014 - 巨大ロボ戦には慣れておこうと強く思った。

 天才ロボット博士の爺ちゃんを持つ俺は、町に怪獣が現れた時には運悪く――或いは運良く、爺ちゃんの作った地下研究所にいた。

 あれよあれよという間に巨大ロボに乗せられて、戦いに出た……までは、ギリギリ良かったんだけど。


「……爺ちゃんこれどうしよう……」


 俺の操縦するロボ、『ゴーケンゴー』は――両肩を高いビルにめり込ませて動きがとれなくなっていた。


『どうしようじゃないわアホ! 何故戦う前からそんなことになっとるんじゃ!』

「だ、だって」


 怪獣が市街地をのっしのっしと闊歩するさまをビルの谷間に挟まってしまった頭部のメインカメラで眺めながら、ことのいきさつを説明する。





『ゴォーッ! ケンゴォーッ!』

「畜生、こっぱずかしいけどやってやるっ!」


 爺ちゃんの「機体名を叫ぶ」なんてよく考えたらちょっと恥ずかしい出撃をさせられた俺は、市街地の大通りを割って戦場に降り立った。

 まさか基地の真上の道路が出撃口になっていたとは、とわくわくしながら、しかし遠目に見える怪獣に身が引き締まる。まだ現実味はないけど俺の体は確実に緊張しているようで、操縦桿を握る手は手汗でぐしょぐしょだった。拭きたい。


「ど、どうしたらいい爺ちゃん!?」

「怪獣が暴れ出しておる! 見えるじゃろう!?」


 巨大ロボ・ゴーケンゴー(名前言うのも恥ずかしい)の目線の遥か先、もう少し近くから出撃出来なかったのかな? と少し思ってしまうくらい先に、その怪獣はいた。

 ティラノサウルスの姿勢の良いヤツ、みたいに見える怪獣は割とゆっくりした動きだけど何かを踏み潰し何かを薙ぎ倒していた。ビルが一撃で倒れない辺りあまり強くはなさそうだが、徐々に被害が広がっているような……。


「あぁっ、あの辺新しい焼肉屋が出来た辺りだよ! まだ行ってないのに! くそっ!」

「とにかくゴーケンゴーで向かうんじゃ!」

「これ飛べたりする!?」

「まだ飛べんからダッシュで行くんじゃ!」

「だ、ダッシュ……わかった!」


 それだったらもう少し近くに出して欲しかったけど、まぁそれももう叶わない願いだと思う。俺はなんとかしてゴーケンゴーを走らせ始めた。


「まさか爺ちゃん家にしかなかったロボゲーがこれの操縦と一緒だなんて……!」


 おかしいとは思ってたんだよ。クソつまんないから去年以降やってなかったけど、それでも役に立つなんて……!


「これなら走るくらいはできる……!」


 戦闘に若干の不安がよぎりつつも、しかしゲームの操作を思い出しながら俺はゴーケンゴーを駆る。そんな中で、前に二本のデカいビルが立ちはだかったのだ。いわゆるT字路。


「跳べ……はしないか……」


 ジャンプで越えられる高さじゃなかった。飛行できないことも知ってる。俺はビルとビルの間を睨んだ。ゴーケンゴーに乗ってるとセットで立ち塞がっているように見えるけど、隣接はしてない。そう、間があるのだ。


「…………」


 俺は悩んだ。悩んでる時間はないけど。そして回り道してる時間もない気がした。だから。


「……行ける!」


 ビルの間を走り抜けようとして――そして、挟まったのだ。





『なーにをやっとるんじゃケンゴ!』

「だってコイツこんなに肩幅あると思ってなかったんだもんよ!」


 行けるかな、って思ったから行ったんだよ!

 我ながら逆ギレにも聞こえるけどそれが本当なんだから仕方がない。


『親の車擦った新免じゃないんじゃぞ!』

「知らねぇって!」


 初めて乗ったロボの体の感覚とかコックピットからわかるわけがないじゃん。自分を自分で納得させるようにそう言い聞かせる。


『だからアレほどあのゲームやりこめと言ったじゃろう!』

「ごめんって! だからどうしたらいいか教えて!」


 これ以上口論したくなかった。もう辛い。戦う前からこんなことになるんだったらロボなんか乗らなきゃ良かった!


『まだバックできるじゃろ、下がれよ』

「……ビル崩れないかな」

『それこそ知らんわ』


 怪獣じゃなくてロボがビルを崩したとなればなんか色々言われそうで怖い気がしないこともないけど、今はそれしかない。


「……落ち着けケンゴ。落ち着けー……」


 俺は左右のビルを見比べながらゆっくりとゴーケンゴーを下がらせ始める。一歩でかなり下がるし一歩でかなり揺れる。揺れる度にビルがぐらぐらする。


「待て待てゴーケンゴー、もっとゆっくりだ……あぁ畜生慎重にやれよゴーケンゴー!」

『ゴーケンゴーが不憫じゃ……』


 しかしゴーケンゴーは意外と俺の言うことを聞いてくれた。機体の肩はゆっくりとビルを離れ、そこには数分前の状態のゴーケンゴーと、高い階に妙な外傷を追ったビルが二つ並んでいた。もう一歩下がりながら、ビルが倒壊しないことを確認する。


「……セーフ!」

『いやアウトじゃよ。……まぁ良いとしよう馬鹿な孫よ!』


 爺ちゃんの声が緊迫したそれに戻る。さっきまで別の種類の汗が流れていた俺の手もまた出撃時と同じ種類の手汗で湿る。拭きたい。


「爺ちゃん! 武装って何かあるかな!?」


 今度は回り道をしながら走るゴーケンゴー。


『背中にケンゴーソードがあるじゃろう! 抜いてみるんじゃ!』

「すげぇ名前だけど……わかった!」


 ゲームの時と同じように、俺は背中の大剣を勢いよく抜き放――……抜き放ったんだけど……。


「爺ちゃん」

『どうしたケンゴ!?』


 ゴーケンゴーの足が止まる。

 青い正義のロボがちらりと申し訳なさげに右を見れば、そこには抜き放った勢いで剣先が突き刺さってしまったランドマークの電波塔があった。


「まさか剣がこんなに長いとは……」


 遠くの方では怪獣が暴れ足りたのか、元来た海の方へと足を向け始めていた。どうするケンゴ。どうなるゴーケンゴー!?


015 - 母型ロボット MOTHER-29

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885459624

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