トパーズの憂鬱 (中) 1

 


 美砂子は和義のそんな様子を気にも留めずに自分のことを話す。


「そうなんですね。私はもう家庭の事情から就職せざる終えなかったので。夢とか解らない。ですけど、もし、チャレンジすることができるのなら、やってみる価値はあると思います」

「やってみる価値はあるですか。そうですね」


 和義は考え込む。美砂子はその様子を見た。店員の幹正が焼き鳥を持ってくる。


「お待たせー!なんかいい感じか?和義!焼き鳥塩2本、鶏肝2本持ってきました!」

「うるせぇよ。幹正。とりあえず、ありがとう」


 幹正は丁寧に焼き鳥2本、鶏肝2本のそれぞれの皿を置いた。

 幹正が言う。


「お前、飲み物頼んでないぞ。気が利かねぇな。何にするか彼女に聞けよ」

「お、おう。美砂子さん、何を飲みますか?」

「えっと。じゃあ、オレンジジュースで」


 美砂子はメニュー表を見て言った。和義は幹正に言う。


「じゃあ。オレンジジュースと、生ビールで」


 幹正は嬉しそうな表情を浮かべて言う。


「了解!美砂子さんっていうの?美砂子さん、和義はこの前、好きだった子に振られたらしいんだよ。慰め」

「おい、マジで余計なことを言うな!」


 幹正が言い終わる前に、和義は遮った。幹正は大笑いする。


「あはははは。そう照れるなよ。美砂子さん、こいつイイやつだから宜しく!」

「あーもう。あっち行けよ!」

「はいはいー!」


 幹正は笑いながら、厨房に消えていった。美砂子はそのやり取りにクスリと笑う。


「幹正は結構、余計なこと言うからな」

「それだけ和義さんのことを大事に思っているんじゃないですか?」

「そうか。ま、たまにスバリなこと言うから焦るけどな」


 和義は幹正の向かった厨房を見る。美砂子は文芽を思い出しているのか。思い出し笑いをする。


「どうしました?」


 美砂子が笑っているのに気付いた和義が言った。


「私にも友達がいて、その子のことを思い出したんです」

「へぇ。どんな人ですか?」

「とても元気で可愛い子です。今着けているネックレスも彼女からのプレゼントなんですよ」


 美砂子はトパーズのネックレスを和義に見せる。トパーズのネックレスはきらりと輝いていた。


 和義は焼き鳥を一本取り、一本だけの焼き鳥の皿を美砂子に寄せた。


「親友なんですね」

「そうです。いつも力になってくれて」


 美砂子はトパーズを見つめる。和義はその様子を見つめた。


「ところで、神坂さんの論文は独身男女のクリスマスの予定云々でしたが、どこまで進んでいますか?」


 美砂子は焼き鳥を手に取り、頬張る。和義は質問されると思わず、少し照れた。


「うーん。幾人か聞いたんですよね。大学の友達、サークル、バイト先」

「へぇー。で、どうでした?」

「うーん。それほど高くなかったんだよね。あと、俺のことは、神坂じゃなくて、和義でいいよ」

 

 和義は食べ終わった焼き鳥の串を、串入れに入れた。


「和義さん。それほど高くなかったというのは何%だったんですか?」

「えっとね、53%くらいかな」


 和義は自分のまとめた紙を見つめた。美砂子はそんなに高い数値じゃないことに安心したようだ。


「皆、そんなに恋愛上手くいってるわけじゃないんですね」

「ああ。ま、俺もだけど」


 和義は鶏肝の串を取って食べる。美砂子は和義を見た。


「和義さんの好きな人ってどんな人だったんですか?」

「え?」


 和義は好きな人の話を振られると思わず、少し慌てる。私は楽しくなってきた。

 和義と美砂子がどんな風に進んでいくのか。


 今度こそ、私は美砂子が幸せな恋愛を送れることを願った。


 思い出を見ている途中、由利亜が話しかけてきた。



「あの。どこまで見えましたか?」



 私はトパーズのネックレスから手を離す。


「遊作と別れて、会社を帰る途中で神坂和義さんと出会ったとこまでです。神坂をご存じですか?」


 私は由利亜に質問した。


神坂みさか和義かずよし?ちょっと解らないです」


 由利亜の父親じゃないのだろうか。まだまだ先は長いのかもしれない。



トパーズの憂鬱 (中) 1 了

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