琥珀の慟哭(下) 47


祐の銃口は壁に向かい、弾が壁に当たった。


「おい、なんてことすんだよ!」


ボールが飛んできた方向を見た。楠田の姿だった。


「南田くん。どうしてここに?」

「華子さん。祐さんに連絡を貰いましたが、ここに着たのは僕の意思です。初めまして、祐さん。俺が南田みなみだ弘一こういちです」

「本当に着たんだな」


 祐は驚きつつも、想定内だったらしい。その様子を華子が見つめた。


「祐。どうして、南田くんに連絡を」

「人が多いほうがいいでしょう。僕はそう思いますけど」

「来ましたけど。こんな状況だとは。警察は呼びましたか?」

「呼んでない」

「……どうするんですか?祐さんはその方を殺害するんですか?」

「……ああ」


 美佐代が笑う。


「っははははは。これで華子さんは殺人犯の母親。さっさと私を殺しなさい!殺せ!殺せ!」


 美佐代は祐に向かって大声で威嚇するように言った。

 祐は睨みつけて、再び銃を向ける。けれど、楠田は祐を取り押さえ、銃を奪い、床に落とした。

 楠田はそれを更に蹴り、飛ばした。


「おいおい、南田くん。どうしてくれんのこれ?」

「どうにもこうにも華子さんを悲しませるようなことはするべきじゃないです」

「へぇ。君も人を殺してるくせに正義のヒーローぶってるの??」

「いいえ。俺はただ華子さんのことを思って」

「そうか。すいませんね。でも、このアマは殺さないと」


 祐は美佐代の肩を掴む。その時だった。銃声が響いた。

 銃声の音を辿ると、それは華子が銃を発砲していた。銃の玉は壁に当たり、薬莢やっきょうの匂いと湯気が上がっていた。


「お母様。なんてことを」

「いいの。はぁはぁ。私が、美佐代さんを殺す」

「華子さん。止めてください、俺がやります」

「はぁ?南田くん何を言っているの?あなたが私のためにやることじゃないわ」


 華子は銃口を美佐代に向けたまま、楠田を見た。磯貝が笑い始める。


「っははははははは。すごいなぁ。何かもう凄い。コレどうなるのかすごく気になる」

「お前。笑っているけど、お前の命もヤバイことを理解しろよ」


 祐は磯貝をにらみつけた。磯貝はそれをへでもないようだった。


「俺?殺されるの?別に構わねぇけどな。俺には家族なんていないし」

「そうか。じゃあ、殺してやろうか。俺が」


 祐はどこからともなく、縄を取り出し、美佐代を縛りつけた。

 祐はじりじりと、磯貝に近づく。磯貝は急に恐くなり、後ずさる。


「止めなさい。祐。この人は関係ないわ」

「いや、関係ある。俺の友達もこの男に騙された。だから、殺す」

「ちょっと正気なの?友達ってヤクザの?」

「そうだよ。僕の昔からの友達だよ。だから、コイツを殺す」


 祐は磯貝の前に立つ。先ほど、美佐代が用意したナイフを手に取る。


「ちょっと。祐!やめなさい!」

「いいえ。僕がやらないといけないのです」

「だめ!」


 華子の制止も虚しく、祐は磯貝の腹部を刺した


「っぐ」

「っ。死ねぇ」

「っひいぃい」


 祐は磯貝を二回、刺す。二回目を刺たし時、ナイフから血が流れた。

 あまりにもむごたらしい光景に華子は目を反らす。

 楠田はただその光景をぼんやりと見る。祐はにやりと笑うと、自身の手に着いた血を舐める。祐は美佐代のほうを見た。美佐代は少し怯えている。


「これで満足ですか?美佐代さん。あなたのお母さんは、私の叔父を殺した。だから、制裁を受けるべきです」

「ゆ、祐、止めなさい。これ以上は」

「お母様は黙ってください。これはお母様のためを思って」

「祐さん。それ以上やったら戻れなくなりますよ」

 

 楠田は祐を止めようとした。しかし、そんな楠田を祐は笑う。


「はぁ?」

「……俺みたいに戻れなくなります」

「……戻れなくなる?どうだか」


 祐は楠田を見て更に笑った。


琥珀の慟哭(下)47 了

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