029 - 超新星ノヴァルダーA

 媚薬の香が立ち込める、光一つ差さない暗黒の牢。そこに封じられた1人の美少女が、悩ましい声を漏らす。

 男の劣情を煽るその声が、牢を眺める下卑た異星人の嗜虐心を満たしていた。


「如何ですかなベラト姫。あらゆる女を虜にしてしまう、このサルガ特製の牢獄は」

「こんな、もの……気分が悪いだけです」


 ボブヘアーに切り揃えた銀髪を靡かせ、巨乳の少女は気丈に抗する。そんな彼女に痺れを切らしたのか、異形の異星人は牢に踏み込むと――その柔肌に触れ、舌を這わせた。


「あ、はぁっ!」

「……諦めて、このサルガのものになるのです。それが、ロガ星の王女たる貴女の定め。なぜそれが分からぬか!」


 その責めに、苦悶の声を滲ませながらも。少女は毅然とした眼差しで、男を射抜く。

 ――必ず光は差す。そう、信じて。


(ゲキ……お願い、早く……!)


 ◇


 外宇宙から侵略してきたロガ星人の軍団と、世界防衛軍の戦争は2年の時を経てようやく終結した。防衛軍のエース・明星戟みょうじょうげきとロガ星人の姫・ベラトの婚姻が、その証明となるはずであった。

 だが、ロガ軍抗戦派の将軍・サルガが戟の留守を狙って彼女を誘拐。軍の象徴である彼女を籠絡することで、戦争を続行しようと企てたのである。彼女を奪還するべく、黒髪の若き兵士は、防衛軍基地に保管されていたロガ星の超兵器に駆け寄っていた。


「戟……本当に行くのか?」

「終戦パレードで防衛軍の軍用機が出払ってる今、こいつの力を借りるしかないんだ。ダグ、お前は司令部に応援を要請してくれ!」

「わかった……死ぬなよ、絶対に!」


 戦友のエールを背に受けて、戟は眼前のスペースシャトルに乗り込む。ロガ星の兵器であるそのシャトルは、彼を乗せて成層圏まで飛び立つと――中身を開くように、変形を始めた。


「ノヴァルダー・リフトオフッ!」


 トリコロールカラーのシャトルは、次第に人型へとその姿を変え――やがて、18mにも及ぶ三色の巨大ロボへと変貌していく。戟の叫びとともにその変形は完了し、赤い瞳が眩い輝きを放った。

 ――全26機まで存在する、ロガ星の決戦兵器「ノヴァルダー」。その中で最も人型に近しい第1号こそが、この「ノヴァルダーAエース」なのだ。


「救ってみせる! 君が平和の証として、俺に託してくれた……このAで!」


 彼を乗せた鋼鉄の巨人は、背部と両肘のジェットを噴かせて、流星の如く宇宙の彼方へ飛び去っていく。

 ベラトが囚われている、宇宙戦艦を目指して――。


 ◇


 その頃、ベラトは媚薬責めによって憔悴しきっていた。汗ばんだ彼女の肢体に喉を鳴らし、サルガは彼女の上に覆い被さっていく。


「ふふ、この責めに屈しない女などいない。ロガ軍はまだまだ戦える!」

「あ、は、ぁ……」


 そして、完全に彼女を屈服させるべく……その唇を奪おうとした。だが、その時。


『ベラトーッ!』

「――!」


 この宇宙戦艦に迫る、戟の声が響き――我に返った彼女は、自分をモノにしようとしていたサルガを蹴飛ばし、拒絶する。その眼はすでに、かつての気丈さを取り戻していた。


「ば……馬鹿な!?」

「……こんな、責めに膝は折りません。私の心はもう、決まっています!」

「おのれ……何もかも、あの地球人のせいだ!」


 身体を惑わせるだけでは、彼女は堕とせない。そう思い知らされたサルガは激昂し、牢から走り去ると――艦内に格納されていた、多脚型ロボに搭乗する。蠍を模した第19号「ノヴァルダーSスコーピオン」だ。


 Sは勢いよく宇宙へ飛び出し、目前まで迫っていたAと対峙する。すでに戦艦の砲台は全て、彼の手で潰されていた。


「おのれ地球人、貴様さえいなければ!」

「彼女はもう、戦いを望んでいないんだ。終わらせてもらうぞ、全て!」

「黙れ! ――デストロイスパイクッ!」


 紫紺のボディを持つSの尾。その先端に備わる鋭利な槍が、Aの胸に迫る。背部と肘のジェットで姿勢を制御し、それをかわしたAは背後に回ると――胸のアーマーを開き、無数の赤い弾頭を連射した。


「流星群ミサーイルッ!」

「ぐはっ……おのれ!」


 その爆撃を浴びても、Sは諦めず――長い尾を薙ぎ払い、Aを打ち据える。そこから生まれた一瞬の隙を突き、ついにSの尾がAの胴体を巻きつけて捕らえてしまった。


「しまった……!」

「フハハ……終わりだ地球人! 今度こそトドメを刺してやる!」


 身動きが取れないAの頭上に、Sの鋭い尾の先が迫る。まさに絶体絶命――その時だった。


『ゲキーッ!』


 突如ロガ軍の戦闘機が飛来し、Sの顔面にレーザー砲を浴びせたのである。それはまさしく、ベラトの乗機であった。

 思わぬ一撃で怯んだSの隙を狙い、Aは尾を振り払うと――先端の槍を手刀で切り取ってしまった。


「ベラトッ!?」

「ゲキ、今です!」

「……よし!」

「ぐあぁ! ベラト姫、貴女はなぜ――!」


 そして、なおも戦おうとするSを黙らせるように。その顔面を、投げつけた槍で突き刺してしまった。

 そこから、トドメを刺すべく。Aは両肘のジェットを最大出力で噴射し――二つの鉄拳を突き出し突進していく。


「平和を愛する、この人と添い遂げる。それが、私が選んだ道だからです! ――サルガ!」

「シャトルブースター・パーンチッ!」


 その拳圧は突き刺さった槍をさらに深く沈め、Sのボディを押し潰し、破壊して行く。Sを貫通したAは、さらに直進し――巨大な宇宙戦艦をも、撃ち抜いて行くのだった。

 戦艦は轟沈し、全ての敵が宇宙の闇に爆散して行く。それがSと――将軍サルガの最期だった。


 ◇


 戦いを終えたAは、ベラトが乗っていた戦闘機を抱えて帰路についていた。Aのコクピットで身を寄せ合う2人は、互いの甘い高鳴りを感じつつ、地球を目指している。

 そんな彼らの前では、応援に駆けつけてきた防衛軍の艦隊が出迎える準備を終えていた。戦争を終わらせた英雄ヒーローの、凱旋である。


「終わったな。……さっきは助かったよ、ベラト」

「あなたなら必ず来てくれる。そう、信じていましたから」

「ベラト……」

「……ゲキ」


 ――だが、彼らは気づいていなかった。この会話がすでに、防衛軍艦隊に傍受されていることを。


「……終戦早々イチャついてんじゃねぇぞ……リア充爆発しろ!」


 散々気を揉んでいた戦友のダグが、艦内でボヤいていることを。


NEXT……030 - エコロジーなロボット

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885469473

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