琥珀の慟哭(下) 25 (55)


華子はやはり週刊誌スクープ・オンに圧力を掛けていた。


「これまでも、うちの会社の記事書いていたわね?あの時、訴訟を起こさず少ない和解金で終わらせたの覚えているかしら」


どうやら、過去にスクープ・オンで記事を書かれたらしい。

その際、訴訟の準備をしていたようだ。

華子も中々に恐い気がした。


「南田弘一さんの記事を今すぐ取り下げて下さい。さもなくば」

『解りました。柿澤さん。今すぐ取り下げます。すいませんでした』

「解ってくださればいいの。では、失礼するわ」


華子はスクープ・オンの出版社への電話を終えると、スマートフォンを机に置く。

華子はため息をつく。

楠田を裏切った美奈子はどんな人物なのだろうか。

華子は不意に何かに勘づいたのか、再びスマートフォンを取る。


「あ、もしもし。お世話になってます。柿澤華子です。あの、調べてほしいことがあって」

『柿澤様お世話になってます。私立探偵事務所 弓削洋次郎です。調べてほしいこととは?』


日名子への怪文書調査の際とは違うところに依頼するようだ。

華子を敵に廻すと恐いと思えてきた。


室賀むろが美奈子みなこという女性について調べてほしいの。年齢は多分26歳、閣楼という居酒屋の正社員。南田弘一と付き合っていたらしいのよ。 特別

料金出すので、明日までに回答を下さい」

『了解しました。柿澤様。では、明日の夕方に連絡致します』


華子は美奈子について調べることにしたらしい。

華子の勘は美奈子が祐の 差し金 で動いていると思ったらしい。その予測は当たった。


次の日の夕方、華子は調査の結果を書面で貰った。

華子はそれを険しい表情で見つめた。



書面には次のように書いてあった。


『室賀美奈子の報告書。室賀美奈子 26歳。福岡県出身。『まほろび』という養護施設で育つ。19歳で上京。閣楼に就職する以前はキャバレー【カレイド】で働く。カレイドに居たころは、【レンタル彼女】なるものを、単独で経営。レンタル彼女は名ばかりで、何でも屋をやっいたとのこと。かねを積まれれば汚いことも。昨日の調査で、レンタル彼女で作った人脈で柿澤祐と接触あり。最近、柿澤祐と会っているとこを目撃した人から証言を得た。以上 』


華子はため息を着き、その報告を折り曲げる。

華子の予測は当たっていた。

美奈子は祐の差し金で、楠田に近づいた。

華子は祐に電話を架ける。


「話がある。今いい?」

『あの件ですよね。解りました』


祐は悪びれる素振りもなかった。

電話越しでも解るが、薄笑いを浮かべているのが解った。


「南田君を週刊誌に売ったのはあなた? 」

『もしかして、美奈子の件です?ええ。そうですよ。僕が美奈子にあなたのお気に入りの南田君をたぶらかして、売らせましたよ。傑作でしょう?』

「あなたはどうしてそんなことするの!」


華子は声を荒げる。


『どうしてって?そんなの解ってますよねぇ。南田の存在が邪魔だし、不愉快だからですよ!』

「いい加減にしなさい!あなたとは親子の縁を切ります。あなたを社長から解任します。明日にでもあなたを解任する為の稟議書りんぎしょを制作するわ』

『え?お、お母様?』

「あなたは人の心を学びなさい!」


華子は強い口調で言い、電話を切った。

祐は慌てて、電話を架けるも華子は出なかった。華子はスマートフォンの電源をすぐに切った。

華子は口をつむぎ、涙を流した。

華子は「ごめんね」と呟き、椅子に座り、しばらくうつ向いた。

それにしても祐の性格の悪さに驚いた。

いくら気に入らなくてもそこまでする必要はないはずだ。別の意図があるようにも思えた。


琥珀の慟哭(下)25 了


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