177 - プリンセスかぐやは何のために戦うのか
むかし、むかし。竹林の中で翁は宇宙船を見つけました。
「面妖な」
勢いよくそのハッチをこじ開けると、そこには赤ん坊の女の子が眠っているではありませんか。
さすがに放って帰るわけにもいかなかった翁は、彼女を担いで家へ帰りました。
「婆さんや。宇宙人の幼子を拾ったかもしれん」
「宇宙人ですか?」
家にいた婆は、翁が連れ帰ってきた子を見て呆れてしまいました。
しかしその瞬間、赤ん坊は10ほどの歳の子へと急速に成長し、全裸で二人を前に立って厳かに語り掛けてきたのです。
「我が名はプリンセスかぐや……」
「ほぉ、かぐやか」
「はい。そして……地球は今、狙われています!」
二人は愕然としました。童子の世迷言、とは思えないほど迫真な全裸でした。
翁と婆はかぐやを連れて、若き都の主、帝の元へと向かいました。この間にかぐやは15歳ぐらいになりました。
「マジなのか」
「マジだ。事実、かつての仲間に問い合わせてみたが、月の勢力に変化があったらしい」
「そう……月面人は兎によって支配されてしまいました。私はその使者。月面人の姫、プリンセスかぐや」
そしてその兎――『因幡』が襲来する可能性を伝えたかぐやは、帝に頼みごとをします。あと姫様なので、良い着物を着せてもらいました。
「この惑星に墜ちた、五機の
『
その間、かぐやは事の真相を語ります。
「我が母……先代のプリンセスかぐやは、力をつけた原生種である月面兎の手で処刑されました。反乱です。結果、かつてこの惑星と手を取り合った月の国は因幡の物となり、私は縁を辿ってこの惑星へ逃げ延びたのです」
「縁、とな」
「はい、お婆様。母の生き別れの妹がいるとされる地球。そして、前大戦で散った天衣機、その中枢である『
「……あの宇宙船か」
かぐやが乗ってきた宇宙船はロボットでした。それは純白で、単体でも7mほどの人型ロボットであります。
「月面兎……その頭領、因幡は23mもの巨体です。この華宮夜だけでは、勝てる見込みは……」
「かぐや……あなたは、一人でここまできたのですね」
「はい……婆様、胸をお貸しいただいて、いいでしょうか?」
気高き姫でしたが、それでも母を喪った少女でした。婆の優しい抱擁は彼女の涙を隠すには十分です。
そんな姿を見て頬を染めてる帝にゲンコツを食らわせたのは翁でした。
「阿呆」
「……しかし竹取、月との大戦を終えてもう数十年経つ。軍縮のせいで、迎撃手段は限られているぞ」
「限られた手で立ち向かうしかあるまい」
しかし、力となり得る五機は見つからず、日が経っていきました。
そして、ある満月の夜。最悪は舞い降りたのです。
『我が名は因幡……我が月の継承者、かぐやを差し出すが良い』
「あなたの月ではありません!」
数千もの地球のロボット達による迎撃。しかし、因幡は兎人型ロボットであり、手に持つ巨大な槌の衝撃波だけで、迎撃用ロボットは全て壊れてしまいます。
対抗できるのは華宮夜だけ。翁らは見守るしかできません。7mの小さな体では、攻撃を受け止めるのがやっとです。
『弱いな……人など、弱者だ!』
「くっ……」
母を喪い、故郷から逃げたかぐやは言い返せません。
『弱者は我が管理する。地球の民も一緒にだ!』
「それだけは……それだけは、させない!」
因幡の一撃に華宮夜は態勢を崩します。それでも少女は叫びます。
「地球は、母が望んだ平和に満ちている! それを、あなたなんかにッ!」
『そうか——なら死ね』
無情にも振り下ろされる槌。かぐやは死を覚悟しました——その時、確かに声が聞こえたのです。
「翁!」
「あぁッ!!」
婆の凛とした声と共に爺が、振り下ろされた槌へ向けて跳躍したのです。
「爺様ッ!?」
『な——にッ!?』
一つ見れば自殺行為。されど、それはかつての英雄を目覚めさせるには足る怒りの拳でした。
20倍以上の大きさの槌が崩壊し、声が響きます。
「今は昔、竹取の翁と言うものありけり——されど、我が真名は別にあり」
『まさか……貴様、大戦を終わらせた英雄の——ッ!!』
「今や、不死身の翁はここにあり!」
翁は隠居した英雄でした。そしてサイボーグだったのです。古き英雄は、暴虐を前に立ち上がりました。
「かぐや……我が姉の子よ」
「婆様……?」
「あなたの心、確かに受け取りました。ゆえに、許可しましょう——
かぐやを試し、そしてその想いを認めた婆は覚悟を決めます。
婆の言葉に、地中から複数のロボットが現れます。かぐやが探していた五機でした。
「かぐや。あなたに月の守り手の権限を全て譲渡します。行きなさい!」
「
天衣機達は、かぐやの意思に応えるように変形します。両脚、両腕、胴体の位置で合体し、そして頭へかぐやを乗せた華宮夜が変形して収まりました。
『つ、月の守護機……げ、月守、だとォッ!?』
「
六機のロボットが合体し現れたのは、かつての大戦の際、和平のために地球と月へ分かたれた月の守り神でした。
かぐやの声に呼応して、その羽衣のような翼が開きます。
『分が悪いか!?』
「逃しませんっ!」
槌を失った因幡は逃げようと飛びますが、月守が逃すわけがありません。
得物がない兎型ロボットを、右腕となった『玉枝』のメイスを押し貫き、空へ上がって行きます。月へ……かぐやは、帰るのです。
「爺様……婆様……」
計らずも縁があった二人との出会い。僅かな間でしたが、確かな感謝の念はありました。
「末永く……生きてください」
声は届かずとも、その祈りをもって。姫は地球を超え、月へ因幡をぶち当てます。
守り手の帰還。貫かれた頭領を目にした月面兎達は、かの宣言を耳にしました。
「我が名は……プリンセスかぐや!」
姫は一人ではないことを知り、一人でも戦える覚悟を得ました。背にある地球。もう一度、彼らと出会うために——
「かぐやの名において、あなた達を断罪しますッ!」
少女は姫として戦うのです。
NEXT……178 - 闇ナビ・パーティー
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885642458
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