トパーズの憂鬱 (中) 14


 美砂子は電話の子機を置いた。美砂子は涙を流し、嗚咽する。

 美砂子が泣いているのに、連動するかのように由利亜が泣き出す。

 美砂子は由利亜のベッドに近づき、抱き上げる。


「よしよし。お母さん、阿婆擦れって言われちゃったよ」


 由利亜は泣き止まない。美砂子は由利亜の背中をさする。

 美砂子の心情が流れてくる気がした。かなりの心労と、不安で美砂子の顔色は悪かった。


 美砂子は由利亜のオムツを変えた。由利亜は泣きつかれたのか眠っている。

 私は嫌がらせの犯人が、澤地亮子じゃない気がしてきた。

 様々な可能性を考える。


 文芽は確実にあり得ない。だとしたら?


 考たくはないが、和義の姉の城内きうち夏菜子かなこじゃないだろうか。

 根拠は和義の両親が結婚を反対していたことだ。

 けれど、両親が反対していただけで嫌がらせをするものだろうか。


 根拠が弱い。私は再び、考え直す。

 しばらくすると、和義がマンションに戻ってくる。


「ただいま」

「あ、お帰り」


美砂子は涙の痕をぬぐい、誤魔化した。和義は美砂子の様子に気付く。


「何かあった?」

「変な電話がね」

 

 美砂子は台所に向かう。和義はその姿を見る。

 和義は美砂子に意を決して言う。


「実は、俺と姉ちゃんは実の姉弟じゃないんだ」

「なに?どういうこと?」


 美砂子は和義を見る。美砂子は突然の和義の発言に首をかしげた。


「だとしても別に関係なくない?」


 美砂子は乾いた食器を棚に戻す。和義は言いにくそうだった。


「いや、そうなんだけど。姉ちゃんは父さんの連れ子で、俺は母さんの連れ子だった」

「それに何か関係あるの?」


 美砂子は手に着いた水滴をタオルで拭く。美砂子は和義に向かい合う。


「俺さ、美砂子に出会う前に振られたって言ってじゃん?」

「うん」


 私の嫌な予感は的中したのだった。


「俺の好きだった人って、姉ちゃんなんだ」

「………」


 美砂子は和義を見る。美砂子は下を向く。混乱しているのが解った。


「でも、それ、昔のことでしょう」

「そうなんだけど。考えたくないけどさ、もしかしたらって」


 和義も私と同じ事を考えているようだった。

 嫌がらせの犯人が和義の姉の城内夏菜子じゃないかと。


「城内さんが?」

「何かここで言うのもあれだけど、美砂子と付き合い始めたときに、姉ちゃん面白くなさそうにしてた」

「どういうこと?」


 美砂子が聞き返した。和義は目を反らす。


「幹正が言うには、姉さんが面白く思わなくてやってるんじゃないかって」

「そんなのって」


 美砂子は仕事で城内に助けてもらっていたことを思い出した。信じられないという表情だ。美砂子は下を向く。


「本当、ごめん。俺、迂闊うかつだった」


 和義は美砂子に頭を下げる。美砂子は涙目になっている。


「ごめん。一人にして」


 美砂子は断りを入れ、そのまま、寝室に走っていく。寝室に行くと鍵を締めた。

 和義がドア越しに言う。


「姉ちゃんに相談したのが間違いだったな。本当にごめん」

「和義は悪くない。本当にしばらく一人にして」


 和義はドアから離れたのか、声はしなくなった。美砂子の混乱は激しかった。

 苦しくなり、過呼吸になっている。私は心配になった。

 美砂子は携帯電話を取り出し、文芽に電話を架けた。

 数回の呼び出しを鳴らしても文芽は出ない。


 美砂子は携帯電話を机に置く。ため息をついた。

 美砂子は携帯電話の電源を切った。

 美砂子はこれまでを思い出しているのか、涙を再び流す。


 和義はどうしているのだろうか。

 美砂子は落ち着いたのか、寝室から出た。


 和義はドアの前にいたらしい。美砂子は和義と目が合うと、何も言わない。

 正確には何を言えばいいのか、解らないようだった。


 和義が言う。


「今まで黙っていてごめん」

「確かにショックだったけど、謝ることじゃない。まだ城内さんが犯人って決まったわけじゃない」


 和義は下を向く。美砂子は和義の手を引く。


「昔のこと。今が大事。これからが大事だよ」

「ありがとう」


 和義は美砂子を抱き締めた。どうやら二人の危機は脱出出来そうに思えた。

 美砂子に対する嫌がらせはどんなものがあったのか。悪戯電話、信号待ちの押し出し等々。

 それ以外にどんな嫌がらせが他にあったのか、今のところは見えない。


 かなり精神的にきているのは確かだった。和義が言う。


「俺、姉ちゃんの後つけて見るよ」

「は?何を言ってるの?」

「いや、身内疑うのは気が引けるけどさ。幹正の言ってることが本当か確認する」


 和義は美砂子の顔を見た。美砂子は心配する。


「それって危なくない?それに仕事は?どうするの?」

「有給使う。半年経ったから10日出るはず」

「止めたほうがいいって」

 

 美砂子は不安な表情を浮かべる。

 和義の決意は固いように思えた。私は止めた方がいいと思った。


トパーズの憂鬱 (中) 14 了

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