048 - すぅぱぁろぼっ!JSパイロットはじめました。
赤いランドセルを背負った少女が俺の部屋で、俺の前で土下座をしている。
「わたしをロボットに乗せてください!」
可愛らしい小さな手で三つ指をついて深々と頭を下げる謎の少女。
動くたびに防犯ブザーに付けられたキーホルダーの鈴がチリチリと音を立てている。
「わたしは、小さい頃からお兄さんのことを観てきました! ネットの映像とか古い雑誌とかで何百回も!」
「はぁ……」
尊敬の眼差しを向けられ俺は二日風呂に入ってない頭を掻く。
俺は昔、巨大ロボットのパイロットをやっていた。
俺たちは《選ばれし子供》と呼ばれ、宇宙からの脅威である〈侵略者〉と戦い、勝利を勝ち取ったんだ。
「闇が生まれし時、光が宿る! あの決め台詞、何回も聞いたなぁ。グッズも色々と集めてて……これ、復刻された奴ですけど玩具も持ってます!」
少女はランドセルからプラモを見せる。ビーズで装飾された元のデザインが分からないほどキラキラしていた。
目を輝かせ「自分一人で作りました!」』と得意気に見せてくる。
「俺がここに住んでるって誰から聞いた?」
「当時の映像を頼りに、この辺りの人から聞き込みしまくって」
こんな小さいのに何という行動力の化身。
「今の俺はただのニートだ。ジイチャンの遺産と両親の仕送りで生活してる16歳無職、ヒーローじゃない、て言うか勝手に人の家に入るんじゃないっ!?」
言った後にしまった、と思い口を押さえる。
怒鳴った俺を見て少女の顔が歪み、目からポタポタと涙が流れていた。
「あぐ……あぅぅぅ、ごめんなざい……ぞんなっづもりじゃっ」
「んぁーもぅわかったよ見せるよ。だから泣くな、な?」
「……はい、えへへ」
泣き止むのが早い。こいつは小悪魔だ。
「一回開けるとただの押し入れ。これを閉じた状態で上に開くと」
廊下へ連れていき突き当たりの襖の前に待つ。何度か明け閉めすると先程までただの物置だった押し入れがエレベーターになった。
「すっごーい魔法みたい!」
女の子は不思議な仕掛けに驚きの声を上げる。
「……今回だけだからな。見たらさっさと帰るんだぞ?!」
狭いエレベーターに乗り込み三十秒。
チーン。
扉が開かれると、薄暗くだだっ広い部屋に出る。
俺は照明のスイッチを押すと大部屋に目映い光が照らされた。
そこは整備用のクレーンやリフトなどがひしめき合う格納庫だ。
「……うわぁお」
少女は目の前にそびえ立つ鋼鉄の巨神を見ると凄さのあまり言葉を失う。
手足などを鎖で拘束された鋼鉄の巨神。
それは赤と青と白のトリコロールカラーなザ・スーパーロボットデザイン。
人間の顔に酷似した顔面に、二つに伸びる金色の角。
ぶ厚い装甲に包まれる筋肉質なボディライン。
まさにヒーローたる姿をしていた。
「すごい……すごい、すごいすごいっ! 本物のスーパーロボットだぁ! 正真正銘のスゥパァロボッ!」
嬉しすぎて堪らず少女は巨神の足に飛び付くやいなや、装甲に柔らかな頬を擦り付ける。
「このひんやりとした鉄の感覚……車のボンネットじゃない、ロボットの足だぁ。あのあのっ、これ動かすことは出来ないんですか?!」
満面な笑みで俺を見る少女。一番聞きたくなかった言葉だ。
「……それは無理だ」
「ちょっとでいいんです! この格納庫の範囲だけでいいんですよ!?」
少女は俺に近付くと足にしがみついて必死で懇願する。振りほどこうとするも、少女の小さな体がしっかりと足を掴んで離れなようとしない。
その時、格納庫をけたたましいサイレンが響く。
「これは……侵略者の怪獣が出現?」
俺は機械のスイッチを押すと壁の巨大スクリーンに町の映像が映る。
「そんな馬鹿な。アイツらは俺達が倒したはず……何で出てくんだよ!?」
蜥蜴のような姿をした巨大怪獣が建物を踏み締め咆哮する。足元では人々が恐怖し、叫びながら逃げ惑っていた。
「し、出撃しないんですか?」
「言ったろ、俺はもう戦えない……」
「そんな……地球を救ったヒーローなんでしょ?」
「俺の代わりに乗りたきゃ乗ればいい。アレに乗りたいんだろ、乗って戦ってくれよ」
こんな小さな女の子に戦えだなんて男として恥ずかしい、と自分でも思う。
軽蔑してさっさと帰ってくれればそれでいいんだ。
「わかりました。わたしが乗って町のみんなを守りますっ!」
何を言い出すかと思えば、やはりこの娘はおかしい。
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「でも今、乗れって」
「だから、アレに乗るには選ばれし者じゃないと……」
俺は巨神の方を振り替える。
すると突然、巨神の目に光が灯り、体を拘束していた鎖を引き千切る。
『この光……新たな選ばれし子供が目覚めたか』
「うわぁお! 本当に動いてる!」
ぴょんぴょん、と跳び跳ねる少女は俺を揺さぶった。
『君が相棒の代わりの新しい契約者だな? 時は一刻を争う。私と一緒に戦ってくれるな?』
「本当にいいの? わたしが乗っても」
「……お前また」
俺の言葉を遮るようには格納庫が大きく揺れる。
『汚れなき正義の魂を持つ君なら大丈夫だ。さぁ、早く!』
「はい!」
巨神は少女を拐うように掴んで胸部に下ろすとハッチが開いた。
「わたし絶対に勝ちます! 町の平和を守って見せます!」
機械が勝手に作動して天井のゲートが開かれていく。少女が巨神に乗り込むと装甲の隙間から溢れんばかりの光が溢れ出す。
『「発進ッ!!」』
目映い閃光を放ち、少女と巨神は飛び立ってしまった。
残された俺は床に座り込んで項垂れる。
「本当は逆なんだよ台詞……光宿りしとき、闇が生まれるってのが正解なんだ」
あの勇敢な少女に俺は昔の自分を重ねる。
希望に満ち溢れ、正義の心を持つ汚れなき魂を持っている。
俺だって巨神にそう言われた。
「敵を生むのは光だった……封印したはずのに、お前はまだ戦いを求めるのか?」
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885483709
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