076 - 「納研・よくわかる世界の歴史⑪~『天秤崩し』の顛末~」
善い事が起こる時というのはだいたいそれと同じくらいの悪い事が起きるのが世の常で、これを世界の
この世界でもそれは同様であるようで、最も顕著だったのは百年前に起きた出来事だろう。
それはまず、「悪い事」から始まった。当時は人間同士で争うことも多少はあれ、どこか牧歌的な雰囲気の漂う平和な世であったという。人類は万物の霊長を恥ずかしげもなく吹聴し、それを咎めるものは誰も無かった。
そこに現れたのが、昨今では
ある里にサンジュロという男がいた。男は変わり者で、ひがな農作もせず思案に耽っては、騎士でもないのに夜な夜な密やかに体を鍛えぬいていたのでまさにインテリマッチョであった。当然のように
まあ群衆というのは恐ろしいもので、
折しもその頃の世界は
ムラの人間も、
さて、ところがどっこいサンジュロであるが、
もともと人付き合いが壊滅だったので日々の糧は
加えて何故かサンジュロの住処にした山は迷宮怪が少なく、また弱かったので貴重なたんぱく源となった。何故も何も知ってたからその山に住み着いたんだけどね。
そんなわけで
ある日のことである。
彼の住処は筆舌に尽くしがたい惨状であった。彼が
それは上半分が透明、
……そう。
それは木ではなく、岩でもなく、金属のようで、でもやっぱ金属じゃねーな―という不思議な質感をしていたものだから、うっかりサンジュロが触った瞬間にぱっくり上半分が開いた。中には椅子が一脚とよくわからん棒が二本生えており、足元には馬の鐙のようなものが三つぶら下がっている。ついでに椅子には一人の
きれいに白骨化したそれは成人男性のようだったが食いでは無さそうだったので丁重に埋葬された。
ひと仕事を終え、そこらの
もともとインテリの気質があるサンジュロだ。こんなもの気にならないわけがない。乗り込むものであるというのはわかったので躊躇なく乗り込み椅子に腰かけると、勝手に上蓋が閉まって密閉された。おお、なんて感動しながら上蓋をそっと押し上げると簡単に開いたので一安心し、再び蓋を閉めて棒だとか鐙だとかを弄り倒すサンジュロ。どこをどう触ったのかはてんでわからないが、ふいに目の前に半透明の映像が投影されて少し驚く。
映像の中では壮年の男がなにやら口をべらべらと高速回転させていたが、
次いで再生された説明書についてはサンジュロの理解も及んだ。ピクトグラムは偉大である。説明書の通りに
さて、しかし件の骸は実は滅茶苦茶運がよかった。マジ神引き。まあ
彼が下山して目指したのは、古くから人も獣も近づかない穢れた地と呼ばれる一帯である。積年の鬱憤晴らしにムラの衆をまず皆殺しとかしなかった当たり彼はマジで人間に興味がなかったし、そもそもムラは半年前に迷宮怪の餌場になって地図から消えてた。ともかく、彼がそこを目的地に選んだのはいくつか理由があり、その中で最も大きな理由はその一帯の迷宮怪個体群密度クソ過密じゃね、というものだ。
サンジュロの直感的統計は見事に的中。穢れた地こそが迷宮怪の巣、迷宮怪の名の所以たる
彼の
あ、ついでになんか女神が解放されたら迷宮怪がクッソ弱くなって、おまけに迷宮から
これが、後に
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885526627
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