080 - 次元機神センチュリオン 第6話「世界最後の翼」
『
『何やってる、カスガ! 継戦はもう無理だ、離脱しろ!』
相変わらず頭の固い司令部が無線でやかましく呼び掛けてくる。あたしは構わずペダルを踏み込み、敵怪獣の熱線を避けて機体を敵に肉薄させた。
無人の街を震わす咆哮を上げ、獰猛な怪獣が
ここで離脱なんて出来るものか。滅びに向かうこの世界で、あたしが逃げたら誰が戦うんだ。
「ブーストソード、オン!」
あたしの声紋認証で封印を解かれ、分子を断ち切る科学の剣が機体の右腕部に伸びる。
「喰らえ!」
剣を振りかざした、その時。
「ッ!?」
あたしの視界を、刹那、濁った赤の閃光が塗り潰した。
「しまっ――」
それは怪獣が機体の左腕を放し、こちらへ向かって撃ち出してきた破壊熱線だった。敵はただの単細胞な獣ではなかったのだ。隙を突いて攻撃しようとしていたあたしが、逆に敵に引きつけられていた――!?
やられる!
あたしが反射的に目を閉じたとき――
【
聞いたことのない電子音声が、キャノピーの外で響いたかと思うと――
敵怪獣の
あたしが恐る恐る目を開けると、そこには。
太い胴体に太い手足。人間に
「ロボット……!?」
驚きに硬直するあたしの眼前で、その巨体は、怯む怪獣に連続で
炎を上げるビル街を土俵にして、そのロボットの猛攻が巨大な怪獣を追い詰めていく。あたしが目を見張っていると、突然、そのロボットの外部スピーカーから、どこか気取ったような男の声が響いた。
『ふむ、恐竜には恐竜。手に入れたばかりの力を試してみるとしましょう』
そして、信じられないことが起こった。相撲取りのようなロボットの巨体が、一瞬にして銀色の光に包まれると――
【
そのロボットの姿が、一瞬前までとはまるで違う、メカニカルな肉食恐竜を思わせるフォルムに変貌していたのだ。
「ええっ!?」
電子の咆哮を上げて敵怪獣に飛び掛かっていくその巨体を見て、あたしは開いた口が塞がらなかった。
あたしの
変形とか合体とか、そういった次元ではなく。
まるで、存在そのものを、別のロボットに変換しているような――!?
『レックス・ソニック!』
恐竜型のロボットは雄々しく大地を踏みしめ、敵怪獣目掛けて咆哮を放った。
激しい爆風があたしの機体の視界を奪った。白煙が晴れたとき、あたしの眼前に立っていたのは、相撲取りでも恐竜でもなく――
銀色を基調とした、ヒロイックなフォルムの巨大ロボット。
その胸部と四肢には時計の文字盤を象った
『それがこの世界のロボット……エアセイバーですか』
頭部のキャノピーが開き、銀髪の若い男が乾いた風に顔を晒した。
* * * * *
「チッ、変形機構もダメか」
あたしは瓦礫の街に機体を
「ここは、随分と荒廃した世界なのですね」
銀髪の男が近くの瓦礫に腰を下ろし、無遠慮な視線をあたしに向けている。
「悪かったわね。絶賛、侵略者サマに最後の抵抗中よ」
あたしは吐き捨てるように言ってやった。
「司令部で残ってるのはたった数人。パイロットも全員戦死して、残ったのは訓練生だったあたし一人。やってらんないよね」
「なるほど……。なかなか、素敵な物語だ」
男の口ぶりにあたしはカチンと来た。別の世界から来たのか何なのか知らないが、見世物じゃねーぞ、こっちは。
あたしが彼を無視して機体のチェックを続けようとしたとき、ずしんと巨大な震動が天地を揺らした。
「あれは――」
あたしは灰色の街を振り仰ぎ、そして見た。
先程のヤツの何倍もの巨体を持つ巨大な怪獣が、灼熱の熱線で無人の街を
そうはさせるか!
あたしは迷わず
「行くのですか? 戦いに」
「そうよ。もう、この世界で戦えるのはあたしと
あたしがキャノピーを閉めようとすると、男は「ふむ」と一声唸って、服のポケットに片手を突っ込む。
男が取り出したそれは、虹色に光り輝く一枚のカードだった。
「ふっ。どうやら、あなたの熱意に私のカードが応えたらしい」
「はぁ?」
彼の手元を見下ろし、あたしは驚いた。そのカードの表面には、あたしの機体――エアセイバーの姿が描かれていたからだ。
「何よそれ。あたしの機体じゃん」
「ええ。これで私はまた一つ、力を取り戻した」
男はよくわからないことを口にして、ひらりと身を
「アンタ、一体何なの!?」
あたしの問いに、ふっと男が口元を釣り上げたとき、彼の乗機の瞳に真紅の光が灯った。
「私自身は、あいにく、語るような記憶は持ち合わせていませんが……。この機体は次元の流れ者、センチュリオン。お見知りおきを」
銀色のロボットの
(続く)
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