025 - 巨兵狩りのオート・マキナ
廃都・オオサカウメダ。数千年前に滅んだとされる機械文明時代の遺産であり、そして何より、シティー・ウェストピッカーのオゥト達にとっては宝の山である。ただある点を除いては、そこは本当に楽園であった。
「オゥト、今日は地上に出るけど……
「……マキナ、俺はもうガキじゃあねぇんだ。整備ぐらいこなす。大丈夫だ、なんの変調もねぇよ」
機械化された四肢、右半身と左半分の一部をガシャリと鳴らして、バックパックを背負った、オゥトと呼ばれた髪の長い青年は答える。マキナと呼ばれた少女は、手榴弾やワイヤの手入れを行いながら「なら、いいけれど」と返す。廃都地下遺跡、複雑に入り組んだその地形は、普段から生活の拠点としているシティー・ウェストピッカー達以外は自由な移動を困難とする程である。その大迷宮も、シティー・ウェストピッカーからすれば、地上より安全な楽園である。
「そろそろ行くぞ、マキナ。切れたパーツを回収しに」
「了解、オゥト。今日はゲート4からでいいかな」
「妥当だろうな。先に行くぞ」
「了解」
オゥトの機械化された両前腕から、サブアームと共に
————目の先には、機械の巨人兵が立っていた。妙に平な、異様に長い手足を持つ巨兵である。
「……チッ、表に出たそばからお出ましか。ツイてない」
シティー・ウェストピッカー達が、陽のあたる地上に済まない理由、それがこれである。実は此処、オオサカウメダは或る国家の領土内であり、廃都市鉱山、と呼ばれる場所なのである。新興国家であった或る国家は此処に眠る莫大な利益の、国家による独占を狙った。そしてその上で古くから此処に済むシティー・ウェストピッカーを、突如として迫害した。その生き残りが、オゥトやマキナ達の親世代である。
オゥトは手製の通信機を使いマキナに繋ぐ。
「おぃ、マキナ。運悪く早速出くわしちまった。何処に誘導すれば良い」
『うん、とりあえずスカイビル方面で。ゲート4からなら時間あるね』
「了解」
オゥトは機械脚の馬力と戦術的ナイフを利用し、すぐそばのビルの壁を垂直に駆け上がる。伸ばされた巨兵の手を蹴り飛ばし、脚部から煙幕を放出。フルパワーで胴体を蹴って、前方のビルに飛び移る。
「また硬くなったな……こんな場所にお国はご執心な事で」
今迄の巨兵ならば後ろに倒れ込んでいた筈であるのに、今回の巨兵は耐えた。舌打ちを1つして、飛び跳ねる。態勢を整えた巨兵は、先程までオゥトが立っていたビルの角を砕いて、突進してくる。
「む、速いな」
チャンスが出来れば秘密兵器を使うか。そんなことを考えながらも、今は逃げる。弱点のコックピットがある頭は、さしものオゥトにも高すぎる。
「喰らえ芋虫野郎」
ヒョウシキを引っこ抜いて槍投げの要領で右膝に突き刺す。少し動作に違和感が出ている様ではあるが、しかしそれでも、さしてスピードは変わらない。さらに、マキナのバズーカによる砲撃。それも、ポイントに誘き寄せる為にわざと姿を晒して。が、それでも、状況は、オゥトが押されている様に見えた。
「姿勢修正能力まで高いときたか。厳しい————が、行けるな。マキナッ!」
「任されたッ! 準備は万端だよ!」
マキナの叫びは聞こえないであろう巨兵が、オゥトに殴りかかる。が、その拳はオゥトに届かない。
「
マキナがニヤリと笑って言う。罠師マキナは、この一帯に、巨兵が身動きが取れない様に、ワイヤを張っていた。そして今、入り口も塞ぎ終わった。
「今回は特別におまけです! 喰らえッ!」
ワイヤが爆発する。ワイヤを通していた爆弾のピンが巨兵の殴りつけによって外れ、誘爆を始めたのである。
「ワイヤ、切れたりしねぇよな」
「爆発には強い設計。安心して。それよりオゥト、新兵器試しとけば」
「言われなくても。それに……彼奴、お前自慢のワイヤを腕力だけで切りやがったぞ」
「嘘ォ!?」
叫ぶマキナを無視して飛び上がる。腕の中に戦術的ナイフをしまい、バックパックのボタンを押し込む。
「メカニカルメイル、起動」
機械から蜘蛛の脚のように飛び出たそれは、空中でオゥトの全身を包む。数秒後、鋼の戦士が、現れた。
「今度の俺は硬いぞ」
ビルの壁を蹴って、さらにメカニカルメイルによる追加機能で、脚部から炎を噴射し空を飛び、巨兵に突進。踵落とし、裏拳、そして————
「正拳突きだッ! 進化しているのが、貴様らの技術だけだと思うなよ」
巨兵の腹部装甲にヒビが入り、砕ける。重さの均衡を失った巨体がぐらつく。姿勢の修正が終わる前にオゥトは駆け上がる。頭部コックピットのガラスを砕き、侵入。
「空を飛べるって便利だと思わないか?」
恐れ、叫び声をあげる巨兵の乗組員達を潰しながら、そう言う。あとは、目的地のヨドバシ機械遺跡から必要なものを持ち帰り、巨兵から使えそうなパーツを奪って地下に帰るだけだ。
「マキナ、先にヨドバシに行け。こっちは俺がやる。————おい、マキナ?」
『ワイヤ、千切られた……自信作が……』
「…………さっさと行けクソ餓鬼」
そうして、2人は凱旋した。シティー・ウェストピッカーは地下で、死と隣り合わせの、すれすれの日々を過ごしている。その生活の中で失った体を機械に作り変え、新しい武器を開発する。余ったパーツは闇業者に横流しして食物と交換。全ては自分たちの生存の為に。
或る国家は更なる兵員を投入している。オオサカウメダに眠る莫大な都市資源により、世界の覇権を手に入れる為。シティー・ウェストピッカー以外の他多数の人民の為。
悪は、シティー・ウェストピッカーにあるかもしれないし、或る国家にあるかもしれない。誰も分からない。ただ一つ明確なのは、争いが今後暫く終わらないだろう事だ。故にオゥトやマキナ達は武器を作り、或る国家はさらに弾圧を強める。
————廃都オオサカウメダには、今日もシティー・ウェストピッカーの影と、巨兵の轟音が響いている。彼らは、此処が無価値となるまで跋扈し続けるだろう。
026 - 機械人形のみた夢
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885466122
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