105 - 小さな町工場のただのロボット
『私はロボット。プログラムされた通りに動くただの機械。』
ここはとある町にある小さな町工場。この町工場で53年間、毎日同じ動きを繰り返す 。それが私。
ここで働いているのは社長のお爺さんただ一人。私はお爺さんの利益のために毎日動き続けている。
今日もいつもと同じような一日が始まる。
……そう思っていた。
「ごめんください。」
昼の12時を過ぎた頃、この小さな町工場にスーツに身を包まれた男性が訪ねてきた。お爺さんが奥から出てきて対応をしている。男性の話を聞くにつれ、お爺さんの顔が厳しくなっていく。
一体なんだろうか?嫌な予感がする。
私は男性とお爺さんの会話に聞き耳を立てた。耳、無いけど……。
「ですから、この町工場を買い取りたいと言っているのです。」
男性はこの町工場を買い取るために訪れたビジネスマンだった。交渉のために、町工場を買い取るときの金額が提示される。それは私が動き続けても稼ぐことができる金額を遥かに越えていた。
何のために買い取ろうとしているかはわからない。けれどこの交渉が成立すれば私は間違いなく破棄されるだろう。
『……私はもう不必要な存在なのかな。』
とても悲しい気持ちになった。何故かはわからない。元々プログラム通りの動きを繰り返すただの機械なのだ。感情などあるわけがない。それでも、不必要という言葉が私に重くのしかかる。
そんな時だった。
「何度も言いますが、この町工場を売るつもりはありゃしません。お引き取りください。」
お爺さんの言葉が小さな町工場に響き渡った。はっきりとした、そして重みのある声。売るつもりは絶対ないという意思の表れだった。
その反応に気圧されたのだろう。男性は諦めたように町工場を後にした。
『どう…して…』
聞こえるわけがない。わかっている。でもどうしても呟かずにはいられなかった。しかしお爺さんは、まるで私の言葉は聞こえているような反応を示した。
「53年前、わしがこの町工場を立ち上げるときに周りからは猛反対を受けとったんじゃ。そのためなかなか支援をしてもらえなくてのぅ。あの時は辛かった…。」
「それでもなんとか資金を貯めてお主を買ったのじゃ。お主がいてくれたお陰でわしは今を生活出来ておる。お主にゃ今までずっと頼りになりっぱなしじゃのぅ。だからいくら積まれたところでそう易々と手放せる存在じゃないんじゃ。これからもお主はわしの大切なパートナーじゃ。お主もそう思うじゃろ?」
ホッホッホッとお爺さんは笑った。
私はこのとき初めて知った。ただの機械なのに、ただのロボットなのに、お爺さんからは我が子のように愛されていたことを。私の気持ちは固まった。
『私はロボット。プログラムされた通りに動くただの機械。』
しかしその気持ちは青空のように澄んでいた。
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885533232
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