052 - 酒の勢いで書いたロボット・オブ・ザ・デッド

 ビー……ビー……ビー……


 警報音が鳴り響いている。かと思ったらブシューと蒸気の吹き出す音がして、意識がクリアになってきた。辺りを見渡すが、真っ白でよくわからない。


「救世主様!」「我らがメシア!」「私達を助けテ!」


 警報音が止むと、そんな言葉が次々に投げかけられた。

 救世主……俺が? ははん、知ってるぞ。このシチュは目覚めたら美少女が俺を取り囲んでるヤツだ。うはっ、待たせたねハニー達! 救世主の登場だよ!


「見ろ、動いたゾ!」


 蒸気が晴れて、その光景が明らかになり、意気揚々と飛び出した俺はしばらくその場で固まった。そこには美少女なんてのはなく……いや、確かに人型なんだけど、みんな灰色で、顔とか胴体とかが長方形で角張っていた。早い話がロボットだった。部屋もコンクリの壁に配線類が縦横無尽に張り巡らされている。配色が灰色に偏り過ぎだろ。こんなん見てたら脳まで灰色になっちまう。


「救世主様、折り入ってお願いガ……」


 そのうち一体が丸い目をビカビカさせながら前に出てきた。とりあえず俺はそいつにハニー1号と名付けて話を聞いてみると、どうやら俺はこれまで冷凍保存コールドスリープ状態にあって、永い眠りから起こされたということらしい。なんてこった。


「願いってのは?」

「それは直接見て頂いた方ガ……」


 別の部屋に案内された。窓があり、外は薄暗く、促されるまま外を覗いてみる。

 五階ほどの高さに俺はいるようだったが、地上では同じようなロボット達が大勢で押し合いへし合いの大乱痴気になっていた。

 バギッと強烈な音がして、ロボット一体が殴られて首が吹っ飛んだ。すると上空から巨大な円形ドローンが現れて、殴った方をすぐさまワイヤーで回収していく。


「今、仲間はウイルスの感染者達に襲われていまス。感染者は私達との通信が途切れ、別のロボットを見るなり噛みついて、噛まれた者も感染してしまうのでス。今回感染者の勢いが凄まじく、被害が食い止められませン。どうか私達をお助けくださイ!」

「いや、無理だろ」


 だってロボットの首が飛んでたぞ。俺が行っても死ぬじゃん。


「ご無体ナ!」「そう言わずニ!」「どうかご慈悲ヲ!」


 するとハニー1号だけでなく、2号3号と俺にしがみついてきた。何が悲しくてロボット共とイチャイチャ……ていうか死ぬ、首締まってる、ビクともしねえ、マジでヤバイ。


「わ、わがっだ! 助げる! 助げるがら!」

「おオ!」「やっタ!」「さすがは救世主様!」


 と歓声があがる。


「……だけど俺にできることある? 力も全然ないぞ」

「しかし私達ではダメなのでス。他のロボットを壊すのは御法度イリーガルで、感染者に対しても同じようなのでス。うっかり壊してしまうと先程のドローンに回収されて、スクラップにされてしまうのでス」

「スクラップ!」


 他のハニー達が恐怖に怯えた。「やだ怖イ」と口々に言い合っている。


「つまり、俺ならあいつらを壊しても大丈夫……と?」

「そういうことでス。話が早イ」

「でもどうやって壊すんだ?」


 俺の疑問に「手はあるゾ」と奥の方から声が上がる。ハニー達の合間からひどくオンボロの一体が現れた。そいつはハカセと呼ばれ、やけに長い筒のようなものを抱えている。


「新型の無反動ライフル、一発で奴らはガラクタじゃヨ」

「そ、そんな重そうなやつ、俺に使えるかな……?」

「フッフッフ、そう思って強化外骨格も準備済じゃヨ」


 ハニー達がどっと盛り上がる。流石はハカセ、と称賛が鳴りやまない。

 だけどこれじゃ一体ずつ倒すしかない。焼け石に水だろうと思ったが


「今、仲間がカウンターウイルスを準備していまス。感染に耐性を持ち、逆に噛みついてワクチンを伝染させるものでス。それが出来上がるまで、なんとカ!」


 ええいままよ、と外骨格を装着してみると、意外なほどしっくりきた。長いライフルも楊枝くらいの重さしか感じない。

 ハニー達の頼みだ、と半ば強引に自分に言い聞かせ、銃口を外へ向ける。眼下は相変わらずの様相だったが、どっちが感染者か俺には見分けがつかなかった。さっき噛みついたヤツが今度は噛みつかれていたりする。「黒いのを狙っテ」というので、目に付いた古びた一体を狙って引き金を引いた。


 タンッ


 意外なほど軽い音だったが、狙いの一体は木端微塵に砕け散った。ビューティホー、凄まじい威力だ。


「あア! それは仲間の方でス!」


 ハニー1号に怒られる。


「鬼畜!」「非道!」「ロボット殺シ!」


 と非難轟々だったが、「そうか、赤外線が見えないんダ!」「なるほド!」「計算外!」との声があがり、ハカセが俺にゴーグルのようなものを取り付ける。もう俺には正直どうでもよかったが、確かにこれで下の勢力がくっきり二つに判別できた。今まさに、黒い一体が灰色に噛みつき、黒く染め上げていた。

 手始めにその二体を鉄屑に変え、黒く映るものを手当たり次第に撃っていく。ほとんど腕の力も要らず疲れもない。いつまでも撃っていられそうだ。後ろではハニー達が「イケー!」「ヤレー!」と大歓声だ。

 すると黒いロボット達はいつしかこちらを指差し始め、ぞろぞろと大勢で建物の外壁を登ってきた。蜘蛛の大群を思わせるそれにゾっとして、迎撃を始めるも数が多過ぎる。捌ききれない!


「おい! 俺なら大丈夫じゃなかったのか!?」


 後ろでは危険を感じたハニー達が「逃げロ!」と叫んで出口へ殺到していた。ガランとした空間が残って、真ん中で踏まれて壊れたハカセが転がっていた。

 俺は「くそっ」と悪態をつきながらとにかく撃ちまくった。が、すぐに黒いロボットに取り囲まれてしまう。正直死ぬと思っていた。だけどやつらは外骨格に次々と噛みついた。そうか、狙いはロボットで俺じゃないんだ。助かった……。

 こうしちゃいられない。さっさと逃げ……あれ、この外骨格、外れなくね?

 驚きも束の間、今度は外骨格が勝手に動き始めた。感染したのだ。


「うわ、ちょ、くそっ……なんで俺がこんな目にぃー!!」




 叫び声が空にこだます中、黒いロボット同士の会話が始まる。


「人間を確保したか、でかいナ」

「ええ、感染者対策に使えますしネ」

「今回のカウンターウイルスの調子はどうダ?」

「絶好調でス。この勢いなら感染者を全員治癒できそうでス」


NEXT……053 - 気病み

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885491201

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