148 - カレーを作るよ!
今日の重力予報は3.7を記録し、とてもお出かけ日和とは言い難い日なのですがマスターは日課の散歩に出かけてしまいました。夕方頃に帰宅するそうですが、きっとお腹をすかせているでしょう。ですからマスターのためにカレーを作ると決めました。
大丈夫、今回は失敗しない自信があります。
さっそくクラウドからカレーを作り方を検索。
評価の高い順からレシピを表示するも食料庫にはない材料や調味料を使用しているので上位12番目までを排除。といいますか、この辺境の星では高級品の宇宙クジラの肉やニュートリノ入りの調味料は入手できません。利用するサイトを間違えたでしょうかとおもわず頭を抱えます。
13番目は違法薬物や鉱石を使用しており、マスターの口には合わないと不採用。他のサイトで探しましょうと決意しましたが、次に表示された14番目のレシピは市販のルウを使用しているのでオリジナリティに欠けますが妥協して採用。工程も4段階とシンプルでいいですね。
第一ステップ。
最初で躓きました。なぜ、このレシピは材料が切断されている前提で始まるのでしょうか。後で抗議しましょう、とタスクに記入。
気を取り直して、肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを一口大に切断。以前までは手持ちの武装が銃火器しかなかっため、仕方がなくすり潰していましたが今日の私は違います。マスターへの料理を作成するためだけに購入した対自立歩行型有害植物群用のナタがようやく届いたのです。
なんとこのナタ……といいますか見た目はただの棒なのですが、電源をいれることで薄いバリアを展開、ナタとして使用できる素晴らしい機能があるのです。刃毀れと無縁です、すごい。ただ私のような市街戦専門の機体と相性が悪いとレビューに書かれていましたので心配でしたが正常に起動。良かったです。
本当の第一ステップ。
少しまな板が傷ついてしまいましたが材料の切断に無事に成功しました。炒める前なのにバリアで表面が少し焦げてしまいましたが、すり潰すよりも綺麗にできて感動しています。
この感動を誰かを分かち合いたい気分ですが、時間に余裕もないので感動もそこそこに次の工程へ。
材料を入れた鍋――建築物解体用ハンマーにいい感じの穴を作成したもの――を片手で持ちながら火炎放射器を使って炒めます。はじめは中火という再現性の乏しい記述に困惑しましたが、つまるところは材料に火が通ればいいだけの話です。威力を最小限に抑えた状態で3分ほど熱すれば十分でしょう。
続けて第二ステップ。
鍋に水を入れて煮込みます。放水砲を壁に向けて発射、壁から跳ね返った水が鍋の半分ほどを満たすまで続けます。なぜなら鍋の中に直接発射すると材料が飛び散ってしまうからです。私は天才なので同じ過ちは二度と繰り返しません。
再び鍋火炎放射器を使って煮込みます。この工程は炒めるときとは違って短時間で終わらないのが難点です。
第三、第四ステップ
火を止めてルウを溶かします。
本当ならルウを砕いてから鍋に入れるべきなのですが、切断は難しいのですり潰そうかと迷いましたが、かき混ぜれば溶けると判断して、そのまま投入。とろみが付くまで、時折鍋の中身をかき混ぜならが、煮込みます。
正直、ルウを入れてかき混ぜるだけの薄い内容なので第三と第四は統合していいのではと思います。抗議内容に追加で記入。
これで完成。
試しに味見をします。私は電力によって活動するため食事を必要としません。なので味覚というものを理解できませんが、そこは根性とマスターへの愛でクリアします。具体的には大気の状態を測定するセンサーで強引に測定します。
……少々センサーの数値がおかしい気もします。具体的には苦味の数値が高いですが、料理において愛情は最高のスパイスだといいますし、大丈夫でしょう。きっと。いえ、愛情ではなく空腹だったでしょうか。まあ、どちらにせよ要件は満たしているので大丈夫。
これはきっとマスターも褒めてくれるでしょう。
そして、そして。
CPUの温度が急上昇。警告とともに冷却水が流し込まれれ、排気口から水蒸気が吐き出されます。マスターのことを考えるといつもこうなってしまいます。
私の顔もきっとひどいことになっているでしょう。誰もいないことを感謝し、マスターとの幸せな妄想をしつつ最後に皿にご飯を盛り付けてと……。
その時に私は致命的なミスに気がつきました。
ご飯を炊いていません。マスターが帰宅するまで残り15分。私は強い絶望感に襲われます。
ですがすぐに気を取り直し、急いで対策を考えます。
今からご飯を炊き始めてマスターが帰ってくるまでに間に合うかの検討に15%、食料庫にある代替品の検索に20%、自分の情けなさに対すつ自己嫌悪に30%、明日は海に行こうと急なストレスからの自己逃避に35%、マスターへの愛に50%。
CPUの使用率は合計150%を記録し、処理落ち。
システム応答なし、緊急シャットダウン。
……
……
……再起動。
一瞬だけ意識を失ってしまったようです。
自身のスペックの低さに呆れつつ、緊急シャットダウンの直前にはじき出された答えを実行に移します。備蓄庫にレトルトのご飯パック(賞味期限が近い)がありましたので、それを利用しましょう。大丈夫、今回は緊急時ですから理由として正当なはずです。
備蓄庫へ急行し、物を回収。電子レンジで温めてから、お皿に盛ります。
準備が完了したところでレーダーに反応。私は直ちに玄関へ移動し、待機します。
数分も経たないうちに扉を開きます。私は「おかえりなさい」と言いました。いつものようにマスターは「ただいま」と言ってくれます。私はこの瞬間が何よりも幸せなのです。
NEXT……149 - 参上、奇跡の交代要員
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885587277
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