013 - Loser
被弾の衝撃でメインモニターにノイズが走る。
すぐに映像が戻るかと思いきや、そのまま暗転した。それと同時にコンソールのいくつかが火花を散らし、回線がショートする。
――もう限界か。
俺はシート側面にあるイジェクションシートの安全装置を解除し、レバーを握り込む。
咄嗟に腕を胸の前で組んで、射出体勢を整えた。
炸薬による小さな爆発とガスが視界を覆った瞬間、俺は外に射出されていた。
落下傘が開き、風に流されつつも地上へ降りる。
サバイバルキットを回収して中身を確認していると、熱を帯びた風が顔をなでた。
ここはまだ戦場だ。
そして、そう遠くない場所に擱座した自分の乗機が見える。
跪き、崩折れる、そんな情けない姿のままの骸だ。
俺はそれを見ていて、とても悔しかった。
操縦には自信がある。
これまで仲間達との競争でも、模擬戦でも負け無しだった。
それなのに、このざまだ。
敵の動きは尋常じゃなかった。同じような訓練を受けていたとしたら、自分達が使っている教本の中身を疑うくらいだ。
思考が追いつかない、目も、手も、足も、何もかもがヤツに追従出来なかった。
あの瞬間は、俺の全てだった。全力だった。
だけど、負けたのだ。
悔しい。
撃墜されたという事実が、現実が、俺を苛む。
俺は敗北したのだ、しかも
完全に弄ばれていたに違いない。
どこかで爆発の音がして、熱波が飛んできた。
まだどこかでヤツは戦っているのだ。
サバイバルキットにある拳銃や手榴弾なんかでは、機動兵器を破壊するのは不可能だ。目には目を、ロボットにはロボットをだ。
視界に自分の乗機が入る度、俺は立ち上がれなくなる。
俺がここまで戦い抜いてきたというプライドが木っ端微塵になって、その破片が気力をズタズタにしていたのだ。
ふと、脳裏にヤツの動きがよみがえる。
繊細に思い出そうとして瞼を閉じた、記憶の中の『ヤツ』を再構成する。
武器の選択、移動予測、位置取り、距離感、反応、照準の癖、呼吸、独特のリズム、それら全てを今すぐにでも思い出せた。
自分が撃破される直前までの戦闘を、何度も、何度も、思い返す。
その中で、俺は何度も撃墜されるが、少しずつ違うものが見えてくる気がした。
ヤツも人間なのだ。ならば、追いつくだけだ。
俺は、特殊部隊員ではない。
特別な能力を持っているわけでも、両親が超人ということもない。
俺は、ただの機動兵器のパイロット。誰よりもロボットを上手く扱える、誰よりも敵機を仕留められる。
これまではエースと呼ばれたいだけだった。
だが、これからは違う。
俺は、ヤツを倒すために強くなる。
ただ、それだけのために俺は変わってみせる。
俺は瞼を開き、サバイバルキットから地図とコンパスを取り出した。
周囲では戦闘が継続中だ。
後方で待機している友軍の場所に向かえば、予備機を借りられるかもしれない。
――俺を生かしたことを後悔させてやる。
リベンジのチャンスを与えてくれたこと、パイロットとしての高みに至っていないことを教えてくれたヤツには感謝したい。
だが、俺とヤツは敵同士だ。
言葉の代わりに砲弾を撃ち合い、火花を散らして睨み合うのが俺たちパイロットのコミュニケーションだ。
――待ってろよ、すぐに追いついてやる。
俺は痛む身体を引きずって、味方のいる地域へ向かって歩き出した。
その道中でも、ヤツの動きを頭の中で反芻する。
次こそ、絶対に勝つ。それだけしか考えていなかった。
そして、ヤツが敵軍の広告塔のような存在であることを知ったのは、味方と合流してから2日目。撃墜されてから5日と11時間後のことだった。
014 - 巨大ロボ戦には慣れておこうと強く思った。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885459607
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