119 - カクヨムロボ勢やロボ読者の中で僕が一番うまくこの操縦法を使えるんだ!

カップ焼きそばのお湯を捨てても、ベコン! と鳴らないシンクの開発成功。

その瞬間、地球人類は『』として、銀河連邦ぎんがれんぽうへの加盟が許された。

そして今、地球人類は宇宙の同胞に迎えられ、新たな義務を背負った。

多くのオーバーテクノロジーと共に、地球が受け取った使命……それは――


『ジオラマイズ・レイヤー展開! 準備完了です!』

『目標は文京区を歩行中! 二足歩行型です』

『パターン・レッド! 迎劇対象と認定!』


むっちりとしたグラマラスな曲線美きょくせんびが、全裸そのままで浮かび上がった全身スーツ。首から下をピッチリ覆う、それはパイロットスーツではない。

何故なせなら、瑪瑙渦未めのううずみはパイロットではないから。

彼女は都庁職員、この春に就職したての新社会人である。

オペレーターの声が無数に行き交う中、暗い部屋の床が光り出す。そこには、立体映像ホログラフィで緻密な都内の一部、1/100スケールの文京区の姿が浮かび上がった。


「はぁ……まさか、ニュースで見てたアレの舞台裏が、こんな風になってるなんて」


溜息。

深い溜息。

だが、無駄に元気のいい声が渦未を急かす。


「渦未クン! 今こそ迎劇の時ッ! 君の初陣を勝利で飾りたまえッ!」

「はいはい、わーってますよー……あーあ、山田主任、爆発しないかな」

「なにか言ったかね? 因みにっ! 我輩は今日も! 迎劇が爆発だァ!」

「うざ……チョーうざいんですけど」


山田と名乗った男が上司になってから、二時間。

初登庁の初日から、渦未を非現実が包んでいた。

地球はもう、銀河連邦に加盟してから日常を失っていた。


「渦未クンもテレビで見ていただろう! これより、お客さんを迎劇するぞ!」

「……うーっす」

「テンションが低ぅい! さぁ……迎劇用モジュールを選べッ!」


天井から無数のオブジェクトが降りてくる。

クマのぬいぐるみ。

ブリキのロボット。

フランス人形。

どれも玩具おもちゃばかりだ。


「っと、これでいっか。ニュースで一番よく見るし」

「おお、渦未クン! を選ぶとは目が高いな! 火と火が合わさり炎と燃えれば、ガンダスターは無敵!」

「あ、これガンダスターって名前なんだ」


酷くシンプルながら強そうな、それはロボットのソフビ人形。

そして、立体映像がお客さんの姿を浮かべた。

それは、現実の文京区をリアルタイムで闊歩かっぽしている。1/100のこの部屋で50cm程だから、現実に街を破壊している姿は50mの巨体だ。

その人影が歩くだけで、立体映像の文京区は被害を鮮明に再現して崩れる。


「見給え、渦未クン! あれがお客さん……パターン・レッド、異星乳児ベイビアンだ!」


そう、乳児。

赤ん坊だ。

今この瞬間、文京区を巨大な赤子が破壊している。

地球は今、異星人の保育を引き受けている。それも、極めて特殊で希少な、である。

この銀河に宇宙保育所は八十京程しかない。

故に、宇宙待機児童があとを絶たないのだ。

そこで、大気を持つ惑星は自然と、宇宙待機児童を受け入れる義務がある。


「そう、があるだけに児童、なんてな! うははは!」

「うざ……っと、まあ、仕事は仕事だかんね。迎劇するよっ!」


特殊スーツを着た渦未が、ガンダスターのソフビ人形を持って立体映像の前に立つ。よく見れば確かに、赤ん坊の姿は地球の人間ではない。しかし、四肢があって歩いている。無邪気な表情まで、緻密に再現された姿だ。

渦未はガンダスターを赤ん坊の視界へ放り込む。


「ほーら、赤ちゃん。いい子でちゅね~! さぁ、遊んであげましゅよぉ~」


この瞬間、現実世界にもガンダスターが出現している。

赤子よりずっと小さいが、10cmのソフビ人形は同時に、現実では全高10mの巨大ロボットだ。それを外から操るのが、渦未の仕事なのである。


「いいぞっ、渦未クン! 異星乳児が反応している! 迎劇成功だ! そう、迎えて劇を演じる……今回の異星乳児はロリペド星の二百歳児、地球人類でいう二歳児程度だ!」

「うーす、了解……えっと、ほーら、お姉さんが遊んであげましゅよー! ……あっ」


だが、赤子はキャッキャと手を叩きながらも、まだ破壊の歩みを止めない。

夢中になって立ち止まってくれるくらい、渦未は迎劇……文字通り、手に持つ玩具で現実の巨大ロボットを操り、異星乳児を停止させなければいけないのだ。


「頑張れ、渦未クン! 保護者が迎えに来るまで、あと二時間だ! さあ、もっとダイナミックに……アクティブに! アクティブなハートに響く、ブンドド・システムを活用するんだ!」

「へいへい……あー、だるっ! やってらんない。けどっ、街がやばいっ!」


――ブンドド・システム。

正式名称はBaby Of Unknown Neighbor's DOminant DOll……直訳することの『未知なる隣人の赤子に対する支配人形』である。つまり、1/100でオペレーティング・ルームに再現された街の中で、玩具を通じて現実のロボットを動かし、迎劇する。

異星乳児の興味を引き、地球で預かる僅かな時間だけ動きを止めてもらうためのシステムだ。


「ほーら、飛ぶよー! ブーン!」


渦未が飛ばせば、実際のガンダスターが飛ぶ。

しかし、赤子は興味を持ちつつも進撃を止めない。

因みに、大勢の人が見てる中での仕事なので、渦未は滅茶苦茶めちゃくちゃ恥ずかしい。


「渦未クン! ダスタービームを使えっ! もっと興味を引くんだ!」

「ぅ……や、やだよ、恥ずかしい。けど、やるしかない! ええいっ、ほーら、ダスタービームでちゅよー!」


だが、現実でガンダスターがショック効果のあるビームを放った形跡はなかった。

それは、渦未の操縦……ブンドド・システムでの表現が足りないからだ。


「クソが……ええい、清水きよみずの舞台から飛び下りる気持ちでっ! ブーン! キーン! ゴォォォォー! くらえー、ダスタービームだぁー! ズバババババ! ドカーン! チュドドドー!」

「おお……おお! ナイスだ、渦未クン! 見ろ、異星乳児が動きを止めたぞ。ガンダスターを見ている! このまま迎劇し続けろ! あと二時間だ!」


死にたい。

むしろ、ずかぬ。

社会人一日目にして、渦未はめたいと思った。

だが、これが地球の各地で起こっている戦い……光速航行やワープ、ばしに同封された爪楊枝つまようじに指を刺されない技術等、オーバーテクノロジーを受け取った代価であり、宇宙の民の義務、使命なのだった。


NEXT……120 - ネイヴァーフレンズ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885554370

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