トパーズの憂鬱 (下) 14


 私は店の前に着くと、店のドアに手紙が挟まっていた。

 私はそれを手に取る。


 封を開けると、由利亜からの手紙だった。


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川本宝飾店様


お休み中のところ、すいません。

三日間もお休みのようですが、体調は大丈夫でしょうか?

また戻ったら連絡をください。

私の連絡先は080-×○○△―×○Ж□です。


戸松由利亜


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 私は店のポストの郵便物を回収し、店の中に入った。

 私は店の中に入ると、電話を起動し、文芽に電話を架ける。

 思い出を見ていた際、文芽の電話番号を控えておいた。


 私は由利亜に美砂子の過去を話すのを報告するべきだと思った。

 文芽に事情を話すのは、由利亜を裏切ることになる。

 けれど、文芽に何も言わずに話すのは気が引けたからだ。


 三度目の呼び出しで、文芽は出た。


「あの、こんにちは。川本宝飾店です」

【川本?ああ。あの宝石店の。どうしました?】

「由利亜さんのことでお話が」

【そうですか。由利亜が何か言いましたか?】


 文芽の声色は、緊張と不安が見えた。私は息を吸い、口を開く。


「由利亜さんから、本当の母親のことを知りたいと依頼されました」

【え?川本さんは探偵などをやっていらっしゃるのですか?】


 文芽は驚いているようだった。私はここで、【物に触れると過去が見えること】を説明するにも時間が掛かると思った。だから適当に流すことにした。


「ええ。まあ。そんなところです」

【そうですか。それで解りましたか?】

「ええ。それを本当に由利亜さんに正直にお伝えしてよいかどうか。文芽さんの意見を聞きたく連絡を差し上げました」

【そうですか………】


 文芽はしばらく沈黙した。文芽は由利亜が真実を知ることで、精神的ショックや何かしらの障害を心配しているのだろう。それと自分のせいで、美砂子が死んだと思っているのかもしれない。


「あの大丈夫ですか?」

【ああ。大丈夫です。そうですね。いずれ解ることですし。お電話ありがとうございました。真実をそのまま、お伝えください】

「解りました」

【わざわざ、ありがとうございました】

「いいえ」


 私は文芽との電話を終えた。これで良かったんだ。

 文芽に何の許可もなく、過去をべらべらと話すのは気分がよくない。

 一瞬、文芽が過去についての話を反対してくるかと思い、心配したが余計だったようだ。

 私は由利亜に電話をかける。数回呼び出したが由利亜は出なかった。

 私は留守番電話のメッセージを入れる。


「戸松由利亜さん。私は川本宝飾店の、川本です。由利亜さんの実の御母さんの過去が見終わりましたので、今日、来れたら着てください。お店は閉めた状態にしていますが、私は中にいますので、店の扉をノックしてください。それではお待ちしております」


 私は留守番電話録音を終えると、電話を受話器に置く。

 私は由利亜を出迎えるために、掃除を始めた。

 私は三日間眠る前に見た美砂子の過去を、頭の中で整理した。

 実の父親が叶井遊作で、美砂子を殺害した張本人。遊作はどうなったのだろうか。


 私はスマートフォンを取り出すと、【2002年2月6日 事件】で検索した。

 検索すると、一番上に表示された見出し【花園遊園地 主婦殺害事件】をタップした。


 そこには、事件の詳細が書かれていた。逮捕された叶井遊作は裁判で有罪となり、一審では無期懲役となった。

 しかし、最終的には懲役二十年の判決になったらしい。

 東京都のB区の刑務所に服役していると書いてあった。サイトの文章を読み進めていくと、遊作の現在の情報があった。

 遊作は美砂子を殺害したその三年後の2005年の四月、獄中で首吊り自殺を図ったようだ。


 私はなんとも言えない気分になった。スマートフォンを閉じると、ため息をつく。

 美砂子の人生は波乱万丈だった。

 けれど、最初から最後まで、文芽という親友がいたことは美砂子にとってかけがえのないものだったのだろう。


トパーズの憂鬱 (下) 14 了

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