琥珀の慟哭(下) 46



 玄関口なのか、人の姿が見える。華子は知っている顔を見つけたのか、顔を歪ませた。明らかにモニターの画層は会社のオフィスの玄関だった。


「……解ったわ。わかった。磯貝さんは殺さないが、あなたの要求は聞きましょう。何が目的?お金?」

「解っていないようね。磯貝を殺せって言っているの!」

「だから、そんなのできるわけないでしょう!」


 華子は声を荒げた。美佐代は少しだけ怯む。磯貝が大笑いをした。


「これは笑える。美佐代さんだっけ?華子さんにそんなことできる?というか、今の感じだと、美佐代さんは華子さんにビビッているように見えるけど」

「黙りなさい!」


 美佐代はナックルを填めると、磯貝の顔を殴った。磯貝は衝撃で椅子から転げ落ちた。


「っ!痛っ。何すんだ、クソアマ!」


 磯貝は美佐代に攻撃しようにも、両手首と両足を縛られているためできない。


「あなた、自分の今の状態を理解している?」


 華子は磯貝の身体を蹴り上げた。くぐもった声が聞こえてくる。


「っ。何すんだ」

「あなたの今の状況を理解させるためよ。さあ、早く、華子さん」

「……本当にやらす気なのね」

「早くやりなさい。じゃあ、まずは玄関を爆」

「解ったわよ」


 美佐代は華子を縛っている縄を解くと、ナイフを握らせる。


「じゃあ、早く磯貝を殺しなさい」

「そうね。じゃあ、まずはあなたを」

「おっと。そういうことだと思ったわ」


 美佐代は華子の腕を押さえ、ナイフを取り上げた。美佐代は笑う。


「っ」

「このままだと、私のほうが有利よ。状況をお分かりかしら?」


 美佐代は華子の腕を強く掴み、抑えつけた。その力はかなり強く、華子の表情は酷く歪む。


「そうね。あなたのほうが優位に立っているわ。私をどうするつもり?」

「まずはあなたの腕を折ろうかしらね」


 美佐代は華子の腕を折ろうとする。華子は苦しそうにした。磯貝がそれを止めようとする。


「お、おい、アンタさ、やりすぎでしょう。いくら母親の件で逆恨みしているにも酷くないか?」

「ああ?あんた、私に意見する権利あるの?黙っていなさい!」


 美佐代は再び、磯貝の腹を思い切り、蹴る。磯貝は痛みでかがむ。華子は美佐代が磯貝に構っている隙にナイフを取る。

 華子は美佐代に向かって切りつけようとしたときだった。

 そのナイフを取り上げる人がいた。それは祐だった。


「お母様。手を汚さないでください」

「なんでいるの?」

「それは後をつけてきたからです」


 祐はナイフを取り上げると、自分の上着ポケットに入れる。美佐代は舌打ちをした。


「つか、何で柿澤の坊ちゃんがいるわけ?」

「美佐代さん。お久しぶりです。僕のお母さんに手を出すなら、美佐代さんでも許しませんよ?」

「ちょっと。祐。どういうことなの?美佐代さんと知り合いなの?」

「知り合い?というより、僕の友達の友達?ってとこです。お母様。僕は嘘を着きました。僕は反社との友人関係を続けています。だから、僕を戸籍から抜いてください」


 祐の言葉に嘘があるようには見えなかった。本当にヤクザとの縁は切れていないのだろう。


「そんな」

「だから、ここに着たのもあります」

「は?」

「だから、僕はここで美佐代さんを殺します」

「っはははは、坊ちゃんに何が出来るの?私を殺す?無理に決まっているじゃない?」

「それはどうですかね?」


 祐は上着から銃を取り出した。銃は小型銃だった。それを美佐代の頭に向ける。


「本当にできるの?このまま私に銃を向けて撃ったとして、血があなたに着くわね」

「だからどうした?」

「あなた潔癖症じゃなかったかしら?」

「だまれ!」


 祐は銃の引き金を引こうとした際、華子が祐の手を止める。


「危ないだろうが!」

「あなたが殺人犯になるなんて耐えられない!」

「華子さん。あなたは何もわかっていない。僕はもうまともには生きられないのです」


 祐は再び、美佐代に向かって銃を向ける。遂に引き金を引こうとした際、手元に何かが当たった。それはボールのようなものだった。


琥珀の慟哭(下)46 了

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