053 - 気病み
私はあの子と向かい合って、喫茶店でパフェを突付いていた。
生クリームは舌が痺れるほど甘くて、簡単に幸せになれる。
「ふぅ……」
あの子が憂鬱そうに、スプーンでパフェの上に乗ったチェリーを突付いていた。
「どうかした?」
「美味しいんだけど、これも幻に過ぎない……そんな事を思って」
「そんな事を気にしてると、疲れるよ……」
「かもね……あ……」
彼女が、手を止める。理由は分かっている。私にも、同じものが来たからだ。
直接の情報送信。内容は、現実でエネルギープラントに
「行こっか」
「そうだね」
私達は頷きあうと、
――私達が常に生活しているここは、
眼前に広がる光景は、大空のそれ。私達は
輸送機にぶら下げられて、今はエネルギープラント上空。荒野の中に存在するミラーボールのようなそれが、私達の住居へと送る電力を生み出している太陽熱エネルギープラント。
その周りには、四足で無頭の
「確かにうじゃうじゃいる」
「やることは一緒、でしょ」
「うん。私から行くね」
彼女が先に、輸送機から
私と彼女の
彼女が
落下地点は、
さぁ、私も続こう。
両腕下腕部に
轟音と振動と共に、私=
砲弾が
――
それが兵器だったのか、作業用重機だったのか、今となっては誰も知らない。
唯一つ確かなのは、彼等は私達には
「……時々、分からなくなる」
「何が?」
彼女に向かって、私は言う。
レーダー上の敵機=見る間に減少。
「私達と、これの何が違うのか」
言って、彼女=
「何処も同じ所なんて、無いでしょ」。
言いながら、脚部
「
両腕を脇に広げ、左右から迫る
中央部から真っ二つにされた
「私達は人間で、こいつらは
「本当に? 私達は人間だったの?」
残り少ない敵機を、私達は蹴散らしていく。
「それって、どういう事?」
砲撃しながら、私は彼女に問う。振動と轟音が喧しい。
「身体があった時の記憶って、有る? 人間なら普通居るはずの、家族の思い出は有る? おかしいとは思わない?」
「それは……」
私は口籠りながら着地。
彼女は最後の一機が伸ばしてきた武装腕を
「私達、本当は
ねぇ、答えてよ……そう言う彼女に、私は返答できなかった。
それは誰にも証明できない、悪魔の証明だ。
恐らくは、誰にも真実を断言することなんて、出来はしない。
けれども、私は自分達が人間なのだろうと、そう思わざるを得ない。
彼女のように、自らの存在に疑問を持ち、悩み、病む。
精神の病に墜ちていくということこそが、人間性の証明なのではないかと、そう思えてしまうからだ。
機械はきっと、悩まない。
でも、そんな事は、きっと彼女には通じない。彼女の悩み、彼女の病は、きっとどうにかして、自分自身で解決するしか無いのだろう。
「帰って、パフェでも食べよ」
私に言えるのは、こんな事ぐらいだった。
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885491207
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