トパーズの憂鬱 (上) 10


 時刻を確認すると、02時15分だった。

 私は眠れなくとも布団の中に入ろうと思い、トパーズのネックレスを丁寧にケースに閉まった。


 私は布団に入ると、目を無理矢理瞑つむる。次第に眠気が起き、眠った。


 幸い夢は見なかった。

 よく寝る前に思っていたことが夢に現れることがある。

 変に思い悩まずに済んで良かったと思う。

 朝は気持ちよく起きれた。由利亜の母親かもしれない美砂子に、何が遭ったのだろうか。

 それを確かめなくてはいけない。


 過去を見る行為は、エネルギーを使う。その為に朝ご飯をしっかり食べた。

 私は万全の状態で支度をし、店に向かう。

 鞄にはトパーズのネックレス。


 昔は朝の出勤や通学で行き交う、街を通るのが嫌だった。


 余計なものを見てしまって、精神的にすり減るからだ。

 けれど、今はある程度コントロール出来るようになった。

 気を抜くと見えてしまうのが難点だが。普通の生活を送れるようになった。


 商店街にある【川本宝飾店】は、目立つ外装じゃない。

 小さな洋風の雰囲気だ。

 店の前に着くと、茶髪の女性がうずくまっていた。


 よく見ると、戸松由利亜とまつゆりあだった。


「由利亜さん?」

「あ、すいません。早く来てしまって」


 由利亜は店の前に何時いつから居たのだろうか。


「由利亜さん、何時から居たの?」

「えっと30分前くらいかな」


 由利亜は私を見て嬉しそうにした。


「学校は?」

「……休みました」


 由利亜は頭を掻く。


「休んで大丈夫なの?」

「どうしても、本当のことが知りたいんです」

 

 由利亜は私の腕を掴んだ。私は由利亜を見る。由利亜は真剣だった。


「解ったよ。ただ全てが見えるまでは時間が掛かるかもしれないし、見えないこともあるかもしれない。それだけは解ってほしい。いい?」

「はい」


 由利亜は首を縦に振った。由利亜の真剣さに私は応えたいと思った。


「じゃあ、今まで見えたことまで話すよ。とにかく店の鍵開けるよ」

「ありがとうございます!!」


 由利亜は元気よく言った。

 私は由利亜を店に入れると、椅子に座らせた。

 私はトパーズのネックレスが入っている宝石ケースを鞄から丁寧に取り出す。

 由利亜はその様子を見つめた。

 私は白い手袋をはめ、宝石ケースからトパーズのネックレスを宝石受けに置く。


「昨日までで見えたことを話します。いいですか?」

「はい。お願いします」


 由利亜は首を縦に振る。その様子は少しだけ緊張しているようにも見えた。

 私は息を吸う。


「まず。このネックレスはあなたの育ての母親 戸松文芽とまつあやめさんが友達の梶原かじはら美砂子みさこさんへのプレゼントで渡されたものでした」


 由利亜は梶原美砂子という名前に反応を示した。


「梶原さんを知っていますか?」


 私は由利亜に質問した。由利亜は私を見る。


「知っているというか、私の本当の母親はその人だと思っています。ずっと母親の文芽と似ていないから可笑しいと思って市役所で調べたんですよ。で、親戚の叔母さんに聞いたら【養子】だって教えてもらって」

「そうだったんですね。美砂子さんが本当の母親で間違いないと」

「はい。でも、父親は解らなくて。本当の母親の美砂子は死んだらしくって。それについては親戚の叔母さんは教えてくれなくて」


 由利亜は辛そうな表情だった。文芽が本当の母親の話をしないのは、何か重要なことを隠しているのではないかと思った。


「そうだったんですね。実は、美砂子さんがこのトパーズのネックレスを貰い、彼氏とデートしているところ、その彼氏とのエピソードまでは見えました」

「デート?その相手の名前は解りますか?」

「ええ。叶井かない遊作ゆうさくさんです。知っていますか?」

「叶井遊作?知らないです」


 由利亜は叶井遊作を知らないようだ。遊作は父親じゃないのだろうか。


「知らないのですね。あと、遊作さんは美砂子さんと付き合っているとき、同時に職場の別の女性の澤地亮子さんともお付き合いしていました。所謂いわゆる、二股です」

「そうなんですね。二股……ひどい」


 由利亜は自分の母親が二股をかけられていたことに動揺していた。

 衝撃かもしれない。


「思い出は、美砂子さんと遊作さんが別れるところまで見えました」

「別れたんですね。じゃあ、父親は別にいる?」

「断言はできませんが。今のところは」


由利亜はトパーズのネックレスを見た。


「じゃあ。今からまた続きを見ます。大丈夫ですか?」


 私は由利亜に質問した。由利亜は頷く。私はトパーズのネックレスに触れた。


トパーズの憂鬱 (上) 10 了

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