049 - 黄昏戦記ラグナロク

第13話 『起動!深淵機ギンヌンガーG』


「おいおいおいおい、嘘だろ……。」

そいつは今まで相手にしてきた怪獣ヨトゥンどもとは比べ物にならないくらいの巨体で僕らの目の間に現れた。

既にユウ、マサト、ハルカの三人が墜とされている。それもわずか十数秒前のことだ。

爆炎すらも凍てつかせるその巨人は紛れもなく人類の敵フリームスルスの祖にして王たる者、即ちベルゲルミルであった。

数多のヨトゥンをモノともせず屠ってきたビブロスト防衛機士団ヘイムダルと対巨人独立遊撃隊トールの面々にとってもこの規模の脅威と対峙するのは初めてだ。


僕らトール第一小隊シアルフィはシステム:メギンギョルズに適合した者だけが選抜されたまさにエース部隊である。雷王機ヤルングレイプル改を受領できるのはシアルフィ隊員5人のみであり、その必殺の一撃ミョルニルストライクは殆どの巨人を一瞬にしてプラズマへと消し飛ばす威力を誇っていたのだ。


しかし現状はどうだろう、消し飛ばすどころかミョルニルを持ってしても傷すらつけることがやっとである。ましてや隊長と僕の2機しか残っていない……。

隊長は苦渋の決断をした。

「一旦退くぞ。」

幸いなことに奴の進行速度は非常にゆっくりであった。

わずかばかりの休息と亡骸すらない戦友の弔いを済ませた僕に隊長が声を掛けた。

「悪いがまたお前に重責を背負わせることになってしまった。」

その言葉に僕はすべてを察する。

「アレを、使うんですね……。」

「ああ、イ号機兵甲三型の第一級封印指定を解除すると通達があった。」

「了解しました。東ヒロヤ中尉、只今より深淵機ギンヌンガーGの操縦士コンダクターに着任します。」

「うむ、健闘を祈る。」


深淵機ギンヌンガーG、それは原初の巨人ユミルの亡骸を素体として建造された機動兵器であらゆる点に於いて他の兵器とは一線を画す存在である。その心臓部には動作原理未解明の第ニ種永久機関である奈落炉(アビスリアクター)が搭載されているがかつて暴走事故を起こし周囲半径20キロメートル圏内を一瞬にして"消失"させたため、封印処置を施されていたのだ。


何もしなければアスガルドは陥落する。それは誰の目にも明らかだ。だとすれば頼れるのは深淵機しかない、仮に、ミッドガルドの一般居住地が消失したとしても。上層部の苦渋の決断は僕の双肩に重くのしかかかった。

だがこれは、仲間の弔い合戦でもある。望むところだ。


『おかえりなさい、ヒロヤ』

操縦席に無機質な声が響く。そう、暴走事故を起こしたときの操縦士も他ならない僕自身だった。

補機から順に起動していく。コンディションは良好。各種計器異状なし。主機点火。奈落の心臓に焔が宿る。

『主機、補機ともに出力安定、アイドリング状態です。』

各種武装とのデータ同期も瞬く間に完了した。あのマッドサイエンティストクソジジイは封印中もこっそりシステムアップデートを重ねていたのだろう。

そしてヘッドギアを装着した。

『ニューロリンク、良好。いけます。』

対話型AIが告げると同時に指令室との通信回線をオープンにした。

「こちらシアルフ2、出撃準備整いました。」

「了解。ゲートN6より射出。120秒後に会敵の予定です。」

HMDには数分前に確認した作戦内容が再び表示されている。

ハンガーが動き巨大な車台に載せられ北側のカタパルトに移動した。

隔壁が開き、電磁加速装置の通電確認も済まされ、あとはブーストペダルを踏み込むだけである。僕の脳裏には戦友の顔が去来した。

そして非情なカウントダウンがゼロを告げ信号が緑に点灯した。

「行きます。」

慣性制御装置の許容範囲だがそれでも凄まじいGが僕を襲う。

ベルゲルミルとの再会はきっかり120秒後であった。

ヤツが全身から放つ誘導性ビーム攻撃も三人を粉砕した氷結攻撃すらもギンヌンガーGは奈落障壁によってことごとく相殺してみせる。

そして縮地の如き速さで距離を詰めると貯めた慣性力を一気に解放した鉄山靠を食らわせた。

ベルゲルミルは数キロ離れたビルに叩き付けられ、崩壊した瓦礫によってもいくらか手傷を負ったようだが、流石にこの程度で倒れる相手ではない。

歪ではあっても曲がりなりにも相手は人型をしている。つまり、急所もそう大して変わらない。僕はヨトゥン共との戦闘で学習していた。

「ならば!」

起き上がった隙を狙い間髪入れずに鳩尾に手甲に装備された爪を突き立てる。このインジェクターネイルには巨人に大して絶大な効果を発揮する毒"ユミルの血"を注入する注射針の役割も持っている。

ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

1カートリッジ4射分を一度に打ち切った。

拳を引き抜くと怪物は膝を着いた。

(勝った!)僕はそう確信した。奴の次の行動を見るまでの短い時間だけだったが。

なんとベルゲルミルは両手で肋骨を自ら大きく開いた。そこにあるのは当然急所中の急所、心臓である。

「黒い、心臓……。おいまてまさか!」

それは間違いなく奈落炉であった。ベルゲルミルはさらに肋骨を変形させて冒涜的な骨の砲身を作り上げるとギンヌンガーGの機体を両腕で拘束しその胸部に砲口を押し当てたのだ。

奈落炉2機の連鎖爆発はアスガルドすべてを消し去って余りある破壊をもたらすだろう。

そして……。


ザクッ……。


氷の巨人ベルゲルミルには燃える剣が突き立ち炎に包まれていた。

地に落ちる輝く影に見上げると、上空には剣の主と思しき陽炎に包まれた燃え盛る巨人の姿があった。

『識別完了。あれはスルトです。』


炎の巨人スルトは念話で話しかけてきた。

「(やあ、ミッドガルド人の諸君。ヨトゥンからの防衛ご苦労さま。今からアスガルドは我々ムスペルが管理する。速やかに明け渡したまえ。さすれば君たちの生存は保証しよう。)」


降伏勧告をするムスペルにアスガルド本部が出した結論は抗戦。ベルゲルミルに一撃でトドメを刺したスルトに東中尉はどう立ち向かうのか。

次回、黄昏戦記ラグナロク第14話『原初のルーン』お楽しみに。


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