173 - 思い出のスタードルフィン
一体の
ドルフィン中央部のコクピットに座るカイルは、アステロイド帯に飛び込んだ時点で
しかし、重力値を監視しているモニタ――自機を中心に黒字に緑の蛍光ラインが円状に何重にも描かれた図の秩序ある描写が、不自然に揺れて跳ね上がった。
「知っているか、カイル」聞き慣れた男の声だ。「夢に出てきて欲しい人の写真を枕の下に入れて寝ると、その想いは実現するらしい」
宿命の男だった。なるほど、こいつはシリアスだ――
相手が彼であれば、そう簡単には逃がしてくれないだろう。
背後モニタに青白い光が映る。敵機が放つハチソン機関の
コウモリを操る男は通信機の向こうで続ける。
「お前が死ぬ瞬間を
カイルはドルフィンを急旋回させコウモリの射程から身を反らすと、その通信に応答した。
「夢で見たい人の写真を枕の下に、か。いい事を聞いた」
自分でも思っていた以上の余裕めいた声だった。窮地ではあるものの悪い気分ではない事に気付く。
ドルフィンの尾の付け根にも敵機と同じくハチソン機関が備わっている。カイルはスプライトを生じさせ、反重力斜面に機体を走らせる。途中、不意に正面に小惑星が顔を覗かせたが、ひれを操り緩やかにそれを泳ぎ躱した。我ながら惚れ惚れする操縦だ――思わず笑みが零れる。
「地球に帰ったら、おれの枕の下にはおれのイカした写真を入れてみよう。いい夢が見れそうだ」
相手からの電波が荒れる。
「舐めやがって。このナルシストが」
コウモリの頭部が淡く桜色に輝く。スプライトとはまた別の光――
「こいつはシリアスだ。連邦はそれを完成させていたのか」
小惑星帯の中をドルフィンが逃げ、コウモリがそれを追う。時折、桜色のビームが直線状に放たれる。それを浴びた小惑星たちがあるいは凍り、あるいは燃え盛り、あるいは分子崩壊し液体や霧になり、黄金になったり融合したりしている。
カイルはその光線のことごとくを避けてドルフィンを走らせた。共に時折スプライトを光らせて、反重力の斜面を下りながら。
***
**
*
火星で開かれた
カイルの類まれなドルフィン操縦技術は、実は
そして今日、連邦の中枢に謎のドルフィンが単機で現れた。
奇抜な飛行で艦隊を荒らしまわり、その隙に地球伝統派は木星の衛星拠点を制圧しようと動きだす。見え覚えのある飛行技術に、カオルは飛び出した。逃がすわけにはいかなかった。
*
**
***
「兄貴!」
カイルからの通信にカオルはハッとする。
度重なる〈場〉の生成で小惑星たちは荒れていた。四方八方へ飛び交う無数の岩石の中心にカオルの機体がある。逃げ場がない。スプライトを――しかし機体の限界を超えた操縦が祟ってか、逆に光は消失してしまった。ハッと息を飲み、瞬間的に死を覚悟する。その眼前にカイルの機体が現れた。ドルフィンのスプライトが発光し、〈場〉が小惑星をはじきとばす。
二つの機体は、しばし宇宙の沈黙を共有した。
やがてドルフィンは向きを変え、去っていく。
通信ノイズが跳ねた。
「おれもなにかいい事を教えてやりたいが、いい豆知識が浮かばなくてな。なにか知りたいことはあるかい? 兄貴」
遠ざかる敵機。薄れゆく通信。
「お前を消す方法だ……」震える声で、カオルは答えた。
「それはシリアスだ。……また走ろう、兄貴。できれば平和になった頃に、どこかのレースで」
最後に、画像が送られてきた。
それはレース後に兄弟で並ぶ、子供の頃の古い記念写真だった。
NEXT……174 - 劇場版 ギガゴリラVSカラテオーVS名も無き戦士VSアイナVSMedic07VSロビノくんVSR1-D1VSメカ掃除機VS真凛ちゃんVSホモ・サピエンス 集え!ぼくらのロボット達
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885626954
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