リロードに午前10時に行きます。いいですか?』
「解った。リロードに10時ね」
『あのぅ。柿澤コーポレーションはこれからどうするおつもりですか?』
「どうするって?」
『あの、後継者とか』
「次の人のことねぇ。そうね。私は祐に受け継がせる予定よ」
磯貝はその言葉に沈黙する。恐らく陸に跡を継がせようとしていると思っていただろう。
「どうしたの?磯貝さん?」
『あ、いや、その何でもないです』
「何?変な人。切りますね。明日は宜しくね」
華子は電話を切った。
今の段階で磯貝が華子を襲撃する様子はない。この流れだと、陸が怪しい。
考えたくはないが、陸が華子を自分を棄てたと思っていたらどうだろうか。
琥珀の慟哭(下)33 了
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