琥珀の慟哭(下) 24 (54)


こうして、華子と陸の感動の再会は終わったようだ。

何だかすっきり終わったのが恐いくらいにも思う。

事件は何が切っ掛けで起こるか解らない。


恐る恐る、その先を見るしかない。

思い出は再び、切り替わる。

ゆっくりと切り替わった場面は、華子が楠田に事後報告しているところだった。


「じゃあ、感動の親子の再会、だったんですね」

「お陰様で」 



華子は嬉しそうに話した。

楠田も華子の嬉しそうな表情に安心していた。


「そっか。じゃあ、ビジネスも上手くいきそうなんですね」

「ええ。本当に。南田君のお陰様だわ」

「俺は何も」 

「ただ話を聞いてくれるだけでも全然、違うもの」


華子はソーサーの上に置かれたカップを見つめた。その表情は穏やかだった。

心配事が無くなった華子は、生き生きしている。


「これで仕事も上手くいったら、私はもう引退するわ」

「そうですか」

「うん。もう年だし。実の息子のために最後に何か出来るのはいいことよ」


華子はこのビジネスが終わったら引退する予定だったらしい。

この後に事件に巻き込まれるのだろう。

楠田はそんな華子を穏やかな表情で見ていた。華子が言う。


「南田君も私に報告、あるんじゃないの?」

「ええ。まあ、何というか」

「何?」

「実は」


楠田は言葉に詰まりながらも、婚約したことを明かしてきた。

相手は同じ職場の人で、名前は室賀むろが美奈子みなこという女性らしい。

美奈子には両親がいなく、天涯孤独だったようだ。

楠田が元殺人犯と知ってるらしい。

華子は感極まって、涙を流す。


「本っ当に。よかった。南田君に家族が出来る。嬉しいわ」

「……華子さん」 


楠田は華子が喜んでくれると思わず、少しだけ驚く。華子が言う。


「南田君がこれからも生きていく理由、出来たのね」


華子は笑う。その笑顔が印象的だった。

これが最後の笑顔のような気がした。


楠田には結婚を約束した女性がいたらしい。

少し衝撃だが、それはこの華子とのことが原因だったのだろうか。


そんな事を思っている内に思い出は切り替わった。

ゆっくりと切り替わった思い出は、華子が楠田と電話をしている場面だった。



「どうしたの?南田君?」

『華子さん、やっぱ俺は駄目です』

「どういうこと?」


楠田の声色は暗い。

さっきの幸せそうな空気がない。


『最後まで彼女を信じましたが』

「え?」

『彼女は俺を売りました。勿論、気付いてました。けど、彼女はお金を取りました』


楠田の話によると、美奈子はこれまでの交際の内容を週刊誌に売ったらしい。


これまでのことは全て週刊誌に売るためだったらしい。

私はあまりにも酷い事実に言葉が出なくなった。


楠田の声色は泣いているようにも思えた。華子が言う。


「ねぇ。その週刊誌ってどこ?」

『そんなこと知ってどうしますか?』

「いいから、教えて」

『……週刊スクープ・オンです』

「解ったわ。また連絡するわ」

『え?華子さん?』


華子は楠田との電話を切った。

ビジネス用のスマートフォンを取り出し、どこかに電話を架け始める。


「もしも、私です。柿澤です。お世話になってます」


華子は『週刊誌スクープ・オン』の出版社に電話を架けているようだった。

もしかしたら、華子は週刊誌に圧力を掛けようとしているらしかった。



琥珀の慟哭(下)24 了




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