034 - 「金属超人ホワイトマスター」
1年ぶりかな。久しぶりだね。僕は、元気にやってるよ。何を、と聞かれたらわからないけど。ごめんね、1年間も会いに来れなくて。いろいろ忙しくてさ。いや、本当に。
君の夢、叶ったよ。といっても漫画の中だけどね。金属超人ホワイトマスター。昔君が考えたロボットだ。君らしい、絶妙にダサい名前だよね。パイロットの名前は君と同じ、ケンジ。小学生の頃、君が集めてたあの雑誌に、今度は僕が漫画家としてお前のロボットを載せさせてもらったんだ。担当さんに頼んで、原案のところに君の名前を入れてもらったんだよ。どう、すごいでしょ。
君が描いてくれたあの絵、今でも僕の部屋に飾ってあるんだ。クレヨンの、お世辞にも上手とは言えないような絵だけど、いや怒らないでよ、それでもあの絵が、あのとき僕に元気をくれたんだ。ありがとう、今となっても本当に感謝してもしきれないよ。
君は、本当にロボットが好きだったよね。当時流行ってた、なんだっけ、名前が出てこないな、今となっては全然耳にしない名前だもんな、とにかくそいつのプラモデルを、近所の模型店に500円玉を3枚握りしめて走ってって、そうそう、あのときお小遣いが月に500円だったんだよね、そんで気に入ったやつを買ってきては一目散に僕の部屋まで走ってお互いに見せあったんだっけ。君は手先が不器用で、細かいパーツなんかは僕が手伝って、そんで気づいたらパーツが混じっちゃってふたりで焦る、なんてこともよくあったよね。
僕の親が、中学は受験しろって言ったんだ。僕は、もともとあまり人と関わるのが上手じゃなくて、それでもようやくできた友達と離れ離れにはなりたくなかったから、相当落ち込んでいたんだよね。君があの絵を描いてくれたのは、そんなときだった。小学6年生にもなって、クレヨンで描いたぼくのかんがえたさいきょうのロボットの絵だぜ。へったくそな絵でさ、あれならきっと幼稚園の子供のほうがまだマシな絵を描くかもしれない。いやだから怒るなって。昔のことでしょ。そのへたくそな絵を見せながら、ロボットの設定を事細かに、目を輝かせながら語る君を見て、なんだか悩んでいたことが酷く馬鹿らしくなったんだ。ちなみに、漫画のロボットのデザインや設定はあのクレヨンの絵から出来る限りの再現をしたつもりだけれど、君のイメージとはちょっと違うかもしれない。それは許してよ。
もう、10年になるのか。本当に君は無邪気で、元気なやつだったよ。それだけに、君が中2の夏、お前の大好きなロボットのプラモデルに囲まれて、君の部屋の真ん中で首をくくって死んでいたなんて、今でも到底信じられないんだ。今こうして、君のお墓の前にいると言うのに。ねえ、君はホワイトマスターに乗りたかったんでしょ。小学生の時、ロボットのエースパイロットはどんな困難にも負けないって、いつも君は言っていたじゃないか。どうして、いや、ごめんね。こんな話をしに来たんじゃないもんね。死んだあとに何故死んだのかなんて、虚しいだけだ。
ああ、この花?ゼラニウムって言うらしいよ。ほら、あそこの花屋さんで買ったんだけど、ちょうど菊を切らしちゃったみたいなんだ。まぁ、お盆のシーズンじゃないし、仕方ないよ。そんで、君にあげるんだってことを話すと、じゃあってこの花を渡してくれたんだ。まあ、赤い色好きだし、いいでしょ?え、ピンク?いや、そんな気にしないでよ。
そうそう、これも。君のホワイトマスターに早速ファンが出来たみたいだよ。ほら、ファンレターがこんなに。コピーで申し訳ないけど、これもここにおいておくよ。ケンジ頑張れ!なんて、まるで君が応援されているみたいだよね。
それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。実家にも顔を出さなきゃだしね。また、余裕ができたら会いに来るよ。またね。
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885476790
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