033 - raid operations

 耳が痛くなるほどの騒音に包まれながら、俺は目の前のコンソールモニターに集中していた。

 この狭く、薄暗い空間、硬いシートと身体にきつく食い込むシートベルトが不快だ。だが、それも少しすれば気にならなくなる。


『――状況を説明する』

 ヘッドギアの無線機から上官の声が聞こえた。


『現在、目標地点である難民キャンプに向けて現地軍が侵攻している。治安維持軍が交戦するも撃退に失敗した、我々は参加予定だった作戦を中止し、この難民キャンプに急行している――』


 機体が大きく揺れた。

 飛んでいるのは俺の機体ではない、大型輸送機の方だ。


『――この作戦行動においての交戦規定は設けない、撃ってくるモノは全て敵だと思って行動せよ』


『敵の戦力は?』

 同僚がぼやくように言った。


『交戦した国連軍部隊からの情報と偵察衛星からの画像解析によれば、敵は十数台の装甲車と複数の機動兵器、また対空車両を運用している。歩兵も存在している、不意を突かれないよう十分に注意しろ』


『了解であります』


 俺は自機の火器管制システムを調整し、現地の環境や時間帯に合わせたものに修正する。それと同時にアクチュエーターの動作環境も整えた。

 降下すればすぐに戦闘になる、いつもより派手に動かさなければならないだろう。


『……ところで、作戦はどうします?』


『――良いニュースと悪いニュースがある、どちらから聞くか選ばせてやろう』


 同僚と上官のやりとりを聞きながら、俺は武装のシステムチェックを始める。


『――では、悪い方を……ハッピーエンドが好きなんです』


『国連軍が交戦したのは8時間前だ、だから現状展開している敵の詳細は不明。偵察衛星による情報は信憑性が低い、簡単に欺瞞されるからな。だから、難民キャンプ周辺に敵がいるかどうかはわからん』


『……良い方って――』


『――今のが良いニュースだ。難民キャンプには国連軍部隊は駐留していない。よって、我々はキャンプ周辺に強襲降下する。そこに機影があれば、それは敵だ。好きに撃て』


『……ははは、それはわかりやすい』


 装備のシステムチェックに問題は無く、すぐに戦闘へ移行することが可能なのがわかった。

 時刻を確認すると、降下開始までそんなに時間は残されていなかった。



『――相棒、準備はいいか?』


「大丈夫だ、問題無い」


 火器管制を含め、ほぼ全てのシステムを稼働させる。

 あとは、降下するだけだ。



『この任務は我々向きではないが、それでもやらなければならない。我々には力がある、それは弱き者達を助けるための力だ。ならば、行使するだけだ――』


『――作戦エリアに到達、投下シーケンス開始』


『――各機、全力で任務にあたれ。敵に容赦をするな』


 輸送機のハッチが開き、機内の気圧が低下する。

 センサーが拾った轟音がコクピットの中を満たす。


『――いくぞ、ガーネット隊……出撃!』


『――ガーネット2、了解』


「――ガーネット3、行きます」


 輸送機内から放り出され、機体が宙を舞う。

 外界を映すメインモニターの一面に雲海と群青色の空が広がっていた。


 俺たちが得意とする空挺強襲降下作戦。

 

 それは、敵にとっては厄介な攻撃手段に違いない。

 ――いつでも、どこでも、俺たちは現れる。


 ――だから、好き勝手はさせない。



『――諸君、ロックンロールだ!!』


 

NEXT……034 - 「金属超人ホワイトマスター」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885476783

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る