参加作品
082 - ゆるロボ~ロボット通学JKの日常~1話
「え、うそ、遅刻っ!?」
少女はベッドから起きあがった。
寝癖は四方八方に散らかり、寝間着も着崩れている。
だが少女が気にしているのは時間だ。
学校の朝礼まであと三十分しかない。
「ちょっと待って、深呼吸をして、冷静に考えよう。うん。今からどうすれば間に合うか……? エンジンを八基に増やす? じゃあ――」
「カアナ? まだ間に合うでしょ?」
少女のことをカアナと呼ぶ女性は、部屋の扉を開けて立っていた。母だ。
エプロン姿で、今まで食事を作っていた雰囲気が漂っている。
「間に合う、かな?」
「喋るより 着 替 え ろ 動 け 」
母の一喝もあり、カアナはせっせと寝間着を脱いでセーラー服を着る。腕時計型のデバイスも装着する。
「じゃあ行ってきます~」
「朝ごはん、コックピットで食べなさい」
部屋から出ていくと同時に、カアナはパンと弁当箱と水筒を手渡された。
家を出ると、左手には長々と続く滑走路が、そして右手には十メートルほどの高さの二足歩行ロボットがいた。
ロボットは痩身な人間をそのまま巨大化させたような形をしており、眼や指まである。
カアナは腕時計型デバイスのボタンを指で押す。
するとロボットのコックピットが開いた。
『搭乗者、モリギシ・カアナ様。おはようございます』
搭乗するなり低い声の男性AIが喋りかけてくる。カアナはその声を無視して、足元から天井まで外の景色を映し出すため全天モニターに設定を変えた。
全天モニターからは滑走路、そして太陽が見える。モニター越しの景色はリアルだが、光で目を覆うことはない。
『最短ルートを設定しました。またコックピット内の音楽ですが、情操教育的要望により芥川也寸志の〔トリニタ・シンフォニカ〕が設定されています。演奏時間は約二十三分。金管、木管、打楽器が――』
「アニソン流してよ」
エンデュランとはロボットの呼称であり、同時にロボット内のAIの呼び名でもある。
カアナはエンデュランがAIなので、冷たい態度を取る。AIはそんなカアナに対して憤慨はしなかった。
『アニソンは情操教育上、よろしくないものと――』
「クラシックは寝ちゃうんだよね」
『――了解しました。カアナ様のコマンドを優先。楽曲を指定してください』
「美少女アニメ主題歌、電波系をランダム再生」
そうしてコックピット内のスピーカーから、大音量のアニソンが流れた。
「うん、やっぱりテンション上がるね。よし、じゃあそろそろ行こうか」
カアナは画面を確認する。
速度表示、電力残量、内燃機関表示、ルート設定、各種空気調整――毎日やっている発進確認なだけに、瞬時にその作業はおわった。
そして左右にあるレバーをつかみ、奥に傾け、赤色のイグニッションボタンを押した。
「……エンデュラン、発進!」
コックピットがごうんと大きく揺れる。六基あるエンデュランのエンジンが上手く稼働した証拠だ。
モニターに映る二階建てのカアナの家がだんだんと小さくなっていく。滑走路以外には、青々とした草花の絨毯が家の周囲に見える。
滑走路のおわりが近づく。
エンデュランは直立の姿勢を取り、エンジンの角度を変え、滑走路から勢いよく飛び立った。
眼下にはエンデュランの煙と、カアナの家のある浮島だけが見えた。
浮島は地面を露出させ、何ものにも束縛されることなく、名前の通り宙に浮いている。
外から見た浮島の土の色は、雲の白色と交わることがないので目立って見える。さらに、この郊外空域に関して言えば、他の浮島が少ない分、なおさら目立つ。
そんな中、エンデュランは延々と続く雲海の中を飛ぶ。
雲海の下にも雲海、雲海の上には今の科学では証明できない星の天蓋がある、その間を。
エンデュランは美少女アニメの電波ソングを流しながら、全自動運転で最短ルートを飛ぶ。カアナは黙々と母から渡されたパンを食べ、モニターの一部を鏡面化し、寝癖を整えはじめた。
しばらくすると、モニターの画面にアイコンが見えた。
『ご友人、ノナキさんから通信です。回線を開きますか?』
カアナはうなずいた。
すると、モニター内にツインテールの女の子の顔がでかでかと映し出された。
カアナの友人、ノナキだ。
「カアナ、そろそろ遅刻じゃない?」
「ノナキも、そこ、レマルギアのコックピットでしょ? 遅刻しそうなんじゃない?」
「うんにゃ、遅刻確定だから、私はゆっくりしてるよー」
「マイペースすぎるでしょ……」
「そう見える? でももうカアナの横にいるよ」
「え?」
モニターの横を見る。すると左側には、いつの間にかノナキの機体、レマルギアがいた。
同じく痩身な体型をしているが、デコレーションが施されている。描かれているのはアニメのイケメン男子キャラ。
ノナキにより、大手メーカーのロボットも痛ロボットと化していた。
「一緒に怒られようよーカアナ」
「いやだよ。説教長いし、内申に響く」
カアナとノナキは、くだらないお喋りをしばらく続けながら飛んだ。
しばらくすると、雲間から巨大な浮島が見えた。
露出する巨大で茶色の地層、そこから突き出ている無数の滑走路。
そこの滑走路には着陸する数々のロボットがいる。そんな地層と滑走路の上、つまり地上には島の全域を覆う、餅のように平べったい白銀色の巨大な建物が見えた。
その建物こそ、、カアナたちが通う『県立富士type-b高校』の建物だった。
富士type-b高校に近づくにつれて、浮島の数は増え、エンデュランのモニターには色鮮やかな商店街の看板も見えてきた。
カアナが住む郊外空域とは違い、都市空域になると、巨大な浮島が増え、行政、商業施設が充実してくる。
「カアナ、あと一分。いっそげー!」
ノナキが叫び、通信を切る。そしてエンジンを噴射させ、学校へと向かっていく。
「ああ、待って待って!」
全自動運転を半自動運転に切り替え、レバーをもち、ノナキのあとをカアナが追いかける。
AIのエンデュランは『ブレーキ推奨』と言うが無視をする。
学校の滑走路の着陸スピードは緩やかすぎる、というのが生徒たちの意見であり、遅刻寸前の人が守ることは滅多にない。
ただ、学校の風紀委員がそんな検挙なチャンスを逃すはずがなかった。
NEXT……083 - 訣戦の炎と、君の証
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885526666
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