144 - アンドロイド惑星
あたり一面焼け野原だった。
草も木も家も店もビルも何もない、ただ茶色い地面が広がっているだけだった。
ここが日本の首都、東京だなんて誰が信じられるだろう。大都市だったころの面影はもはや微塵もなかった。
***
2030年、第三次世界大戦が勃発した。アメリカを筆頭に、イギリス、ロシア、フランス、ドイツ、中国、韓国、様々な国が武器を持って立ち上がった。もちろん日本も例外ではなかった。最初は攻めてきた敵を攻撃するだけの防衛でとどまっていた。平和意識の強い国民性がそうさせたのだ。しかし戦争が長引き、防衛だけでは国民を守れないと政府は判断した。日本は防衛から攻撃に転じた。大日本帝国さながら周りの国々を攻撃し攻め落とす。多くの欲望が渦巻き、血となって流れ出た。皮肉なことに、戦争が悪化するにつれて世界の技術は発達していった。たくさんの人を殺すための兵器が研究され、生み出された。日本の技術も急激に成長していった。そして日本の技術の結晶として生み出された兵器、それが人間と見分けがつかないアンドロイドだった。
彼らは人間とともに戦場へ出向き戦った。アンドロイドは人間と違い感情を持たず痛みも感じない。人を殺すことの罪悪感やストレスに潰されることもなく、けがや死の恐怖におびえることもない。彼らは死んだ目をして敵と呼ばれる人間を指示通りに殺してまわった。また彼らはスパイとしても重宝された。アンドロイドなので外見は自由に作ることができる。政府はそれをうまく利用し、アンドロイドを敵国に送り込んで情報を得た。日本にとってアンドロイドはなくてはならない存在になった。
彼らは人間によって生み出された人間を殺すための人間だった。
***
人類が自分たちの愚かさに気づいたときはもうすでに手遅れだった。多くの核兵器によって大気が汚染され、もはや地球は生物の住める星ではなくなった。
各国の首脳が顔を合わせ話し合った結果、宇宙に逃げるという結論に至った。しかしいくら技術が発達したとはいえ、全人類を宇宙に送るロケットを作るには時間も技術も足りなかった。金持ちや政治家たちはお金にものを言わせいち早く宇宙へ避難した。しかし宇宙に避難したとしても住める星が見つかるわけではなかった。
地球に残らざるを得なかった人々は喉をかきむしり死んでいった。こうして地球から生物が絶滅した。地球は死の星と化したのだった。
***
その生命体が何一ついないはずの東京のど真ん中で何かが動いた。
すべての生き物が絶滅したはずなのに、何故?
それはアンドロイドだった。美しい黒髪を持ったアンドロイドだった。彼女は焼け野原になった街を、むき出しになってひび割れた茶色い地面を、二度と色の変わることがない真っ黒に汚染された空を、自分以外に動くものがいない東京を見た。今の景色をインプットし、以前の東京のデータと比較する。明らかに彼女が知っている東京とは違っていた。
(何とかしなくては)
無意識に彼女はそう感じた。それが感情と呼ばれるものだと彼女はまだわからなかった。
穢れなき心の芽を持った彼女は一歩ずつ歩き始めた。美しい瞳でしっかりと前を見据えて。
NEXT……145 - 慰霊
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885587251
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