114 - 逆さ夢の城における砂時計戦争

 乙女として世界に生まれ落ちたモノは、自らこそ乙女であると証明する為、15歳の誕生日の夜に夢の城に招かれ、砂時計戦争に臨む。決め事ルールは一つ。3分以内に対戦相手の乙女心の集束点心の臓を撃ち抜く事。撃ち抜けば乙女になるか、願いを一つ叶え《透明な砂》になるか。時間切れ、又は撃ち抜かれれば、何事も無く《透明な砂》に。砂時計戦争は2人の乙女が、が。


 今宵、運命と出逢う。


 ====


 メアリは自動人形オート・ドールである。人工知能付きの、だ。博士により、産まれてからほぼずっと眠っている。ウィルスにその体を蝕まれたから、と学習した。そんなメアリが今、豪華絢爛な部屋の天井に立っている。

「……此処は」

 メアリの問いには誰も応えない。そもそも、誰も居ない。部屋にはただシャンデリアが上方向に吊られているのみである。手には何故か銃が握られ、メアリはずっと上に吊られたカーテンを向いていた。


 ふと、鳥が傍に降り立つ。

「鳥の鳥の、鳥の知らせっ! 戦争が、もうすぐ始まる。もうすぐの幕開けと共に!」

 それだけ行って飛び去る。


 幕が————上がる!


 メアリの前には少女が立っていた。

 少女が口を開く。

「最後だね……メアリ……」

 メアリには何を言っているか分からない。

 鳥が声高に叫ぶ。

「前へ! まっすぐ前へ!」

 少女が歩き出したのを見てメアリも歩き出す。

「……理解不能です、あなたは誰ですか?」

 それに答えて、少女は腰に手を当て笑顔で言い放つ。


「あなたを、お姫様にする三人姉妹王子様の末っ子、よ」


 そして銃をメアリに向けて。


「あなたを砂にしてから、乙女にするの」

「————ッ!」

 空気を読まず鳥が叫ぶ。

「砂時計戦争、始まりっ!」

 少女は頰を膨らませ。

「もう、無粋な鳥さんね。私とメアリが話せる時間は、残り3分なのね」

 自己防衛プログラムにより、銃を構えるメアリ。

「どういうこと、ですか?」

 少女はメアリに微笑んで。

「じゃあ、御伽噺を話してあげる」

「……」

「銃は、下ろさなくていいわ。あなたは私を撃たないわ。そう設定されてるから」

「撃ちます。人工知能です」

「ふーん。まあいいや。じゃ、始めるね。むかしむかし、初老のおじいちゃん博士がいました。山奥に住んでいるから、なかなか孫も会いに来ない。それなら、と博士は寂しさを紛らわす為のを生み出しました。名前はメアリと言います」

「わ、たし……?」

「Yeah! でもね、あなたは生まれながらにして欠陥を抱えていたの。博士の寂しさを紛らわす為の道具なのに、完成させた途端に、あろうことかそれを増幅させた!」

 どこからか風が吹く。いつのまにか上空に現れた砂時計の砂がゆっくりゆっくり落ちていく。メアリは、自らの向ける銃の口が標的から外れていることに気がついた。

「だから博士は、ウィルスを媒介するあなたを眠らせた! 寂しさは世界の運命を変えるのだものっ!」

「ある時、そんな山奥に3人の娘がおじいちゃんに会いに来るの。まぁ、私たち孫ね。その時に娘たちは、倉庫に眠るメアリを見つけるの! 嗚呼、嗚呼、吃驚ショック! 何てこと! なんて美しいのかしらっ!」

「あなたが……私を?」

 少女にはメアリの声すら聞こえない。

「3人の娘は一目惚れラヴ・ショック! けれど、博士は動かそうとしない。そこで、私たちは企んだのっ! 私たちで、砂時計戦争を利用してあなたをお姫様にしよう、ってね! まず、長女はあなたに乙女の心を。これで、あなたは砂時計戦争への参加権を得た! 次に、次女は、あなたと、あなたと誕生日が全く同じ私が次の砂時計戦争でマッチングするように! 博士は機械の体をきっときっと寂しがるから! 優しい私たちはあなたを砂にして再構築する! そう、最後に私があなたを撃って、人間として蘇らせる!」

「残り、1分よ! イソイデ、イソイデ!」

「私は……人間になるのですか?」

「そうよ。博士の孫にね。寂しがりやだから、優しくしてあげて」

 逆さに吊るされたシャンデリアががしゃぁんと上方向に落ちる。

「時間が無いわ……最後に……美しいあなたにキスをしたいわ」

「キ……ス……?」

「そう、ねぇいいでしょう?」

「え、え。まぁ……」

「嬉しいッ!」

 メアリは口に蓋をされる。じっくりと、甘く甘く甘い味が感覚器官に広がって硬いはずの輪郭がとろけて溢れそうになる。

 メアリは、乙女の心を与えられた。それも……とてもとても清いものを。だから、メアリは

「————ッ、ふぅッ……ありがとうございます、私を祈ってくれて。だから————」


 メアリは少女の心の臓を撃ち抜いた。



 ====


 やぁやぁ、乙女の心を持つ機械、メアリ。あなたは真の乙女になりますか? それとも……願いを叶えて砂になりますか?


 願いを……叶えます。そして、多分おそらくきっと、私は砂にもなれない。


 へぇ。どうして?


 大きな願いを叶えるから。


 そう。じゃあ願いを聞こうか。


 。そして————。二度と、博士のように、自分のせいで孫を失い、悲しむ人が出ないように。


 結構。願いは————代償と共に受け入れられた。


 ====


 ちゅんちゅん、と鳥が鳴く。朝日が窓から差し込んでいる。

「おはよう、次女リリカ

 布団をひっぺがして長女アニーが言う。

「もっと寝てたいよぉ。ほら、末女シャーロットだってェ」

 抱き枕を抱えてリリカが言う。

「もうとっくに起きてるわ、今は水を飲みに。さぁさ、寝坊助さんも」

「そんなぁ、せっかくおじいちゃんの家なのに……」

 扉が開く。シャーロットが入ってくる。

「ほら、シャーロット、起きてるでしょ……」

 そしてアニーがシャーロットの方を向いて涙を流す。

「あら……? どうして泣いているの、シャーロット?」

 シャーロットは、俯いて告げる。

「何か、何か大切なものを、忘れたわ」

「どう言うこと?」

「わからない。けど、忘れたのよ。私たちは何かを」

「言われてみれば……」

「何かに、私たちは執心していたのに?」

 そのあと、えんえんと、3人揃って泣き出した。失うことの悲しみを。


 セカイを変えるかもしれないウィルスは、活動を始めて、セカイを変えました。自らの乙女を犠牲にして。


 めでたし、めでたし。


NEXT……115 - ザ・ディテクター

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885546026

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