タンザナイトの夕暮れ時(中) 4(15)
余計なことを考えるのを止めて、今日も仕事に専念しようと思った。
川本宝飾店のある商店街に近づくと、案の定、
人の死をエンタテイメントにしているようで胸糞が悪くなる。
倉知の兄が殺人を犯したことがかなりの要因だ。私はそれを暴いた。
私は苦しくなった。私が川本宝飾店に向かうと、新聞記者らしい男性が話しかけてくる。
「あのう。川本宝飾店の川本リカコさん?ですよね?」
「?」
「
「っ。何か御用ですか?」
私は警戒する。記者は私の顔をニヤリと笑う。
男性の顔はキツネのような目をしており、鋭い雰囲気で気が抜けない様子だった。
「そんなに恐がらないでください。僕はあなたをどうにかしようと思わないですよ、取材です。取材。勿論、謝礼は沢山出しますよ?」
「謝礼はいりません。ただ、加害者家族を中傷するような記事は書かないでください。倉知さんがどんな思いでいたか知ってください。彼はきっと加害者の家族ということで酷い目に遭ったのですから」
「そうですね。僕も加害者の家族が不当に差別される現状に納得はいかないです。でもね、川本さん。あなたにだって責任あるのではないですか?」
男性は私の行き先をけん制するような物言いだった。つまり、この記者は私が過去をあばかなければ自殺などしなかったということか。
「……私にも責任はあると思っています。だったら殺された被害者はそのままで、いいんですか?被害者の彼女は不当に殺され、遺棄されました。倉知さんのことは本当に残念だと思います。でも、殺人は見逃しちゃいけない。私はそう思っています」
「ブラボー。貴女の正義感あふれる姿、とても素敵です。貴女の彼氏もそういう人ですよね?そうそう、森本ヒカル刑事とはどのくらいの関係ですか?」
この記者の狙いは森本だったらしい。男性は森本の何を探ろうとしているのだろうか。私は男性の顔を見た。
「あなたの狙いは森本だったんですね。悪いですけど、一般市民の個人情報は守られています。これ以上、探るのであれば弁護士に相談します」
私は男性の顔を睨みつける。男性はへらへらと笑いながら、後ろに下がっていく。
どうやら追い払うことはできたようだ。男性は私の後ろに向かって何かを言い始めた。
「あなたは人殺しを愛せますか?森本ヒカルはどうかと思いますよ」
私はその言葉を無視した。
「あなたは人殺しを愛せますか」。
この言葉の意味は森本の過去の事件についてなのだろう。
はっきりとしたことは解らない。私は気を取り直して仕事場に向かった。
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川本宝飾店の店の前に着くと、森本が待っていた。
「おはよう。行く前に少し顔見たかったからさ」
「あ。おはよう」
「顔色、悪いよな。白井のことも、倉知のことも色々と」
「う、ん」
森本は私を抱きしめた。その手は暖かくて心地よかった。森本は私の背中を優しく叩く。
私は先ほどの記者のことが頭を過ったが、心音と温かさに落ち着いてくる。
いつもタバコを吸っているけれど、今日はいい匂いがした。
「何かいつも、タバコのにおいなのにいい匂いがする」
「今日はまだタバコ吸ってないからな。最近、禁煙しようかと思ってる」
「そうなんだ」
私は森本から離れた。森本は優しく笑う。あれだけタバコを吸っていたのに簡単にやめられるものだろうか。
「簡単に止めれるの?」
「どうだろうな。解らない」
「そう。あのさ」
「ん?どうした?」
「やっぱ、いいや」
私はいざ、本人を目の前に聞けない気がした。
森本とあの記者の間に一体何があったのだろうか。森本は私の顔を覗き込む。何かに気づいたのか表情が険しくなる。
「なぁ。さっき変なことあったろう?」
「へ?変なことか」
「そうだな。実はな」
森本はそのまま、先ほどの記者のことを話し始めた。
タンザナイトの夕暮れ時(中) 4(15) 了
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