090 - トーキョー守護巨神・天穹の騎神メルアディス

 並び立つスカイツリーと巨大な人型ロボを見上げながら通学するのが好きだ。


 ツリーが634mだから、それより少し高いロボは700m前後かな。

 どちらも銀と白で統一されたデザインがじつに2010年代的レトロで良い。


 ロボがいつからそこにあるのかどんなに調べてもわからなかったし、誰に聞いても曖昧な答え。父さんは「スカイツリーが建った2012年にはまだなかった気がする」と。みんなそんな感じ。



 でも、これが僕たちの日常。


 今日だっていつもどおり学校へ行き、いつもどおり帰ってくるはずだった。





 なのに。


「今すぐ俺から離れろ、半径1m以上!」


「ンなこと言ってる場合じゃないよ、すごいケガ!」



 この傷だらけの男と出逢ってしまって、



[転送ヲ開始シマス  5..4..3..]


「待て、まだ地球人が!」


「とりあえず救急車呼ぶよ!」



 日常から、非日常へと――



[転送シマス]



 僕は、転送された。









「おい、生きてんのか」


 真っ暗闇に男の声が反響する。


「あ、えっと、はい」


「乗っちまったなら仕方ねェ。最低限の説明だけするから聞い……ぐっ」


「そうだ、ケガは大丈夫? 今すぐ救急車を」


「来ねェし呼べねェ。いいから話を聞け。時間がない」


「そんなわけには」


 男は大きな溜息をつくと、何かスイッチを入れた。



[メルアディス  起動シマス]


 システム音声とともに明かりがつく。

 さまざまなスイッチやレバーの並ぶ小さな部屋。

 というより僕と彼の座席が縦に並んでるだけの箱のような空間だ。


「ここはメルアディスの操縦室コクピットだ」


「メールアドレス?」


 また溜息とスイッチ。

 眼前に大きなモニターが映し出される。


 街。東京だ。それも上空から見た。

 ちょうどスカイツリーの展望台から見たような景色。


 つまり……?


「考えなくていい。とにかく聞け。間もなく敵が来る」


 よくわからない。

 ケガも気になる。

 でも話を聞こう。

 差し迫ってることはわかったから。


「スカイツリーの横にあるロボがメルアディス。

 ここがその操縦室コクピット。俺はその操縦者パイロット


 ロボ、中に入れたんだ。

 てか、動くんだ?


「今から来る敵がヴェルドラス。それを破壊する」


「どうやって?」


敵性機械生物ヴェルドラス接近中  5..4..3..]


 モニターに視線を動かす。


 黒と金で統一された機械だか生き物だかわからない巨大な自動車のような甲虫のような、おそらくスカイツリーよりも巨大な物体。



 それが、空から。



 東京の街を破壊しながら着地した。



「戦って、だ」



 これと、戦う?



「掴まってろ」



 男は手元のレバーを操作してロボメルアディスを動かす。



 ロボメルアディスは慣れた手つきでスカイツリーを掴み、あろうことか一気に引き抜いた。



「な、な……!?」



「お前の心配を先に解消する。街は壊れないし誰も死なない」



「はぁ?

 あいつがビルを壊して……こっちもスカイツリー引っこ抜いて……」



「戦闘前に瞬間保存セーブしてある。わかりやすく言う。戦闘中、この街は生命体の存在しない特殊な空間となる。戦闘後は敵を倒したヴェルドラス撃破の現象だけが残り、命や物は元通りになる」



 いまって言ったね。



 てことは。



「じゃあキミとロボメルアディス、あとヴェルドラスは宇宙から来たってこと?」



「急に察しがいいな。その通り……おっと!」



敵性機械生物ヴェルドラスノ初撃ヲ回避]



 機体が大きく揺れた。


 僕は思わず背もたれにしがみつく。



「隙だらけだッ!」



 ロボメルアディススカイツリーを振りあげ、敵の背中に叩きつける。



 が――




「なっ……!」



 硬質な甲羅にスカイツリーを弾き返され、よろめく。



 瞬間、ヴェルドラスの背の甲羅がパカと開き、閃光とともにレーザーが放たれ、ロボメルアディスの左肩に直撃した。



「ぐぁぁああッッ!」



 ロボメルアディスの被弾とともに、男が叫ぶ。



 よく見ると左肩にやけどのような傷が新たにでき、出血している。



「ぐ、あ……ッ!」



[二撃目予測  回避ヲ推奨]



 システム音声に促され、男は右手でレバーを動かす。



 二撃目のレーザーをかろうじてかわした。



ロボメルアディスが受けた攻撃を操縦者パイロットも受けるのか?」



「さっきから察しがいいな」



「そのケガを見ればね。じゃあさっきまで別のと戦ってたってことか」



「そうだ。この短時間でもう一体くるとは……くっ」



 つまり男のケガはトウキョウとちがって戦闘後に元通りにはならない。


 このまま戦えば命を落としてしまうかもしれない。




 じゃあ、僕がやるべきは……!





「僕が動かすよ。操縦を教えてくれないか」



「バカか。ここにいる以上お前のケガも元通りにはならんぞ」



「だろうね。わかって言ってる。僕がやる。その腕じゃ満足に戦えないだろ?」



「しかし……」



「すぐ攻撃がくる! 時間がない、早く交替して!」



 強引に割り込んで男を後ろの席にやり、操縦桿レバーを握る。



「どうなっても知らねェぞ!」



「勝てばいいんだろ、指示を頼む!」



 機械の扱いは慣れてる。


 さっきまでの操縦を見て基本はわかった。




 レバーを引き、迫るヴェルドラスの攻撃をかわす。



 背面への攻撃は効かない、なら……



「これなら!」



 スカイツリーを思い切り腹部に叩きこむ!


 豪速球をバットの芯で捕らえるように、えぐりこみ、グイと押し飛ばす。



 ヴェルドラスは浅草方面へ吹っ飛び、浅草寺あたりに倒れ込んだ。



「スカイツリーが剣になるんだ。雷門は?」



 そう聞くと男はニヤリと笑い、側面のボタンを勢いよく押した。




 バチンッッッ!!




 操縦室コクピット内部まで音が届く。



 雷門からほとばしった電撃は、ヴェルドラスの体を貫いた。


 ひっくり返った甲虫のようになり、8つの手足を痙攣けいれんさせている。



「跳べ!」



 言われるより早く、僕たちメルアディスは跳躍していた。




 スカイツリーの切っ先をヴェルドラスに向け、全重量を乗せ落下!




 そのままヴェルドラスの腹部に突き刺さすッ!!




「ギュケェェェェェェェ!!!!!」




 断末魔の叫びとともに飛び散る緑色の血液オイル。隅田川に流れ込んでいく。




「怯むな、押し込め!」




「おおおオオオオオオッ!!!」










敵性機械生物ヴェルドラス  完全ニ沈黙]



[戦闘行動ヲ終了スル  東京トウキョウ再生ロード








「倒した……のか?」


「ああ、お前のおかげだ。助かった。礼を言う」


「こっちの台詞セリフだよ。

 キミがずっとこの街を……いや、地球を守ってくれてたんだろう?」


「俺で54人目だがな。ヴェルドラスはここで食い止めなければならない」


「それってどういう……?」



[警告  新種ノ敵性機械生物ヴェルドラス接近中]



「またか!? どうなってんだ、今日は」


「じゃ、細かい話はそいつを倒してからだな」


「おい、また乗るのか!?」


「当たり前だろ! 頼むぜ、相棒」



 こうして日常と非日常とを――



[転送シマス]



 は、何度だって転送される。


NEXT……091 - 物語の中盤で、少女は。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885531322

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る