トパーズの憂鬱 (上) 8


美沙子はにわかに信じらなかった。けれど、美砂子はその事実が過去であってほしいと願いを込めて、遊作を問いただす。


「付き合っていたの?でも、それは昔?でしょう?」

「ううん。まあ、そうなんだけど」


遊作はあたふたとした。他に隠し事をしているようだった。


「そうなんだけどって?」

「そうなんだけど。最近まで澤地、いや亮子とも続いていた」

「は?」


美砂子はソフトクリームを地面に落とす。

美砂子は手に着いたソフトクリームに気付かず呆然とした。

澤地の下の名前は亮子りょうこという名前らしい。


「ごめん。本当に。今は勿論、別れてるし。美砂子、一筋だ。信じてくれ」


遊作は美砂子に頭を下げ、手を握る。美砂子は衝撃のあまり言葉を失った。

遊作は最低な奴だ。20歳の若い女性を騙しているようなものだ。

美砂子は上の空で、遊作を見る。

美砂子は泣き出す。遊作は泣き出した美沙子を抱きしめようと、手を近づけた。

けれど、美砂子はそれを払った。


「ひどい」

「ごめん。本当に。亮子とは美砂子と付き合う前の一年くらい前からで」

「そんなのを聞きたいんじゃない。私を騙して楽しい?私だけだって嘘だったの?」


美砂子は声を張り上げて言った。遊作は一生懸命に美砂子を宥めようとする。


「本当にごめん。俺が優柔不断だったから。あのときは、美砂子も亮子も好きだった。亮子は」

「聞きたくない!」


美砂子は遊作の手を振り切った。美砂子はベンチから立ち上がる。遊作を涙目で見つめた。


「さようなら」

「え?ちょっと待って」


遊作は美砂子の手を掴む。美砂子は手を払った。


「もう無理よ」

「話を聞いてくれ」

「聞きたくない」


美砂子は遊作を置いて、遊園地を出ていく。

美砂子は泣いていた。泣きながら公衆電話ボックスを見つけると、その中に入る。

10円を入れ、電話番号を押す。美砂子は文芽に電話を架ける。


数回の呼び出しコールの末、文芽が出たようだ。


「文芽?私、美砂子。ちょっと声が聞きたくて」


電話口の文芽は美砂子の異変に気付いたようだ。


【どうしたの?美砂子】

「うん。彼氏のこと、信用できなくなっちゃった」

美砂子は涙を堪えながら言った。

【そう。何があったの】

「実はね」


 美砂子は文芽に遊作のことを話し始めた。

 

 私は思い出の途中で、トパーズのネックレスから手を離す。


 恐らく美砂子にとって叶井遊作は初めての彼氏だったのだろう。

 その彼氏が職場の上司と、自分を二股掛けていた。

 全く酷い話だ。私は美砂子と遊作の子が、由利亜じゃないことを願った。


 ネックレスを丁寧にケースに仕舞う。時刻を確認すると、23時35分だった。

 寝る支度をする。明日の朝また見ることにしよう。

 明日の開店時刻を若干、遅らすことにした。


 布団に入ると、すぐには寝付けなかった。

 トパーズの続き、森本からの告白。

 色々なことが気になり、結局、布団から出た。


 冷蔵庫を開け、牛乳を取り出す。それを鍋に入れ温めた。

 私はそれをゆっくり飲む。


 時刻は深夜1時08分だった。

 そのまま寝付ける気がしない。

 私は結局、トパーズのネックレスのケースを見つめた。

 

 私は手を洗い、トパーズのネックレスを丁寧にケースから取り出す。

 丁寧に触った。


トパーズの憂鬱 (上) 8 了

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